3話 崩れる鬼影(3)
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「化物は何をしているんでしょ。ねエ警部さん」
と私は白木警部の腕を抑えて云いました。
「なんだか、ガタガタいってたのが、すこしも音がしなくなったようだネ」
そういって警部は、注意ぶかく頭をもちあげて、戸口の方を、見ました。月光は相変らず明るく硝子戸を照らしていましたが、先刻見えた怪しい鬼影は、まったく見当りません。唯空しく開いた入口の外は木立の影でもあるのか真暗で、まるで悪魔が口を開いて待っているような風にも見えました。
「さっき戸口がゴトゴト云ってたが、みな外へ逃げ出したのかも知れない」
警部の声を聞きつけたものか、あちらこちらから、部下の警官が匍いよってきました。
「警部どの。あれは一体人間なんですか」
「人間ですか。それとも人間でないのですか」
部下のそういう声は慄えを帯びていました。
「さア、私にはサッパリ見当がつかん」
警部も、今は匙を投げてしまいました。それから沈黙の数分が過ぎてゆきました。その間というものは建物の中がまるで死の国のような静けさです。
「オイみんな。元気を出せ」と警部が低いが底力のある声で云いました。「この機に乗じて一同前進ッ」
警部は左手をあげて合図をすると、自ら先頭に立ってソロソロと匍い出しました。ゆっくりゆっくり戸口の方へ躙り出てゆきます。息づまるような緊張です。
「オヤオヤ」
戸口のところまで達すると、警部は意外な感に打たれて身を起しました。
「どうしましたどうしました」
私も警官たちと一緒にガタガタと靴を鳴らして戸口へ飛び出しました。外は水を打ったように静かな眺めです。月光は青々と照り亙り、虫がチロチロと鳴いています。まるで狐に化かされたような穏かな風景です。
「居ないようだネ」と警部が云いました。その声から推して大分落着いてきたようです。「では全員集まれッ」
全員は直ちにドヤドヤと整列しました。私は恥かしかったので、横の方で気を付けをしました。
「番号ッ」
一、二、三、……と勇しい呼び声。
「オヤ、一人足りないじゃないか」
「一人足らん。誰が集まらんのだろう」
警官たちは不思議そうに、お互いの顔をジロジロ眺めました。
「ああ、あの男が居ない。黒田君が居ない」
「そうだ、黒田君が見えんぞ」
黒田君、黒田クーンと呼んで見たが、誰も返事をするものがありません。
「これは穏かでない。では直ちに手分けして黒田を探してこい。進めーッ」
警部は命令を下しました。一同はサッと其の場を散りました。家の中に引かえすもの、門の方へ行くもの、木立の中へ入るもの――僚友の名を呼びつつ大捜索にかかりました。しかし黒田警官の姿は何処にも見当りません。
「警部どの、見当りません」
「どうも可笑しいぞ。どこへ行ったんだろう」
そうこうしているうちに、庭の方を探しに行った組の警官が、息せき切って馳せ帰ってきました。
「警部どの。向うに妙な場所があります」
「妙な場所とは」
「池がこの旱魃で乾上って沼みたいになりかかっているところがあるんです。その沼へ踏みこもうという土の柔いところに、格闘の痕らしいものがあるんです。靴跡が入り乱れています。あんなところで、誰も格闘しなかった筈なんですが、どうも変ですよ」
「そうか、それア可笑しい。直ぐ行ってみよう」
警部さんはその警官を先頭に、急いで乾上った池のところへ駈けつけてみました。
なるほど入り乱れた靴の跡が、点々として柔い土の上についています。
警部さんは、懐中電灯をつけて、その足跡を検べ始めました。
「オヤこれは変だな。足跡が途中で消えているぞ」
「消えているといいますと」
「ほら、こっちから足跡がやってきて、ほらほらこういう具合にキリキリ舞いをしてサ、向うへ駈け出していって、さア其処で足跡が無くなっているじゃないか」
「成る程、これア不思議ですネ」
