大宇宙遠征隊

7話 当直の報告

1,365字 約3分 2004年4月7日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

「艇長。そのめずらしいものとは、一たいどんなものですか。早くおしえてください。ぼく、早くききたくてしようがないなあ」

 風間三郎は、すこし鼻にかかったこえで、艇長にねだった。

「はははは。それをききたいのか。まあ、今話をしてしまっちゃ、あとでおもしろくない。いずれ、そのうちに、みんなさわぎだすだろうから、まあ、それまでまっていたがよい」

 艇長は、卓子(テーブル)の前へきて、椅子に腰をかけた。

「艇夫。それよりも、コーヒーだ」

「コーヒーは、今、やりなおしています。重力装置の故障のとき、すっかりこぼれてしまったんです」

「そうか。それはもったいないことをした」

「艇長。コーヒーがわくあいだに、話をしてくださってもいいでしょう」

「はははは。お前はなかなか、うまいことをいって、ききだそうとする。しかし、だめだよ。コーヒーがわくあいだに、わしは地球儀をかくことにしよう。たしか、印度洋(インドよう)のへんまで、かいたおぼえがある」

 そういって艇長は、ゴム風船の入った箱を、卓子のうえへもってきて、片手に絵筆をにぎつた。それから艇長の手が、器用にうごきはじめる。

 そうなっては、もうしかたがない。風間三郎は、コーヒー沸しの前へすわって、その口からゆらゆらとたちのぼる湯気をじっと見つめている。

 室内がいやに、しずかになった。コーヒー沸しのふたも、まだおとなしくしている。

(一体、なんだろうなあ、めずらしいものというのは?)

 三郎が、いやに考えこんでいたとき、天井につけてあった呼鈴(よびりん)が、ぶうぶうぶうと鳴りだした。それは艇長をよびだしている信号音であった。

「艇長、電話です」

 三郎がいうと、地球儀のうえに筆をはこんでいた艇長は、やおら顔をあげ、

「そうらしいね。はい、艇長は電話にかかった」

“はい、艇長は電話にかかった”――ということばは一種の暗合であった。そういうことばをいうと、スイッチが、高声器の方へ切りかえられるのであった。スイッチを手で切りかえるかわりに“ハイ、艇長は電話にかかった”といえば、スイッチが切りかえられるのである。

 むかし、岩の前に立って、“開けゴマ”とさけぶと、岩が二つにわれて、その間から入口があらわれるという話があるが、今はそれと同じことをやって、スイッチを切りかえられるのだった。これを、音波利用のスイッチという。

 高声器から、ぷっぷっという雑音が出てきたと思ったら、とたんに大きい当直長のこえがとびだした。

「艇長。只今、地球が夜明けになりました、どんどん夜が明けております」

「ああそうか」

「雲があるようですが、相当うつくしい輝いて見えます。おわり」

「ああそうか。ご苦労」

 当直長のこえは、高声器の中に引込んでしまった。

「どうだ。今の電話をきいたろう」

 艇長が三郎にこえをかけた。

「あ、今の電話ですか。地球が夜明けだというんですね。そんなことは、一向(いっこう)めずらしいとは思いません」

 三郎は、なあんだという顔をした。

「はははは。一向めずらしくないというのか。めずらしいかめずらしくないか今見せてやるから、それを見たうえのことだ」

 そういうと艇長は、壁の(ボタン)を押した。

 すると、二メートル四方ほどの壁ががたんと下におちた。壁の奥には、精巧なテレビジョン装置が、はめこんであったのである。これを使えば、中にいながち、艇の外が手にとるようにはっきり見える。

目次に戻る

目次