中村仲蔵

1話 中村仲蔵(1)

6,760字 約14分 2014年9月29日 公開

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中村仲蔵(未映画化)

――――――――――

原作並脚色 山中貞雄

 =(F・I)道

 鏝不付の半次が徳利持って一散に走って居る。

 (移動)

 (ヘッド・タイトルを道の移動にダブらしたらどうかと思います)

(速やかにF・O)

 =(F・I)松平帯刀の邸

 一人の旗本、斬られてダダーとのけ反った。

 入れ替りに一人がサッと斬り込む。

 斬り込んで来た奴を横薙ぎにして左刄高く振り上げた此村大吉、大見得切った形。

 殺陣開始――

 遂に大吉、帯刀を斬り倒す。

 其処へ半次が漸く駈け付けて来た。「ようよう死んでるぞ、死んでるぞ」と数多い死体を見て大喜び。

 大吉、ホッと一息付いた所へ半次も来て「旦那、酒だ!」と大吉に酒を渡し、

 「サテ、おきよさんは?」と、ある部屋の襖を開くと、

 縛られて居るおきよの後姿。

 半次、急ぎ彼女の許へ駈け寄って縄を解く。

 大吉は、悠々徳利のガブ呑み。

(静かにダブって)

T「そんな訳で

 とうとう鬼神組を

 皆殺しにして

 了ったんです」

 =江戸の町

 話して居るのは鏝不付の半次。

 ブラブラ歩き乍ら聞いて居るのが行安寺の五郎蔵親分です。

 半次歩き乍ら尚もベラベラ、

T「右腕の傷も、案外、軽く

 想う女を手に入れて

 天晴れ男ッ振りを

 上げたまでは

 まあいいんですがね」

 と半次が言えば、五郎蔵が「それから?」

 半次「ササ」

T「それからが

 なっちゃ居ないんです」

 「悪い事が続いたんです、先ず第一に」と半次。

T「大勢を手に掛けたとあって、

 錦糸堀五百石の御邸は

 御取り潰しになり……」

 「とうとう浪人生活」と云えば、五郎蔵「そりゃそうだろう」半次尚も、

T「その上、

 そのおきよって女が

 見掛けによらんあばずれでしてね」

 と話し続ける半次。

T「旦那に金がないと

 知ると、急に

 手の掌かえして

 水臭くなりやがって、

 果は情夫と手に手を

 とってドロン……」

(次の画面へダブル)

 =大吉の浪宅

 (前の字幕からダブって)

 遺されたおきよの書置き手に呆然自失、ドッカと座敷に坐った儘の大吉、

 やる瀬なくその手紙胸に抱いて、

T「おきよ!」

 悲痛な叫びです。フラフラと立ち上って、足許定まらず壁に凭れて項垂れる。

 室の隅っこに淋しく残された鏡台、とり散らかされた化粧道具、

(それが静かにダブッて)

 鏡台の辺りに転がって居る一升徳利、もう一つコロコロ転がって来て二つコツンと衝突しました。

 机に凭れた大吉(数日後の事です)酒呑むのも嫌だと云った形。

T「淋しいな」

 側の半次が相槌打った「淋しゅう厶(ござ)んしょうね」

T「今更、鬼神組と

 喧嘩した、あの頃が

 懐かしい」

 泌々と独り言云う大吉。

T「あの時、皆斬らずに

 せめて半分位

 残しときゃよかった」

 「惜しい事したわい」と半次に向って、

 大吉

T「何処かに

 喧嘩相手は

 ないかなァ」

 「さァね」と半次の困った顔、大吉の淋しい顔――(ダブって)