「こんなことは滅多にないことだ。おお、ここに何か落ちているぞ。時計だ。懐中時計でメタルがついている。剣道優賞牌、黒田選手に呈す――」
「あッ、それは黒田君のものです。それがここに落ちているからには……」
「うん、この足跡は黒田君のか。黒田君の足跡は何故ここで消えたんだろう?」
蘇生した帆村探偵
そのとき、門の方に当って、けたたましい警笛の音と共に、一台の自動車が滑りこんできました。
「何者かッ」
というんで、自動車の方へ躍り出てみますと、車上からは黒い鞄をもった紳士が降りてきました。待ちに待った小田原病院のお医者さんが到着したのです。
「なァーンだ」
警官は力瘤が脱けて、向うへ行ってしまいました。私はそのお医者さまの手をとらんばかりにして、兄の倒れている二階の室へ案内しました。
兄は依然として、長々と寝ていました。医者は一寸暗い顔をしましたが、兄の胸を開いて、聴診器をあてました。それから瞼をひっくりかえしたり、懐中電灯で瞳孔を照らしていましたが、
「やあ、これは心配ありません。いま注射をうちますが、直ぐ気がつかれるでしょう」
小さい函を開いて、アンプルを取ってくびれたところを切ると、医者は注射器の針を入れて器用に薬液を移しました。そして兄の背中へズブリと針をさしとおしました。やがて注射器の硝子筒の薬液は徐々に減ってゆきました。その代りに、兄の顔色が次第に赤味を帯びてきました。ああ、やっぱり、お医者さまの力です。
三本ばかりの注射がすむと、兄は大きい呼吸を始めました。そして鼻や口のあたりをムズムズさせていましたが、大きい嚔を一つするとパッと眼を開きました。
「こン畜生」
兄は其の場に跳ね起きようとしました。
「やあ気がつきましたネ。もう大丈夫。まァまァお静かに寝ていらっしゃい」
医者は兄の身体を静かに抑えました。
「おお、兄さん――」
私は兄のところへ飛びついて、手をとりました。不思議にもう熱がケロリとなくなっていました。
「やあ、お前は無事だったんだネ。兄さんはひどい目に遭ったよ」
兄は医者に厚く礼を云って、まだ起きてはいけないかと尋ねました。医者はもう暫く様子を見てからにしようと云いました。
その間に、私が見たいろいろの不思議な事件の内容を兄に説明しました。
「そうかそうか」だの「それは面白い点だ」などと兄はところどころに言葉を挟みながら、私の報告を大変興味探そうに聞いていました。
「兄さん。この家は化物の巣なのかしら」
「そうかも知れないよ」
「でも、化物なんて、今時本当にあるのかしら」
「無いとも云いきれないよ」
「どうも気味の悪い話ですが」と小田原病院の医師が側から口を切りました。「ここの谷村博士の研究と何か関係があるのではないでしょうか。博士と来たら、二十四時間のうち、暇さえあれば天体を覗いていられるのですからネ。殊に月の研究は大したものだという評判です」
「月の研究ですって」と兄は強く聞き返しました。今夜も大変月のいい夜でありました。
「博士が空中を飛んだり、あの窓から眼に見えないそして大きなものが飛び出したり、それから洋服の化物のようなものがウロウロしていたり、あれはどこからどこまでが化物なのかしら」
「それは皆化物だろう」
「兄さんは化物を本当に信じているの」
「化物か何かしらぬが、僕がこの室で遭ったことはどうも理屈に合わない。あれは普通の人間ではない。眼には見えない生物が居るらしいことは判る。しかし月の光に透かしてみると見えるんだ。僕はこの部屋に入ると、いきなり後からギュッと身体を巻きつけられた。呀ッと思って、身体を見ると、何にも巻きついていないのだ。しかし力はヒシヒシと加わる。僕は驚いてそれを振り離そうとした。ところがもう両腕が利かないのだ。何者かが、両腕をおさえているのだ。僕は仕方なしに、足でそこら中を蹴っとばした。すると何だか靴の先にストンと当ったものがある。しかし注意をしてそこらあたりを見るが、何にも見えないことは同じだった。そのうちに、呀ッと思う間もなく、僕の身体は中心を失ってしまった。身体が斜めに傾いたのだ。僕はズデンドウと尻餅をつくだろうと思った。ところが尻餅なんかつかないのだ。身体は尚も傾いて身体が横になる。そこで僕はもう恐怖に怺えきれなくなって、お前を呼んだのだ」
