17話 怪塔王(17)
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岩窟内での、めずらしい対面!
大利根博士とむかいあって、帆村探偵の胸はまだおどりつづけています。博士の説明によりますと、博士は怪塔王のため、ここへつれこまれたということです。
「それはずいぶんお苦しみのことだったでしょう。僕たちが見つけた以上は、身をもっておまもりします。ご安心ください」
帆村は、博士をなぐさめるために、そういわないではいられませんでした。
「ああ、どうもありがとう。君たちに救われるとはなんという幸運だろう」
博士は、ことばすくなにこたえました。
「大利根博士、僕はもうすこしで貴方にとびかかるところでしたよ。なぜって、博士はさっき怪塔王のおちたその岩の割れ目から出てこられたものですから、僕はてっきり怪塔王が息をふきかえし、匐いだしたことと早合点したのです。ほんとにあぶないところでした」
「うん、こっちも驚いたよ。いきなり君に声をかけられたのでね」
そこで帆村探偵は、言葉をあらため、
「博士、貴方は今までどこに起伏していらっしゃったのですか」
と尋ねた。
「うん、それはその、何だよ。君も知っているだろうとおもうが、われわれが今立っているところの下に、海底牢獄がある。それは皆で五つ六つあるそうだが、その一つに押しこめられていたのだ。そこを何とかして逃げたいといろいろ計略をめぐらした結果、やっと今日は逃げだすことができたのだ。こんなにうれしいことはない」
「そうでしょうとも。お察しします。博士が無事だということが内地に知れわたると、皆びっくりすることでしょう。そしてどんなによろこぶかしれません」
それを聞くと、博士はほっとため息をついて、うなずきました。
5
「それで博士、貴方が、その岩をこっちへのぼっておいでになるとき、怪塔王の悲鳴をお聞きになりませんでしたか」
帆村探偵は、さっきから聞きたいとおもっていたことを大利根博士に問いただしました。
すると博士は、大きくうなずき、
「ああ、たしかに聞いたとも。たいへんな声が頭の上で聞えた。と思うと、人間が上から降ってきて、谷底へおちて行った。あれが怪塔王だったのか」
帆村は、それを聞いて目をかがやかし、
「ああ、博士もそれを御覧になったのですか。それは幸でした。それで怪塔王は、結局どのような最期をとげましたでしょうか」
「うん、それは――」と博士は、くるっと目をうごかし、「それははっきり覚えていないが、なんでもその怪塔王の体は、谷底の岩の上に叩きつけられた。そのとき、くるしそうな声を出した。そこで岩につかまっていたわしは、こわごわ下をのぞいた、ところがそのとき怪塔王の姿は、岩の上になかった」
「ほほう、すると怪塔王は逃げたのでしょうか」
「いや、そうではないよ」と博士はつよく首をふって、「怪塔王の体は一たん岩にあたってから、勢あまってはねあがり、ざんぶと水中におちたのだ.あそこは、とても逃げられるようなところではない。尖った岩の間を縫って、冷たいまっくろな海水が、渦をまいて行ったり来たりしている。この世の地獄みたいな洞穴なんだ。怪塔王とて、とても助りっこはないのだ」
博士は、怪塔王の死をかたく信じている。
帆村探偵は、大きくうなずき、
「なるほど、そこに見える岩の割れ目のむこうは、そういう恐しいところなのですか。しかし悪運つよい怪塔王のことですから、ひょっとするとふしぎに一命を助っていないものでもありません。これから僕は谷底へ下りて、怪塔王の死体が浮いていないか、調べてみます」
滑る断崖
1
帆村探偵は、あくまで怪塔王の死をつきとめる決心でありました。いま大利根博士の語ったところによると、怪塔王は岩の上に落ちて体をひどくうち、それからまっくろな海水が渦をまいている淵へおちたといいますが、帆村は、一応どうしても自分でしらべる気です。
「大利根博士、では、案内してくださいませんか」
「そうだね、わしはひどくつかれているのだが――」
と博士は口ごもりましたが、やがて思いなおしたように、
「うん、よろしい。外ならぬ遠来の珍客のことだから、案内してあげよう。こっちへ来なさい。ここから下りるのだ」
