火山の話

1話 一、はしがき

1,274字 約3分 2012年4月14日 公開

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 わが日本(につぽん)地震(ぢしん)(くに)といはれてゐる。また火山(かざん)(くに)ともいはれてゐる。地震(ぢしん)火山(かざん)(おほ)いからとて御國自慢(おくにじまん)にもなるまいし、(つよ)地震(ぢしん)(はげ)しい噴火(ふんか)度々(たび/\)あるからとて、外國(がいこく)(ほこ)るにも(あた)るまい。實際(じつさい)この(ごろ)のように地震(ぢしん)火災(かさい)噴火(ふんか)などに(なや)まされつゞきでは、(かへ)つて(はづ)かしい(かん)じも(おこ)るのである。たゞわれ/\日本人(につぽんじん)としてはかような天災(てんさい)(くつ)することなく、(むし)人力(じんりよく)(もつ)てその災禍(さいか)をないようにしたいものである。かくするには地震(ぢしん)火山(かざん)何物(なにもの)であるかを(きは)めることが第一(だいゝち)である。所謂(いはゆる)敵情偵察(てきじようていさつ)である。敵情(てきじよう)(こと/″\)くわかつたならば、災禍(さいか)をひき(おこ)すところのかの暴力(ぼうりよく)()(くだ)くことも出來(でき)よう。この目的(もくてき)(たつ)してこそわれ/\は他國人(たこくじん)(たい)して(はづ)かしいといふ(かん)じから(はじ)めて(まぬか)()られるであらう。

 火山(かざん)地震(ぢしん)強敵(きようてき)である。強敵(きようてき)()(おそ)れずとは戰爭(せんそう)だけに必要(ひつよう)格言(かくげん)でもあるまい。(むかし)(ひと)はこれらの自然現象(しぜんげんしよう)()なり(おそ)れたものである。火山(かざん)噴火(ふんか)鳴動(めいどう)神業(かみわざ)(かんが)へたのは日本(につぽん)ばかりではないが、(とく)日本(につぽん)においてはそれが()なり徹底(てつてい)してゐる。まづ第一(だいゝち)に、噴火口(ふんかこう)(かみ)()(たま)へる靈場(れいじよう)心得(こゝろえ)たことである。(たと)へば阿蘇山(あそざん)活動(かつどう)中心(ちゆうしん)たる中岳(なかだけ)南北(なんぼく)(なが)噴火口(ふんかこう)(ゆう)し、通常(つうじよう)熱湯(ねつとう)(たゝ)へてゐるが、これが數箇(すうこ)區分(くぶん)せられてゐるので(きた)(いけ)阿蘇(あそ)開祖(かいそ)(とな)へられてゐる建磐龍命(たけいはたつのみこと)靈場(れいじよう)とし、(なか)(いけ)(みなみ)(いけ)を、それ/″\奧方(おくがた)阿蘇津妃命(あそつひめのみこと)長子(ちようし)たる速瓶玉命(はやみかたまのみこと)靈場(れいじよう)(かんが)へられてあつた。丁度(ちようど)イタリーの南方(なんぱう)リパリ群島中(ぐんとうちゆう)一火山島(いちかざんとう)たるヴルカーノ(とう)をローマの鍛冶(かじ)(かみ)たるヴルカーノの工場(こうじよう)(かんが)へたのと同樣(どうよう)である。(さら)日本(につぽん)では、火山(かざん)(ぬし)靈場(れいじよう)俗界(ぞつかい)(けが)されることを(いと)はせ(たま)ふがため、其處(そこ)(きよ)める目的(もくてき)(もつ)時々(とき/″\)爆發(ばくはつ)(おこ)し、(あるひ)鳴動(めいどう)によつて神怒(しんど)のほどを()らしめ(たま)ふとしたものである。それ(ゆゑ)にこれ()異變(いへん)がある(たび)に、奉幣使(ほうへいし)(つかは)して祭祀(さいし)(おこな)ひ、(あるひ)神田(しんでん)寄進(きしん)し、(あるひ)位階(いかい)勳等(くんとう)(すゝ)めて神慮(しんりよ)(なだ)(たてまつ)るのが、朝廷(ちようてい)慣例(かんれい)であつた。(たと)へば阿蘇(あそ)建磐龍命(たけいはたつのみこと)正二位勳五等(しようにいくんごとう)にのぼり、阿蘇津妃命(あそつひめのみこと)正四位下(しようしいげ)(すゝ)められたが(ごと)きである。

 天台宗(てんだいしゆう)寺院(じいん)は、高地(こうち)(おほ)(まう)けてあるが、火山(かざん)もまた彼等(かれら)(せん)()れなかつた。(したが)つて(めづら)しい火山現象(かざんげんしよう)の、これ()僧侶(そうりよ)によつて觀察(かんさつ)せられた(れい)(すくな)くない。阿蘇(あそ)靈地(れいち)からは()(たま)(みつ)()()たともいひ、また性空上人(しようくうしようにん)霧島(きりしま)頂上(ちようじよう)參籠(さんろう)して神體(しんたい)見屆(みとゞ)けたといふ。それによれば周圍(しゆうい)三丈(さんじよう)(なが)十餘丈(じゆうよじよう)(つの)枯木(こぼく)(ごと)く、()日月(にちげつ)(ごと)大蛇(おろち)なりきと。鳥海(ちようかい)(また)阿蘇(あそ)噴火(ふんか)大蛇(おろち)(しば/\)(あらは)れるのも、迷信(めいしん)から(おこ)つた幻影(げんえい)(ほか)ならないのである。ハワイ(とう)火山(かざん)キラウエアからは女神(めがみ)ペレーの(なみだ)毛髮(もうはつ)採集(さいしゆう)せられ、鳥海山(ちようかいさん)(いし)矢尻(やじり)噴出(ふんしゆつ)したといはれてゐる。神話(しんわ)にある八股(やまた)大蛇(おろち)(ごと)きも(また)噴火(ふんか)關係(かんけい)あるものかも()れぬ。

 火山(かざん)(かん)する迷信(めいしん)がこのように國民(こくみん)腦裡(のうり)支配(しはい)してゐる(あひだ)學問(がくもん)(まつた)進歩(しんぽ)しなかつたのは當然(とうぜん)である。(むかし)雷公(らいこう)今日(こんにち)我々(われ/\)忠實(ちゆうじつ)使役(しえき)をなすのに、火山(かざん)(かみ)のみ頑固(がんこ)におはすべきはずがない。火山地方(かざんちほう)地下熱(ちかねつ)利用(りよう)などもあることだから、使(つか)(よう)によつては人生(じんせい)利益(りえき)(あた)へる時代(じだい)もやがて到着(とうちやく)するであらう。

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