「ああ、あのときのことですネ」
「すると今度はイキナリ宙ぶらりんになっちゃった。足が天井にピタリとついた。不思議な気持だ。尚も叫んでいると、今度は頸がギュウと締まってきた。苦しい、呼吸が出来ない――と思っているうちに、気がボーッとしてきてなにが何だか、記憶が無くなってしまった。こんな不思議なことがまたとあろうか」
と兄は始めて、この博士の室で遭ったという危難について物語りました。
「眼に見えない生物が、兄さんに飛びかかったんだ」
「そうだ。そう考えるより仕方がない。僕はお医者さまが許して下されば、もっと検べたいことが沢山あるんだ……」
「そうですネ」と医者は時計を見ながら云いました。「大分元気がおよろしいようですが、では無理をしないように、すこしずつ動くことにして下さい」
「じゃ、もう起きてもいいのですネ」
兄は嬉しそうに身体を起しました。そして両腕を体操のときのように上にあげようとして、ア痛タタと叫びました。
二人連れの怪人
兄は元気になって、谷村博士の老夫人を見舞いました。
「まア、貴郎までとんだ目にお遭いなすってお気の毒なことです」
と老婦人は泪さえ浮べて云いました。
「おや、あれはどうしたのです」
兄は内扉の向うが、乱雑にとりちらかされてあるのを見て、老婦人に尋ねました。
「あれは衣服室なのです。それが貴郎、ゾロゾロ動き出して、まるで生物のように此の室を匍い廻ったんです」
「ああ、あの一件ですネ。するとあの洋服はすべて先生と奥様のだったというわけですね」
老婦人は黙って肯きました。
「いや、それですこし判って来たぞ」
「どう判ったの、兄さん」
「まア待て――」
兄はそれから庭へ下りてゆきました。警官たちは例の池のところに、何か協議を開いていました。私は兄を紹介する役目になりました。
「いや皆さん、私まで御心配かけまして」と兄は挨拶をしました。「ときに警官の方が一人見えないそうですね」
「黒田という者ですがネ。これ御覧なさい。この足跡がそうなんですが、黒田君は途中で突然身体が消えてしまったことになるので、今皆と智慧を絞っているのですが、どうにも考えがつきません」
「突然身体が消えるというのは可笑しいですネ。見えなくなることがあったとしても足跡は見えなくならんでしょう。矢張り泥の上についていなければならんと思いますがネ」
「それもそうですネ」
「僕の考えでは、黒田さんは、私を襲ったと同じ怪物に、いきなり掠われたんだと思いますよ。あの怪物が、追っかけた黒田さんの身体を掴え、空中へ攫いあげたのでしょう。黒田さんの身体は宙に浮いた瞬間、足跡は泥の上につかなくなったわけです。それで理窟はつくと思います」
「なるほど、黒田君が空中にまきあげられたとすればそうなりますネ。しかし可笑しいじゃないですか」と警部はちょっと言葉を停めてから「それだと黒田君の足跡のある近所に怪物の足跡も一緒に残っていなければならんと思いますがネ」
「さあそれは今のところ僕にも判らないんです」と兄は頭を左右に振りました。
そのとき家の方にいた警官が一人、バタバタと駈け出してきました。
「警部どの、警部どの」
「おお、ここだッ。どうした」
ソレッというので、先程の異変に懲りている警官隊は、集まって来ました。
「いま本署に事件を報告いたしました。ところが、その報告が終るか終らないうちに、今度は本署の方から、怪事件が突発したから、警部どの始め皆に、なるべくこっちへ救援に帰って呉れとの署長どのの御命令です」
「はて、怪事件て何だい」
