11話 月世界へ
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月の上に着陸するのだという。
それをきいて、風間三郎少年のおどろきは大きかった。月といえば、いつも地球のうえでうつくしくながめていたあの月だ。三日月になったり、満月になったりする月。雲間にかくれる月、兎が餅をついているような汚点のある月、いや、それよりも、いつか学校の望遠鏡でのぞいてみた月の表面の、あのおそろしいほどあれはてた穴だらけの土地! その月の上に着陸するときいては、三郎少年の胸は、あやしくおどるのだった。
「艇長。月の上へ着陸できるんですか」
三郎は、辻中佐に、たずねないではいられなかった。
「それは出来る。なかなかむつかしいが、出来ることは出来る。わしは一度だけだが、月の上へ降りたことがある」
さすがに艇長だけあって、辻中佐は、月の上に降りたことがあるという。三郎は、それをきいて、まず安心したが、しかしどうして月の上に降りられるのか、またどうして月の上で、人間がいきをしていられるのか、ふしぎでならなかった。
「艇長。月の上には空気がありませんね。すると人間は、呼吸ができないではありませんか」
「それはわけのない話だ。酸素吸入をやればよろしい。われわれも現に噴行艇の中で、こうして酸素吸入をしながら安全に宇宙をとんでいるではないか。だから、月の上に降りれば、一人一人が酸素吸入をやればいいのだよ」
「なるほど、そうですか。じやあ、一人一人が、酸素のタンクを背負うのですね」
「まあ、そうだよ」
三郎少年は、やっとわかったような気がした。月の上へ降りて、背中に酸素のタンクを背負っている姿を考えると、ちょっとおかしい。
「おい、艇夫。もう外に、心配なことはないかねえ」
艇長は、からになったコーヒー茶碗を、三郎にかえしながら、たずねた。
「いきをすることが、うまく出来るなら、もう心配はありません」
三郎は、そう思っていたので、そのとおり返事をした。すると艇長はにやにや笑いだした。
「艇夫、お前は、月の世界へいってから、ずいぶん意外な思いをするにちがいない。今からたのしみにしておきなさい」
「なぜですか、艇長。意外なことというと、どんなことですか」
「まあ、今はいわないで置こう。とにかく、お前たちが月の上に安全に降りられるようにと、ちゃんとりっぱな宇宙服が用意してあるから、安心をしていい。それを着て、月の上を歩いてみるのだねえ。きっと目をまるくするにちがいない。まあ、後のおたのしみだ」
「そうですか。早くその宇宙服を着てみたいですね」
「そのうちに、宇宙服の着方を、だれかがおしえてくれるだろう」
艇長と三郎とが、そんな話をしているうちに、またまた艇長のところへ、報告がどんどんあつまってきた。機関部からも、機体部からも、航空部からも、どんどん報告がやってきて、艇長は、また前のような忙しさの中に入ってしまった。
「ふむ、ふむ。やっぱり無理か。よろしい、では、本艇を月に着陸させることにしよう」
機関部の報告によれば、このままでは、どうにもならぬということなので、艇長はついに決心をした。
「命令。本艇の針路を月に向けろ」
航空士は、直ちに舵をひいて、噴行艇の針路をかえた。
艇長は、また叫んだ。
「命令。月に着陸の用意をせよ。――それから、本隊司令に対し、連絡をせよ」
いよいよ艇内は、総員の活動で、にわかにさわがしくなった。