T「その後は、自棄(ヤケ)になって

 誰彼れの差別なしに

 片ッ端から、世間相手に

 安兵衛もどきの喧嘩商売」

 =元に戻って――

  歩き乍ら話す半次「落ち振れ果てたあげ句が……

T「とうとう

 今じゃ……」

 聞き手の五郎蔵親分がその後引き受けて、

T「此の五郎蔵の

 用心棒か」

 半次の苦笑。

 二人が、とある町角まで来た時、五郎蔵が此の筋を曲ろうと言い出した。半次が「親方帰るんじゃないんですかい?」五郎蔵笑って「一服して帰ろう」と先になって角を曲る。

 =茶店

 四ッ谷見附のお光の茶店。二三人休息して居る。茶店の女が三人ばかり(其の中にお光も居る)。

 道行く人を呼んで居る。

 と、中の一人が彼方見て「まァ親分が」

 と云えば他の二人も出て来て三人揃って「親分お久し振り」

 半次を伴った五郎蔵の親分然たるところ。

 縁台に腰下ろすと女共いそいそと茶なぞ運んで来る。

 半次がソッと五郎蔵に囁く、

T「もてますね」

 「いや、其れ程でもない」顔の相を崩して得意がる五郎蔵の助平面がジロリと横目で睨んだ。長い事見つめた儘。

 可憐なお光の姿。

 半次「ハハン」と五郎蔵の顔色読んだ。

 「親分一寸

T「いい女ですな」

 と、云われて「ウーン」見惚れて居る五郎蔵。

 半次が笑い乍ら「親分

T「惚(マイ)ってるんでしょう?」

 図星指された五郎蔵親分慌ててお光を見ていた眼を外して「いやなーに」とさりげなく言ってのけたが、半次、尚も「嘘ばっかし」

 遂に五郎蔵が「実はな半次

T「俺の方は

 別に何とも……」

 思っちゃ居ねえんだけれど……」と云って、へへへ、と嫌な笑い浮べた。自惚れ笑いッて奴。

T「女の方が、どうやら

 俺に気があるらしい」

 とうそぶいたものだから、ヘーンと阿呆らしくって、物云えぬ半次。

 五郎蔵尚も図々しく、

T「色男はつらい」

 と云われて半次は笑い度くなった。「よう、まあ其の面(ツラ)で」と思ったが「そうですな」と相槌打つ。

 茶店の女の一人が、フト彼方見て、誰かを見とめたらしい。「まあー」とお光をかえり見て、

T「お光ちゃん

 仲蔵さんよ」

 「まあ、仲蔵さん」とお光いそいそと出迎える。

 五郎蔵と半次其の方を見れば、

 仲蔵とお光。お光が「まあお掛け」と二人仲良く茶店の縁台に腰掛けて、何やら楽しげに、ペチャペチャ、誰が見たって恋人同士の甘き囁き。

 見て居た五郎蔵、呆然たり。半次ニヤーと笑って、親分見れば、五郎蔵暫時見惚れて居たがハッと半次に気付いて気まずい思い。

 お光と仲蔵、尚もペチャペチャ喋言ってる。

 広言の手前もあって、五郎蔵のテレ臭い事。

 半次が皮肉な笑い浮べ乍ら一矢むくいた。

T「色男は

 つろう厶んすね」

 五郎蔵イライラした。「馬鹿!」と一喝。

 余りの大声に仲蔵とお光も吃驚して振り返る。

 他の女達驚いて出て来ると、五郎蔵プンプン怒って「帰る。茶代置くぞ」とブツブツ言い乍ら立ち去る。後から半次「おかんむりや」と続いて去る。

 訝し相に見送ってる茶店の女。

 お光が仲蔵に、

T「山崎街道の定九郎?」

 と問い返す。仲蔵が「うん」と頷いた。

 お光が淋しく、

T「つまらん役ね」

 と云われて仲蔵も淋しそうに溜息ついた。

 お光が、ソゾロに同情した。

T「仲蔵さんは

 立派な腕があるのに

 情けない役ばかり

 演(ヤ)らされるのね」

 と泌々云われて、仲蔵も悲しくなった。自棄的な言葉が唇をもれる。

T「それは、私が

 捨子だからさ」

 「エッ?」とお光「捨子だったら何故、悪いの?」と云った顔。

 仲蔵なかば、独り言の様に、

T「立派な親が

 ないからだ」

 尚も強く、

T「立派な家柄がないからだ」

 遂に常日頃心の底に秘めて居た欝憤が涙と共に迸り出た。

T「芸は大根でも

 家柄のある奴は、親の威光で

 ドンドン出世する

 皆んな家柄のお蔭だ。けれども、私には……」

 と言葉をついで、

T「私にはそれが

 ないばっかりに」

 家柄が無いばっかりに仲間の奴にまで蔑まれ、

T「何ぞと云えば

 捨子の仲蔵と罵られて

 のけ者扱い……」

 後は言葉出でず、涙を呑んで項垂れた。

 お光が彼の肩に手を掛けて励まします。

 往来の人が空を見上げ乍ら足を早めます。

 茶店の女が空を眺めて、

T「雨らしい」

 お光も「ほんに降りそうなお天気」と立ち上ります。

 仲蔵も「じゃ私も帰ります」と立ち上った。

 お光が、

T「其処まで

 送るわ」

 と言って置いてイソイソと内へ入る。

 他の女達は慌てて縁台を片付けはじめる。

 お光前垂外して傘持って出て来た。

 朋輩に後を頼んで、仲蔵に「お待ち遠う」

 と二人並んで歩き出す。

  暗雲低迷する空――(F・O)