「深夜の小田原に怪人が二人現れたそうです。そいつが乱暴にも寝静まっている小田原の町家を、一軒一軒ぶっこわして歩いているそうです」
「抑えればいいじゃないか」
「ところがこの怪人は、とても力があるのです。十人や二十人の警官隊が向っていっても駄目なんです。鉄の扉でもコンクリートの壁でもドンドン打ち抜いてゆくのです。そして盛んに何か探しているらしいが見付からない様子だそうで、このままにして置くと、小田原町は全滅の外ありません。直ぐ救援に帰れということです」
「その怪人の服装は?」
「それが一人は警官の帽子を着た老人です。もう一人は白い手術着のような上に剣をつった男で、何だか見たような人間だと云ってます。異様な扮装です」
「なに異様な扮装。そして今度は顔もついているのだナ」
「失礼ですが」と兄が口を挟みました。「どうやら行方不明の谷村博士と黒田警官の服装に似ているところもありますネ」
「そうです。そうだそうだ」警部は忽ち赤くなって叫びました。「じゃ現場へ急行だ。三人の監視員の外、皆出発だ。帆村さん、貴方も是非来て下さい」
ああ、変な二人の怪人は、小田原の町で一体何を始めたのでしょう。例の化物はどこへ行ったでしょう。奇怪なる謎は解けかけたようで、まだ解けません。
重大な手懸り
「帆村さん、身体の方は大丈夫ですか」
警官隊の隊長白木警部はそういって私の兄を優しくいたわってくれました。
「ありがとう。だんだんと元気が出てきました。僕も連れてっていただきますから、どうぞ」
「どうぞとはこっちの言うことです。貴方がいて下さるので、こんなひどい事件に遭っても私達は非常に気強くやっていますよ」
そこで私達も白木警部と同じ自動車の一隅に乗りました。私達の自動車は先頭から二番目です。警笛を音高くあたりの谷間に響かせながら、曲り曲った路面の上を、いとももどかしげに、疾走を始めました。
「兄さん」と私は荘六の脇腹をつつきました。
「なんだい、民ちゃん」と兄は久しぶりに私の名を呼んでくれました。
「早く夜が明けるといいね」
「どうしてサ」
「夜が明けると、谷村博士のお邸にいた化物どもは、皆どこかへ行ってしまうでしょう」
「さア、そううまくは行かないだろう。あの化物は、あたりまえの化物とは違うからネ」
「あたりまえの化物じゃないというと……」
「あれは本当に生きているのだよ。たしかに生物だ。人間によく似た生物だ。陽の光なんか、恐れはしないだろう」
「すると、生物だというのは、確かに本当なんだネ、兄さん。人間によく似たというとあれは人間じゃないの」
「人間ではない。人間はあんなに身体が透きとおるなんてことがないし、それから身体がクニャクニャで大きくなったり小さくなったり出来るものか。また足を地面につかないで力を出すなんておかしいよ。とにかく地球の上に棲んでいる生物に、あんな不思議なものはいない筈だ」
「じゃ、もしや火星からやって来た生物じゃないかしら」
「さアそれは今のところ何とも云えない。これぞという証拠が一つも手に入っていないのだからネ」
そういって兄は首を左右にふりました。そのとき私の頭脳の中に、不図浮び出たものがありました。
「あッ、そうだ。その証拠になるものが一つあるんですよ」
「えッ。何だって?」
「証拠ですよ」と云いながら私は大事にしまってあった手帛の包みをとり出しました。「これを見て下さい。兄さんが気を失った室の硝子窓のところで発見したのですよ。硝子の壊れた縁に引懸かっていたのですよ。ほらほら……」
そういって私は、あの白い毛のようなものを取り出して兄に見せると共に、発見当時の一伍一什を手短かに語りました。
「ふふーン」兄は大きい歎息をついて、白木警部のさし出す懐中電灯の下に、その得態の知れない白毛に見入りました。
「一体なんです。化物が落していったとすると、化物の何です。頭に生えていた白毛ですか」
