神楽坂七不思議

1話 神楽坂七不思議

880字 約2分 2002年5月20日 公開

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()(なか)何事(なにごと)不思議(ふしぎ)なり、「おい、ちよいと煙草屋(たばこや)(むすめ)はアノ眼色(めつき)不思議(ふしぎ)ぢやあないか。」と()ふは(べつ)()()ツあるといふ意味(いみ)にあらず、「春狐子(しゆんこし)()うでごす、彼處(あすこ)會席(くわいせき)不思議(ふしぎ)(くは)せやすぜ。」と()ふも()(やう)(ひね)るのなり。(ひと)ありて、もし「イヤ不思議(ふしぎ)()つね、日本(につぽん)不思議(ふしぎ)だよ、()うも。」と(かた)らむか、「此奴(こいつ)失敬(しつけい)なことをいふ、陛下(へいか)稜威(みいづ)軍士(ぐんし)忠勇(ちうゆう)()つなアお(めえ)あたりまへだ、(なに)不思議(ふしぎ)なことあねえ。」とムキになるのは(おほ)きに野暮(やぼ)號外(がうぐわい)()てぴしや/\と(ひたひ)(たゝ)き、「不思議(ふしぎ)不思議(ふしぎ)だ」といつたとて()つたが不思議(ふしぎ)であてにはならぬといふにはあらず、こゝの道理(だうり)噛分(かみわ)けてさ、この七不思議(なゝふしぎ)()(たま)へや。

東西(とうざい)最初(さいしよ)(きゝ)(たつ)しまするは、

「しゝ(でら)のもゝんぢい。」

これ大弓場(だいきうば)爺樣(ぢいさん)なり。(ひと)()へば顏相(がんさう)をくづし、一種(いつしゆ)特有(とくいう)(こゑ)(はつ)して、「えひゝゝ。」と愛想(あいさう)(わらひ)をなす、其顏(そのかほ)()ては泣出(なきだ)さぬ嬰兒(こども)を――、「あいつあ不思議(ふしぎ)だよ。」とお花主(とくい)可愛(かはい)がる。

次が、

勸工場(くわんこうば)逆戻(ぎやくもどり)。」

東京(とうきやう)()(いた)(ところ)にいづれも一二(いちに)勸工場(くわんこうば)あり、(みな)入口(いりぐち)出口(でぐち)(こと)にす、(ひと)牛込(うしごめ)勸工場(くわんこうば)出口(でぐち)入口(いりぐち)同一(ひとつ)なり、「だから不思議(ふしぎ)さ。」と()いて()れば(つま)らぬこと。

それから、

藪蕎麥(やぶそば)青天井(あをてんじやう)。」

下谷(したや)團子坂(だんござか)出店(でみせ)なり。(なつ)屋根(やね)(うへ)(はしら)()て、(むしろ)()きて(きやく)(せう)ず。時々(とき/″\)夕立(ゆふだち)蕎麥(そば)(さら)はる、とおまけ()はねば不思議(ふしぎ)にならず。

奧行(おくゆき)なしの牛肉店(ぎうにくてん)。」

(いろは)のことなり、()()れば大廈(たいか)嵬然(くわいぜん)として(そび)ゆれども奧行(おくゆき)(すこ)しもなく、座敷(ざしき)(のこ)らず三角形(さんかくけい)をなす、(けだ)幾何學的(きかがくてき)不思議(ふしぎ)ならむ。

島金(しまきん)辻行燈(つじあんどう)。」

(いへ)小路(せうぢ)引込(ひつこ)んで、(とほ)りの(かど)に「蒲燒(かばやき)」と()いた行燈(あんどう)ばかりあり。()(はや)(やつ)がむやみと飛込(とびこ)むと仕立屋(したてや)なりしぞ不思議(ふしぎ)なる。

菓子屋(くわしや)鹽餡娘(しほあんむすめ)。」

餅菓子店(もちぐわしや)(みせ)にツンと()ましてる婦人(をんな)なり。生娘(きむすめ)(そで)(たれ)()いてか雉子(きじ)(こゑ)で、ケンもほろゝ無愛嬌者(ぶあいけうもの)其癖(そのくせ)(あま)いから不思議(ふしぎ)だとさ。

さてどんじりが、

繪草紙屋(ゑざうしや)四十(しじふ)島田(しまだ)。」

女主人(をんなあるじ)にてなか/\の曲者(くせもの)なり、「小僧(こぞう)や、紅葉さん……」などと一面識(いちめんしき)もない大家(たいか)()()こえよがしにひやかしおどかす(やつ)()()れないから不思議(ふしぎ)なり。

明治二十八年三月

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