 =(F・I)雨の橋

 雨の降って居る河面―― ボヤッと橋の影が映ってる。

 欄干に凭れて河面眺めて居る仲蔵。

 お光が側から傘きせて居る。二人共物思いに沈んでる態だ。やがてお光が気をとり直して、

T「明日初日?」

 と聞く、仲蔵は淋しく頷く。

 お光が力付ける、

T「頑張ってね」

 と云われると、仲蔵自信ありげに、

T「頑張る」

 先程とは打って変って元気づいた。

T「今迄とは、コロッと

 変った定九郎見せて

 皆の奴をアッと

 言わせて見せる」

 「まあ――」頼もしいその言葉。お光も嬉しかった。

T「どんな、定九郎?」

 仲蔵はハタと困惑した。首振って「サー」

T「それが

 未だ分らないんだ」

 「そう――?」とお光も悲観した。

T「毎日 毎日

 考えてるんだけれど」

 「どんな定九郎を演ったらいいかなァ」と又力なく欄干に凭れる。

 二人が淋しくたたずむ時、

 彼等の背後を韋駄天の如く走り過ぎた侍がある。

 何の気なしに仲蔵がその男見送ると、

 蛇の目傘の浪人者(大吉)が跣足で走り去る(所謂定九郎の恰好よろしく)。

 じーっと見送って居た仲蔵の面に歓喜の色現れる。五六歩ヨロヨロと前へ出た。

 遠く走り去る大吉を見送って、

 雨の中の仲蔵狂喜する。

T「アレだ!」

 「アレだ、アレだ!」と尚も叫び続ける。

 訳の分らぬお光、傘持って呆然と立つ。

(F・O)

前代未聞の定九郎

いなせな定九郎

男ッ振りの善い定九郎よ

実に無類千両!

仲蔵は忽ち江戸中

人気の焦点となる。

 =(F・I)芝居小屋の内部

 蛇の目の傘を半開き、ダダッと駈けて、花道の七三で大見得切った仲蔵の定九郎。

 見物の喝采、いやもう物凄い人気。

 舞台の定九郎の演技。

 舞台に噛ぶり付いて瞬きせず仲蔵に見入って居る老いさらばえた浪人体の老武士がある。物部嘉助である。(F・O)

 =(F・I)長屋・物部の浪宅内部

 何か頻りに話して居る嘉助老人の半身(バスト)から始まります。

 聞いて居るのは、娘の雪枝。何か手内職して居ます(仕立物でも、団扇張りでも何でも結構)

 嘉助老人が「よく云うてあるわい」

T「親はなくとも、

 子は育つ」

 わしは昨晩つくづくそう思った。

T「今江戸中、

 人気の焦点(マト)、

 評判男の中村仲蔵が……」

 「その仲蔵が……」と過去を想い起すらしく、

T「二十年以前、

 貧に窮して、

 おやじ橋に捨てた

 我子、仲蔵とは……」

 「わしはこんな嬉しい事はない」

 聞いてた雪枝が仕事の手を止めて、

T「今晩にでも、

 兄様に会いに行かれては?」

 老人慌てて「馬鹿な事申すでない」

 「何故で厶ります?」と、雪枝がきけば、

 老人、

T「落ちぶれたりとも、

 物部嘉助も、

 武士の端くれ」

 厳として言い放ち、

T「忰が河原乞食に、

 成り下ったと、

 世間へ知れては、此の嘉助、

 御先祖様に申訳立たぬ」

 と云えば、

 雪枝、まァと云った体。

 嘉助、暗然と涙声で、

T「仲蔵は、

 我子とは思わぬ」

 と云って、

T「雪枝

 そなたもあれを、

 兄とは考えるでないぞ」

 と云われて、雪枝が涙ぐんで承知して見せると、

 老人も泌々、

T「わしは、あれの

 素晴らしい評判を、

 聞くだけで、

 もう満足……」

 武家気質の老人が淋しい満足です。悲しい諦めです。

T「こんな極楽はない」

 老人の悲痛な叫び聞いては、雪枝もホロリとせざるを得ません。と、彼女の坐って居る背後の窓(障子が開けてある)から、向いの家が見えます。今しも、その向いの家の表に訪れる浪人がある、後姿(大吉らしい)。