博士は魚油灯をもって先に立ち、はやそろそろと岩根づたいに下りていきます。
帆村探偵は、はじめて見るおそろしい断崖に、目まいを感じながら、博士につづいてそろそろと下りました。
博士は、なかなか元気で、先に立って、するすると下りていきます。ともすれば帆村は遅れてしまいそうです。
(博士は元気だなあ。それに、この洞穴のことをよく知りぬいているようだ)
帆村は、心の中でひそかに感心いたしました。
博士の魚油灯は、すでに断崖を下りきって、洞穴の底にある岩のうえで、うすぼんやりした光を放っています。
このとき、博士の目がきらりと光りました。博士の目は、今しも岩根につかまって、下りることに夢中になっている帆村の上に、じっととまっていました。帆村は、博士がそんな恐しい目つきをして、こっちを睨んでいるとは気がつきません。
「あっ、しまった」
一声、帆村が叫びました。
彼は、濡れた岩根を、あっという間に足をふみすべらし、ずるずるどすんと、博士の立っている足もとまで、すべりおちました。
2
どうも腑におちないのは、大利根博士のそぶりです。
いまも、帆村が足をふみすべらせ、あっという間に博士の足下まで岩根をすべりおちたから、博士もはっと気をのまれて、それっきりになりましたが、もしもあのとき、帆村が岩根をすべりおちないで、断崖につかまってぐずぐずしていたら、博士は次にどんな怪しいふるまいをしたかわかったものではありません。そういえば、あのとき博士の右手は、すでに腰のあたりへのび、なにかピストルでもさぐろうとしたらしいのです。
ずるずると博士の足下にすべりおちた帆村探偵の幸運を、彼のために祝ってやらねばなりません。そうです、全く油断のならない大利根博士と名乗る人物です。あの利口な帆村探偵も、まだそれと気がついていないのでしょうか。あたりには、味方の姿もない恐しい洞穴の中です。一度は危難をまぬかれた帆村のうえに、これからどんな禍がふって来ることでしょうか。それを思うと気が気ではなくなります。
「大利根博士、僕は、いますこしで腰骨を折るところでしたよ。あ、おどろいた」
博士は、急に作り笑顔になって、
「全くあぶないところだから、いつも足下に気をつけていたまえ」
「はあ、ありがとうございます。なに、もう大丈夫です」と、帆村は博士の横に立ちあがり、
「そこでおたずねしますが、怪塔王が体をぶっつけた岩というのは、一体どの岩でしょうか」
「ああ、その岩かね、――」博士は口ごもりながらあたりをきょろきょろながめ、「ええその岩というのは――そうだ、たしかあの岩だったとおもうよ」
そういって博士が指さしたところを見ると、二人の立っているすぐ目の前に、渦巻く海水にとりまかれた一つの小さい島のような平な岩がありました。
3
怪塔王が体をうちあてたのはあの岩だと、大利根博士が指さしましたので、帆村が見ると、それはものすごい潮の流にとりかこまれた小さい島のような岩礁でありました。
「ああ、あれですか。ものすごい岩ですね。怪塔王の体は、あの岩にあたって、それからどの辺へ跳ねおちたのですか」
帆村探偵は、なにげなしにたずねました。
「ううん、それはこっちだ。あの岩礁の左の方だ」
帆村探偵は、それを聞くと、ふしぎな気がしました。怪塔王の体が岩の割れ目から落ち、目の前に見える岩礁につきあたったとすると、もし、はずみをくらって、更に潮の流へとびこんだものとすると、どうしても岩礁の向こうにおちるはずです。それが左におちたとは、ふしぎなこともあればあるものです。
つぎに帆村は、大利根博士に頼んで、魚油灯をかしてもらいました。そして岩礁の上をそれで照らしてみました。帆村の考では、岩礁の上に、怪塔王が体をうちあてたときには、きっと血を流したことであろうとおもいました。その血が見つかるといいと思ったのです。
しかし、ふしぎにも、血らしいものは、岩礁の上に見あたりません。そうかといって、潮が洗い去ったようでもありません。
帆村は、小首をかたむけました。
(はてな、これは変だぞ!)
帆村は、ふしぎなかずかずの疑問を大利根博士にたずねようかと思いました。――が、待てしばし!