「イヤそんなものじゃありません。――これはいいものが手に入りました。御覧なさい。これは毛のようで毛ではありません。むしろセルロイドに似ています。しかしセルロイドと違って、こんなによく撓みます。しかも非常に硬い。こんなに硬くて、こんなによく撓むということは面白いことです。覚えていらっしゃるでしょうネ。あの化物の身体は、自由に伸び縮みをするということ、そして透明だということ、――これがあの化物の皮膚の一部なのです」
「皮膚の一部ですって!」
「そうです。化物が硝子窓を破って外へ飛びだしたときに、剃刀よりも鋭い角のついた硝子の破片でわれとわが皮膚を傷つけたのです。そして剥けた皮膚の一部がこの白毛みたいなものなのです。いやこれは中々面白いことになってきましたよ」
兄はひとりで悦に浸っていました。
化物追跡戦
「とにかく此の白毛みたいなものを早速東京へ送って分析して貰うことにしましょう。分析して貰えば、これが地球上に既に発見されているものか、それとも他のものか、きっと見分けがつくと思いますよ」
「なるほど、なるほど。いいですね」と白木警部は大きく肯きました。
そのとき先頭に駆っている自動車から、ポポーッ、ポポーッと警笛が鳴りひびきました。
「なんだ」
「イヤ警部どの、もう小田原へ入りましたが、ちょっと外を御覧下さい」
「うむ――」
警部さんにつづいて私達も外を覗いてみました。両側の家は、停電でもしているかのように真暗です。しかしヘッド・ライトに照らされて街並がやっと見えます。ああ、何たる惨状でしょうか。
「うむ、これはひどい!」
「まるで大地震の跡のようだッ」
「おお、向うに火が見えるぞ」
近づいてみると、それは町の辻に設けられた篝火です。青年団員やボーイスカウトの勇しい姿も見えます。――警官の一隊がバラバラと駈けて来ました。
「どッどうした」白木警部は手をあげて怒鳴るように云いました。
「やあ、警部どの」と頤髯の生えた警官が青ざめた顔を近づけました。「やっと下火になりました。その代り、小田原の町は御覧のとおり滅茶滅茶です」
「二人の怪人というのはどうした」
「決死隊が追跡中です。小田原駅の上に飛びあがり、暗い鉄道線路の上を東の方へ逃げてゆきました」
「そうか、じゃ私達も行ってみよう」
自動車は更にエンジンをかけて、スピードを早めました。自動車に仕掛けてあるサイレンの呻りが、情景を一層物凄くしました。どんどん飛ばしてゆくほどに、とうとう小田原の町を外れて、線路と並行になりました。生ぐさい草の香が鼻をうちます。
「どうだ、見えないか」と警部は大童です。
「さアまだ見えませんが……呀ッ呀ッ、居ました、居ましたッ」
「どこだ、どこだッ」
「いま探照灯をそっちへ廻しますから……」
運転台のやや高いところに取りつけてあった探照灯がピカリと首を動かすと、なるほど線路上にフワフワと跟めきながら東の方へ走っている二つの白い人影がクッキリ浮かび出ました。一人の方は剣を吊っているらしく、ときどきピカピカと鞘らしいものが閃きます。
「居た、居た、あれだッ」と兄が叫びました。
「追跡隊はどうしたのだ。――うん、あすこの線路下に跼っている一隊に尋ねてみよう」
警部さんは汗みどろになっての指揮です。
「オーイ、どうして追駆けないのだ。元気を出せ、元気を――」
「いま最後の一戦をやるところです。見ていて下さい。駅の方から機関車隊が出動しますから……」
「ナニ、機関車隊だって……」
その言葉が終るか終らぬ裡に、ピピーッという警笛が駅の方から聞えました。オヤと思う間もなく、こっちに驀進してきた一台の電気機関車、――と思ったが一台ではないのでした。二ツ、三ツ、四ツ。機関車が四つも接がって驀進してゆきます。
なにをするのかと見ていると、上り線と下り線との両道を機関車は二列に並んで、二人の怪人に迫ってゆくのでした。いまにも二人の怪人は車輪の下にむごたらしく轢き殺されてしまいそうな様子に見えました。
「あッ」
と私はあまりの惨虐な光景に目を閉じました。
隧道合戦