26話 皿のような乗物
読み方を変える
「おい、無電員。今の第五斥候隊の位置は、わかって居るか」
「はい。大体見当はついております」
「今の最後の無電をうってきたとき、方向探知器で、その電波の発射位置をたしかめて置いたか」
「は。それはとうとう間に合いませんでした。しかし、その十五分前に来た電波で方向がしらべてありますから、まずそれで間に合うと思います」
「その地点はどこか」
「ヨーヨーの峡谷です。大砲岩から、北の方へ十キロばかりいったところです」
「ふん、ヨーヨー峡谷か」
辻中佐は、地図の上に、ヨーヨー峡谷の所在をさがして、その上に赤い三角旗のついたピンをつき刺した。
「救援隊に出発を命令せよ、二ヶ隊を送るのだ。急がなければならないぞ」
辻中佐は命令した。
命令一下、幕僚は直ちにマイクをもって、艇外に待機中の予備隊二ヶ隊を救援隊として出発させた。
いよいよこれは大きな戦闘になるであろう。棲むことにさえ慣れない月世界の上において、地球人間よりは、ずっとすぐれた頭脳の持主であるといわれる火星人と闘うのであるから、これは一大覚悟を要することだった。
艇員の顔は、曇る。同胞が今危難に苦しんでいるのだと思うと、胸がしめつけられるようであった。
どうなるであろうか、この戦闘は。
月世界の上の大乱闘の末、もしアシビキ号の乗組員が一人のこらず火星人のためにたおされてしまい、その上に噴行艇さえ奪われてしまうようなことがあったら、これは一大事である。それは大宇宙遠征隊のために一大事であるばかりか、ひいては地球人類のために一大事であった。なぜならば、火星人は、地球人類を見くびって、それからさき、どんなことをむこうからしかけてくるかわかったものではない。
だから、ここでわが地球人類は、どんなことがあっても、火星人に負けてはならないのであった。いま辻中佐の頭の中には、とっさに、あれやこれやと策略が渦まいている。どの作戦をとりあげたら、火星人をうちまかすことができるであろうか。
もっと、火星人の様子が知りたい。火星人がどんな風に出てくるのか、それを知りたい。それが分らないかぎり、こっちからうつべきよい手が考えられない。
「おい無電員、何か現場よりの報告は来ないか」
「はい。あれきりです。新しい報告はまだ一つも入りません」
「そうか。ふうむ」
そういっているとき、無電配電盤に、ぱっぱっと、監視灯がついたり消えたりした。
「おや、第四斥候隊が、こっちを呼んでいるぞ。これはめずらしい」
「えっ、第四斥候隊それにまちがいがないか。今まで、何のしらせもなかった第四斥候隊か」
艇長は、席を立って、無電員の傍へやってきた。だが無電員はそれにへんじをしなかった。彼はむちゅうになって、無電をうけて、その電文を紙の上に書いているのであった。ああ、それはまちがいなく第四斥候隊からの始めての報告だった。
辻中佐は、いそがしそうにうごく無電員の手の間から、次のような電文を読みとった。
“第四斥候隊報告。わが隊は、すこし考えるところありて、火星人隊発見まで、電波を発射しないことを定めおけり。そのわけは、電波を発射せば、火星隊のために、かえってわが隊の所在をしらせることをおそれたるがためなり”
「なるほどなるほど」
艇長はうなずいた。
報告書は、なおその先があった。
“……わが隊は、アメ山より、対いのヒイラギ山のかげに火星人の乗物があるのを発見せり。火星人隊の総勢は約十名かとおもわれる。彼らの乗物は、その形、大きい皿の如く、その中央の出入口よりぞろぞろと現われるのを見たり。わが隊は、そのあとにて、アメ山を下りて、ひそかに火星人の乗物に近づけり。幸いに乗物には火星人の居る訳なし。しかも出入口は、明け放しになり居りたるゆえ、内部へ入りて見たり。その結果、われらは、風間、木曾の二少年を発見せり”
「ほう、二少年が見つかったそうじゃ」
“……さりながら、二少年は共に、人事不省のありさまにて発見せられたるゆえ、われらはおどろき、手当を加えつつあるも、いまだにそのききめなきはざんねんなり。われわれ二少年をこのまま連れ戻ろうとす。医療の用意をたのむ”
「ほう、二少年とも人事不省だそうだ。それをたすけて、第四斥候隊はこっちへ戻ってくるというが、うまくかえれるかどうか、わからない。すぐさま、第四斥候隊の方へも、救援隊を向けてやれ」
辻中佐は、心配の中にも、第四斥候隊の無事だったことを知って、ほっと一息ついたのであった。