(どうも、この大利根博士というのが、不思議な人物だぞ。はて、一体どうしたというわけだろう)
帆村は、ようやくそのことについて思いあたりました。そう思って、前からのことを思いかえしてみると、怪しいふしぶしがたくさん出てきます。
(これは油断がならないぞ)
4
油断のならない洞穴の大利根博士です。帆村探偵は、夢から覚めたように、おどろきました。
そういえば、この大利根博士という人物が、怪塔王のおちた岩の割れ目から入れかわりに出てきたのが変です。いや、それだけではありません、帆村探偵が声をかけたときの、あのへどもどした返事のしかたは、どうも怪しい。
(さあ、この大利根博士は、ただ者ではないぞ。これはたいへんなことになった)
博士の話によると、怪塔王は岩礁の上におちたというのに、血も流れていません。渦を巻く海水の中を見ましたが、怪塔王の死体も見えなければ、その持物も何一つ浮いていないではありませんか。
怪塔王が死んだと思ったのは、あの岩の割れ目から、この洞穴の中へ墜落したことと、それから間もなく起った悲鳴でありました。今のところ、それ以上、怪塔王の死をものがたるたしかな証拠はないのです。
(これは油断がならないぞ。下手をすれば、怪塔王は、まだその辺に生きている! その上、この怪しい大利根博士だ。そして場所は、勝手もわからぬものすごい洞穴の中だ!)
さすがは帆村探偵です。すぐれた推理をたてて、ついに自分の背後にせまる大危険を察したのでありました。
(これから、どうしよう?)
探偵が、ぎくりとして、今後のことを考えたその瞬間でした。
ぷすーっ。
妙な低い爆発音が、帆村のすぐうしろで聞えました。
「あっ――」
と思って、帆村がふりかえってみますと、いま音のした岩の上から、黄いろい煙がもうもうと立っているではありませんか。とたんに、一種異様の悪臭が、鼻をつきました。あ、毒ガスです!
5
大利根博士は、煙の中に平気で立っています。その顔には、いつどこからとりだしたのかガスマスクがはまっています。
「ああっ――」
帆村探偵は、のどに、目に、はげしい痛みをおぼえて、両手でめちゃくちゃにかきむしりました。
卑怯な毒ガス攻撃です。
いまさら卑怯だといってもはじまりませんが、大利根博士から毒ガスのごちそうをうけようとは、今の今まで思っておりませんでした。
「ふふふふ。どうだ、苦しいか」
マスクの下からひびいてくるその声!
「あっ、貴様は怪塔王だな。こほん、こほん、こほん――」
帆村は、岩の上にたおれて、はげしく咳をします。貴様は怪塔王だなと叫んだその声は、まるでのどをやぶって出てきたような細いしゃがれた声でありました。
大利根博士が、いつの間に怪塔王の声色をつかうようになったのでしょうか。
博士は、いやに落着きはらって、転げまわっている帆村のそばへやってきました。
「こればかりの薄いガスをくらって、そんなたいそうな苦しみ方をするなんて、なんて弱虫なんだろう。これからの探偵は、ガスマスクぐらい、しょっちゅう持ってあるくがいいぞ」
博士は、靴の先で帆村の体を力まかせにけとばしました。なんというひどいことをする博士でありましょう。
「おい帆村探偵。こんどというこんどは、貴様を殺してしまうぞ。貴様くらい、わしの邪魔をする奴はないからなあ。いままで生かしておいたのを、ありがたくおもえ」
博士は、すっかり怪塔王になりきってしまって、腰のあたりから、銀色の筒をとりだした。どうやらこれは、形のかわった殺人光線灯らしいです。
帆村探偵はどうなりましょうか?
最大の謎
1
洞穴の内の岩礁のうえに争う大利根博士と帆村探偵! 毒ガスが黄いろいもやのように漂っているなかに、怪塔王の声を出す大利根博士は、殺人光線灯を片手に帆村探偵の姿をもとめています。
「あ、そこにいたな」
魚油灯が大きくゆらいで、岩礁のうえに腹匐いになっている帆村探偵をみつけました。
もう駄目です。帆村探偵の一命は、風前の灯火も同様です。殺人光線が帆村の方にむけられ、そしてボタンがおされると、もうすべておしまいです。
帆村が岩礁のうえに腹匐いになっていたのは、毒ガスからすこしでものがれるためでありました。下には荒潮がぼちゃんぼちゃんと岩を洗っていまして、そこにすこしばかりの風が起っていました。だから重い毒ガスは、下に溜ろうとしても、波のためにあおられ、吹きあげられてしまいます。そしてどこを潜って来るのか、一陣の風がすうっと吹いて来るのです。どこまでも沈着な帆村探偵は、こうしたわずかの安全地帯をもとめて、辛うじて息をついていたのに、いまや大利根博士の持つ殺人光線灯が、最後のとどめを刺そうと狙っています。
不意に帆村は、ぽんと蹴られました。
「あ、痛!」
思わず彼は、声を出してしまいました。
「ふふふ、まだ生きていたか。いよいよ殺人光線灯を食って、往生しろ!」
「待て! 最後に、ちょっと聞きたいことがある」
「なんだ。早く言え」
「貴下は大利根博士ですか、それとも怪塔王ですか」
「そんなことは、どっちでもいい。ほら、もう念仏でも唱えろ」
もう余裕はありません。帆村の体は、ごろりと一転して、どぶんと荒潮のなかにおちてしまいました??
