12話 宇宙服
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「おーい。三郎君。早くこっちへ来い」
入口から、三郎を呼ぶ者があった。
三郎がその方へふりかえると、入口に鳥原青年の顔があった。
「鳥原さん。何の用で?」
「いよいよ月の世界へ下りることになったので、皆、むこうで宇宙服の着方をおそわっているのだ。君も早く来い」
「あ、宇宙服ですか、もう始まったんですね。じや、艇長にちょっとお許しを得ていくことにしましょう」
三郎は、艇長に申出て、許可をうけ、鳥原青年とともに、艇夫室へ急いだ。
艇夫室には、艇夫たちが大ぜいあつまっていた。卓子のうえには、高級艇員が立って皆を見下ろしている。
「もう、大たいあつまったようだな。では、宇宙服の着方をおしえる。まず、実物を見せるがこれが宇宙服だ」
下から、大きな深海潜水服みたいなものが、さし上げられた。説明役の高級艇員は、それを卓子のうえに抱え上げた。宇宙服は、架台にかかっていた。自分の横に、その宇宙服をおいて、説明がはじまった。
「これが宇宙服だ。ちょっと見ると、潜水服のようでもあるが、また西洋の鎧のようにも見える。これは全部軽合金で出来ていて、圧力に充分たえるようになっている。手足の間接のところや腰のところが、まるで蜂の腹のようになっているが、これは手足の関節や腰を曲げるのに都合がいいように作ってあるのだ」
銀びかりのする宇宙服は、見れば見るほど、ものすごいものだった。あんな大きなものを着て歩けるかと心配をするほどだった。
「……この下に、やはり軽合金と特殊ゴムとで出来た長靴をはき、宇宙服にぴっしゃり取付ける。これがその靴だ」
靴は、みかん箱のように四角ばって、そして大きい。
「また、頭にはこの大きな兜をかぶる、ちょっと見ると、潜水兜に似ているが、大きさはもっと大きくて上下に長い円筒形だ。兜の額のところから、こうして二本の鞭のようなものが生えていて、釣竿のように、だらんと下っているが、昆虫の触角と似ていて、月の世界で、われわれ同志が話をするのには、なくてはならない仕掛けだ」
妙な説明が始まった。三郎には、何のことだか、よくのみこめなかった。
「……みんな、この二本の触角をみて、ふしぎそうな顔をしているようだが、これがなかなか大切な物だぞ。つまり、月の世界には空気がないのだ。だから音というものがない。そうだろう。音は、空気の波である。空気がなければ、空気の波も起らない。だから、音がないのだ。すると、月の世界の上で、どんなにわめいても呼んでも、声はつたわらない。だから、話をするのに、音にかわる何物かを使わなければならない。そこでこの触角が役立つのであります」
なるほど、月の世界には、空気がないから、したがって、音が出ないし、もちろん音がつたわるわけもない。これは困ることであろう。三郎にも、それは分った。
「……で、この触角のはたらきであるが、これは、人間の声に応じて、機械的に震動するようになっている。つまり私がこの兜をかぶり、兜の中でものをいうと――兜の中には空気があるから、声は出ます――すると、その声が、この触角を震動させるのである。つまり、声は空気の震動であるが、触角に伝わって、機械的な震動となって、ぶるぶるぴゅんぴゅんとふるえる。そこで私の触角と、話をしようと思う相手の人の触角とを触れさせておくと、私のいったことばは、例の震動となり、私の触角から相手の触角へ震動が伝わる。その結果、相手の耳のところにつけてある震動板――つまり高声器のようなものさ――が震動して、音を発するのだ。その音というのは、つまり私のことばであります。どうです、わかりますか」