3話 ルコント・ドゥ・リイル 眞晝
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「夏」の帝の「眞晝時」は、大野が原に廣ごりて、
白銀色の布引に、青天くだし天降しぬ。
寂たるよもの光景かな。耀く虚空、風絶えて、
炎のころも纏ひたる地の熟睡の靜心。
眼路眇茫として極無く、樹蔭も見えぬ大野らや、
牧の畜の水かひ場、泉は涸れて音も無し。
野末遙けき森陰は、裾の界の線黒み、
不動の姿夢重く、寂寞として眠りたり。
唯熟したる麥の田は黄金海と連なりて、
かぎりも波の搖蕩に、眠るも鈍と嘲みがほ、
聖なる地の安らけき兒等の姿を見よやとて、
畏れ憚るけしき無く、日の觴を嚥み干しぬ。
また、邂逅に吐息なす心の熱の穗に出でゝ、
囁聲のそこはかと、鬚長頴の胸のうへ、
覺めたる波の搖動や、うねりも貴におほどかに
起きてまた伏す行末は沙たち迷ふ雲のはて。
程遠からぬ青草の牧に伏したる白牛が、
肉置厚き喉袋、涎に濡らす慵げさ、
妙に氣高き眼差も、世の煩累に倦みしごと、
終に見果てぬ内心の夢の衢に迷ふらむ。
人よ、爾の心中を、喜怒哀樂に亂されて、
光明道の此原の眞晝を孤り過ぎゆかば、
《の》がれよ、こゝに萬物は、凡べて虚ぞ、日は燬かむ。
ものみな、こゝに命無く、悦も無し、はた憂無し。
されど涙や笑聲の惑を脱し、萬象の
流轉の相を忘ぜむと、心の渇いと切に、
現身の世を赦しえず、はた詛ひえぬ觀念の
眼放ちて、幽遠の大歡樂を念じなば、
來れ、此地の天日にこよなき法の言葉あり、
親み難き炎上の無間に沈め、なが思、
かくての後は、濁世の都をさして行くもよし、
物の七たび涅槃に浸りて澄みし心もて。