2
「あっ、落ちた!」
大利根博士は、思いがけないできごとに、殺人光線灯のボタンをおすことを忘れて、帆村の落ちた荒びる水面をきょろきょろとながめました。
大きな水音は、しばらく洞穴のなかを、わぁんわぁんとゆりうごかしていましたが、やがてそれも消えてしまいました。
「ど、どこへ行ったんだろうか。溺れてしまったのか、それとも渦にまきこまれてしまったかな」
ぼんやり黄いろく光る魚油灯を、海水のちかくへずっとさしだして見ましたが、帆村の頭も見えず、水を掻く音さえきこえませんでした。荒潮のなかに落ちた帆村は、そのままどこかへ姿を消してしまったのです。
とうとう帆村は、浪にのまれて溺れ死んでしまったのでしょうか。それとも何所かに生きているのでしょうか? 洞穴のなかを、荒潮は大臼をひきずるような音をたて、あいかわらずはげしい渦巻をつくって流れています。この荒潮は、帆村探偵の生死をたしかに知っているはずでありますが、残念にも口をきくことができません。
ところが、その帆村探偵は、しばらくしてはっと我にかえりました。気がついて見ると、いつの間にか、呼吸がたいへん楽になっていました。そして目をあけて見ますと、自分は岩のうえにながながと寝そべっているではありませんか。彼は夢を見ているような気がしました。
「怪博士は?」
彼は、がばとはねおきました。そしてあたりを見まわしたのでありますが、どうもさっきとは様子がちがっています。
一道の光が、眩しくさしこんでいまして、さっきの洞穴とはくらべものにならぬほど明かるい気分にみちています。
足元には、白い泡をうかべた荒潮が、或は高く、或は低く満ち引きしています。そして海鳴のような音さえ聞えるのです。
3
帆村探偵は、奇蹟的に一まず危難をのがれたことを知りました。
殺人光線灯をかけられようとした途端、彼はこんなものにうたれて体を焼かれるよりはとおもい、おもいきって海中に自ら身をなげたのであります。
ところが、体はそのままはげしい渦巻にまきこまれてしまい、彼も気をうしないましたが、その間に彼の体は海底をくぐって、岩の下をくぐりぬけ、そしてまた別のこの明かるい洞窟のなかに浮かび出たのです。そこはどうやら海からすぐ入りこんだ洞門らしいのです。
おそらく彼の体は、海中へ注ぐ潮に流されていくうち、狭くなった水路のところに出ている岩のうえに押しあげられたものでありましょう。どこまでも運のいい帆村探偵でありました。
こうして一命は助りましたが、荒潮にもまれ流れているうちに、彼の体は幾度となくかたい岩にぶつかったため、全身はずきずきとはげしい痛みに襲われ、どうしても立ちあがることができません。残念ですが、しばらくなおるのを待つこととし、そのまま岩の上に長く寝そべっていました。すると、いろいろなことが思いだされてきました。
(小浜兵曹長はどうしたかなあ)
彼は、兵曹長の身の上が心配になってきました。
(あの大利根博士という人物は、一体ほんとうの大利根博士なのだろうか。怪塔王みたいな声に聞えたが、あれはどうしたわけだろうか)
なにもかも不思議というより外はありませんでした。
(しかし世の中に、どんな不思議があるといっても、解けない不思議というものがあろうはずはないのだ。頭をはたらかせさえすれば、その不思議は必ず解けるにちがいないのだ!)
