4話 白と黒
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しばらくすると、そのほんとうのおそろしいことがおこりました。
電灯が、また消えたのです。そして、こんどは消えたまま、つかなくなったのです。まるで、黒ビロードをはりつめたような、しんのやみです。
何も見えません。めくらになってしまったようです。
すると、目の前に、黄色や、赤や、紫のモヤモヤしたものが、あらわれたり、消えたりしました。けむりの輪のような紫色の輪が、スーッと近づいてきたり、まっかなきれいな花が、目の前いっぱいに、パッと、ひらいたりします。
みなさんも、目をつむったとき、そういう色が見えることがあるでしょう。目のおくの神経の作用ですね。あれが、いま、やみの中の小林君の目の前に、ひじょうにはっきりした色で、あらわれたり、消えたりしているのです。
そのとき、あたりの空気が、うごくような気がしました。窓もドアも、ぴったりしめてあるのに、どこからか、かすかに風がふいてくるのです。
おばけの話をよむと、おばけが出るときには、どこからか、なまぐさい風がふいてくると書いてあります。これはそのおばけのまえぶれの風でしょうか。
でも、べつになまぐさくはありません。ごくかすかな空気のうごきが、ほおにかんじられるばかりです。
そのころは、もう、目がやみになれていたので、部屋の中の白っぽいものは、ぼんやりと見えるようになっていました。
テーブルの上の巻き物の銀の箱もうっすらと、見えているのです。小林君は、目をいっぱいに開いて、その箱をにらみつけていました。
すると、その銀の箱のまんなかのへんが、とつぜん、なんかでかくされたように、見えなくなったではありませんか。まんなかが黒くなって、銀の箱が二つに割れたように見えるのです。
黒い手が、銀の箱を、つかんだのではないでしょうか。
あっ、ごらんなさい。銀の箱が、動いています。テーブルの上を、スーッと、すべっていきます。そして、テーブルの外までいっても、下へ落ちないで、宙に浮いているではありませんか。
ああ、わかりました。まっ黒な手が、どこからかあらわれて、銀の箱をつかんで、もっていくのです。
いや、手ばかりではありません。何か、ぜんしんまっ黒なやつが、そこに立っているようです。まっ黒な怪物が巻き物をぬすみにきたのです。
「あっ、きさま、なにものだっ!」
小林君は、叫び声をたてて、その黒い怪物にとびかかっていきました。
たしかに、手ごたえがありました。人間の暖かいからだです。そいつは、まっ黒なきれを、頭からかぶって、手もそのきれに包んで、巻き物の箱を、盗み去ろうとしたのです。
「どろぼうっ、まてっ!」
小林君は、その目に見えないやつに、くみつこうとしましたが、あっとおもうまに、おそろしい力ではねとばされ、しりもちをついてしまいました。
そのときです。部屋のむこうの壁ぎわで、また、ふしぎなことがおこりました。ミイラの棺から、はみ出していた白いきれが、だんだん大きくなって、フワフワと、こちらへ近づいてきたのです。
ミイラが棺のふたをひらいて、歩き出したのでしょうか。そんなことがおこるはずはありません。では、いったい、どうして白いきれを、からだにまきつけた人間みたいなやつが、こちらへ、近づいてくるのでしょう。
小林君は、しりもちをついたまま、むねをドキドキさせて、やみの中を見つめていました。
すると、白いおばけが、サーッとやみの中を走って、黒いおばけにとびかかっていったようです。目には見えないけれども、黒いおばけも、これに立ちむかって、とっくみあいをはじめたようです。
銀色の巻き物の箱が、宙に浮いて、あっちへいったりこっちへいったりしています。白と黒のおばけが、箱のとりっこをしているらしいのです。
それから、おそろしい音を立てて、とっくみあいが始まりました。白いおばけと黒いおばけの、死にものぐるいの大格闘です。
バタンバタンと、おそろしい音が聞こえ、部屋の中を、ゴロゴロころがって、とっくみあっているのです。
「さあ、つかまえたぞ。小林君、スイッチをおしてくれっ!」
ああ、その声は明智探偵でした。白いおばけが、黒いおばけを、くみふせているらしいのです。すると、白いおばけは明智先生だったのでしょうか。
小林君は、ドアのそばの壁にある電灯のスイッチのところへ、手さぐりでちかづいて、それをおしました。しかし、電灯はつきません。もっと元のほうのスイッチが、きってあるのでしょう。
小林君はドアをたたいて、助けをよぼうとしました。そして、ドアをさぐりますと、あらっ、いつのまにか、ドアが開いているではありませんか。
小林君は外の廊下へ、とび出していって、大声で叫びました。
「だれかきてくださーい。エジプト室にどろぼうがはいったのですっ。」
なんども、叫んでいますと、だれかが階段を上がってくる音がして、廊下の向こうが、ボーッと、明るくなりました。懐中電灯を持った人がかけつけてきたのです。
その人が廊下へ、あらわれたのを見ると、所長の松波博士でした。博士は、今夜は、巻き物のことが心配なものですから、下の宿直室にとまりこんでいたのです。
「おお、小林君、何ごとです。どろぼうとは、何者です。」
「わかりません。明智先生が、どこかからあらわれて、どろぼうをつかまえたらしいのです。……元のほうのスイッチがきってあります。先生、それをいれてください。」
「よし、待っていたまえ。」
松波博士は、懐中電灯を小林君にわたして、もう一度階段をかけおりていきました。