帆村のこの元気を、神様もよろこばれたのか、そのとき帆村の頭に、なにかぐにゃりとしたものが、ぶっつかりました。
4
洞門の巌のうえ、帆村荘六の頭に、ぽかりとあたったものは何であったでしょうか。
それはぐにゃりと、きみのわるい手ざわりのものでした。取上げてみて、帆村はびっくり。
「やっ、これは!」
と、おもわずおどろきの声をあげたのも、むりではありませんでした。帆村のひろったそのぐにゃりとしたものは、やわらかい上質のゴムでつくったマスクでありました。怪塔王が、よく使っているマスクだったのです。
「たいへんなものが見つかった!」
帆村は、そのマスクを光のさしこむ方にかざして、その面をあらためてみましたが、
「ややっ、これは怪塔王の素顔!」
と、またまたおどろきの声をあげました。なんというふしぎでしょうか、帆村が手にしているマスクは、怪塔王の素顔――とおもっていた例の西洋人の顔だったのです。それは鼻の低い、頬ぼねのつっぱった汐吹の顔ではありません。その汐吹のマスクをとったあとに現れた西洋人の顔! 今の今まで、それは怪塔王の素顔だとばかり思っていましたのに、帆村が拾ったマスクは、ふしぎにもその西洋人の顔だったではありませんか。
「なんというふしぎだ。これが怪塔王の素顔でないとしたら、一体怪塔王のほんとうの素顔は、どんなのであろうか?」
帆村は一時、頭のなかがみだれて、ぼんやりとしていました。しばらくたって、彼はやっとおそろしい事実に気がついたのです。
「そうだ、わかったぞ。怪塔王のほんとうの素顔というのは――」と、その先をいうのがおそろしくて、帆村はおもわずここでつばをのみこみましたが、
「――ほんとうの素顔というのは、あの大利根博士なのだ。大利根博士が、いくつものマスクをつけて、怪塔王になりきっていたのだ。では、あの憎むべき怪塔王の正体は、意外にも大利根博士だったのだ」
5
意外も意外です。
怪塔王の正体をあらってみれば、大利根博士だということになりました。
帆村探偵は、理屈のうえではたしかにそうなるから間違ないと信じながらも、あまりに事の意外なのに、夢ではないかと、いくたびも考えなおさずにはいられませんでした。
「いや、間違なく、大利根博士が怪塔王だったのだ!」
帆村は、はっきり自分にいいきかせました。それにちがいないのです。
ただ、この上のふしぎは国宝的科学者ともいわれているあの大利根博士が、仮面をむけば、なぜあのように憎むべき怪塔王であったかという謎です。それこそは、どうしても解かねばならぬ大きな謎でありました。おそろしい怪塔王の仕業も、みなその謎の中に一しょに秘められているのにちがいありません。なぜ? なぜ? なぜ?
帆村の勇気は百倍しました。わが海軍の機密を知りぬいている大利根博士が、あの怪塔王だとしたら、これは一刻もそのままゆるしておけないことです。ぜひとも怪塔王をとらえて、そして、なぜ怪塔王がそんなわるいことをするのか、その大きな謎をとかなければ、国防上これはたいへんなことになります。
怪塔王は一たん死んだものとおもわれましたが、ここにきて、残念ながらそれを取消さなければならなくなりました。
怪塔王は、まだ生きているのです。岩窟の中で見た大利根博士こそは、外ならぬ怪塔王の姿だったのです。ですから怪塔王は、ただ生きているどころのさわぎではなく、あの岩窟を出て、なにかまた悪いたくらみをしようとしていたのにちがいありません。
大利根博士の姿をした怪塔王は、いまどこでなにをしているのでしょうか。
「こうしてはいられない!」
帆村は、潮鳴る洞門のかなたを、きっとみつめました。
ああ上官
1
さてお話は、小浜兵曹長のうえにうつります。兵曹長は、帆村とわかれ、怪塔ロケットへむかいました。黒人たちは、もうすっかりおとなしくなっています。主人のなくなった黒人たちは、まるで虎が猫になったようなものでありました。
兵曹長は、殺人光線灯を身がまえながら、怪塔の無電室にはいっていきました。そして、さっそく、秘密艦隊をよびだしたのでありました。
「塩田大尉にねがいます。こちらは白骨島において小浜兵曹長です」
そういって、無線電話をもって、しきりによびかけました。
艦隊は、そのとき空と海面との両方から、まだ空中にのこっている敵のロケットやら、また海面におちながら、まだ降参しないでうってくる敵の生き残りの者どもと、しきりに戦闘中でありました。
もちろんこの戦闘は、秘密艦隊の勝となった模様です。しかし、空中に残る一台のロケットがなかなか降参いたしません。それは敵の隊長がたいへん抵抗するためでありました。この最後の一台のロケットが、どういうものかなかなかつよいのです。いささか手をやいているとき、小浜兵曹長からの無電がはいり、軍艦六甲の艦橋にいた塩田大尉がマイクロフォンの前にでました。
「おお、小浜兵曹長か。こちらは塩田大尉だ。お前はよく生きていたな。おれはたいへんうれしいぞ」
と、まず大尉は、部下の無事をよろこびました。こっちは小浜兵曹長です。上官の声をきいて、どんなに気がつよくなったかわかりません。
「ああ塩田大尉、私も上官のお声を耳にしてどんなにか嬉しゅうございましょう」といいましたが、とたんにおもわず胸のなかが一ぱいになりました。
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