T「半次、又来たぞ」

 雪枝がハッと振り返って、「まあー」と仕事放って窓の所へ。

 向いの家の表――半次の家です。

 内部から半次出て来て「よう、先生」と大吉を内へ入れる(大吉はたえず背後向き)。

 窓から雪枝うっとり見惚れてた。

 大吉の入った後から半次も続いて内へ入ろうとして、フト向いの家に気づく。

 見られて雪枝てれて視線外す。

 半次、エヘッと意味深の笑い残して内へ入るとカメラがスーと流れて、

 井戸端です。今しも長屋のお内儀二三人、ワイワイ話している。

 話の中心が一人の男(職人らしい)「話しだけじゃ分らねえ」と立ち上り、側に乾してある破れ傘持って、

 尻からげして天晴れ定九郎振りよろしく珍妙な大見得切る。

 お内儀連、キャッキャッ笑う。

 「笑うねえ!」と其の男、

T「その又、仲蔵の

 男ッ振りのいい事ッたら」

 と馬鹿に賞めて居るのを、

 窓の中で、嘉助老人嬉しそうに聞いて居た。

 側の雪枝はじーッと他の事考えて居るらしい。

(F・O)

大入満員

三日目の中村座

 =(F・I)芝居小屋

 幕閉って居る。

 大入満員の平土間。

 桟敷の女客。

(たらいに番附入れたのを肩に乗せ売って歩いている等芝居小屋の情景よろしく)

 平土間で「幕開けろ!」と怒鳴ってる、五月蝿いのもある。

 他の桟敷に五郎蔵親分来て居る。五郎蔵の側の蒲団が空いている。誰か立って行ったらしい。

 又他の桟敷には進藤甚助始め、旗本の連中五人何か話して居る。

 進藤が、他の若侍に、

T「聞かれたか

 仲蔵の定九郎?」

 と問えば、

 若侍の一人が「ウン兼々承知致す」

T「変っとるそうな」

 進藤会心の笑い「貴公等未だ御存知ない。その事では厶らぬわ、喃、貴公達、

T「御存じで厶ろう

 此村大吉?

 以前錦糸堀に居た?」

 他の若侍「ハアハア、あの大吉、どうか致したか」。進藤が、

T「何でも、仲蔵の定九郎

 あの大吉に

 そっくりとの事」

 他の若侍「左様か、此奴は初耳」

 進藤がヘヘンと笑って、

T「河原者風情に

 真似られるとは

 大吉奴、落ちぶれたわい」

 と、一同冷笑する。

 他の若侍が大きな欠伸した。

T「長い幕だなァ」

 と云う。

 平土間でパチパチ手を叩く奴がある。

 桟敷の五郎蔵「半次の奴、何をしてやがるんだろう」とじれったい顔。

 彼の側の主なき座蒲団。

 =楽屋

楽屋の入口の混雑は、何か事件があるらしい。役者も裏方も心配そうな顔付。

 小生意気な役者が(与市兵衛でも、勘平でも何でも結構)吐き出す様に、独り言。

T「仲蔵の奴

 下ッ葉の癖に

 出しゃ張った真似

 しやがるからよ」

 と云う。

 =楽屋の中では

 定九郎の仲蔵や座長らしい大石役者や、其他がペコペコ謝っている。

 一同の前で啖呵切って居るのが半次。

 一人の座主らしいのが、オズオズ紙包(金子)を前へ出した。

 半次ジロッと其れを一瞥して「こりゃ何だ?」と言った顔で其の男を睨む。

 オズオズ口ごもる件の男。

 半次が大喝「馬鹿!」

 ウヘーとその男、平謝り。

 半次益々「よう聞いとけ」

T「金が欲しさに

 言ってるんじゃ

 ないわい!」

 ジロジロ仲蔵の定九郎を見て「ヤイコラッ」

 「ハイ」と仲蔵。

 半次「ウヌか? 仲蔵とか云うのは」

T「てめえの顎(アゴ)の青髯

 に其の五分月代(さかやき)」

 仲蔵ヘーイと自分のズラを気にする。

 半次尚も、

T「それから

 其の黒羽二重に

 朱鞘の長刀(ダンビラ)

 落し差して

 居る処……」

 と云われて仲蔵、恐る恐る「それがどうか致しましたか?」

 半次、ジロリと仲蔵を睨み、

T「何から何まで

 俺の先生そっくりだァ!」

 驚く仲蔵。半次詰め寄って、

T「誰に断って

 俺の先生の表看板

 横取りしたァ!」

 「御尤も」と一同謝る。

 半次中々承知しない。

T「兎も角、てめえ

 舞台に立つ事ならぬ!」

 最後の宣告である!

 仲蔵「そう仰言らず」と一同と共に頼むが、

 半次、断然啖呵切る。「誰が

T「何と言ったって

 幕は開けさせぬ!」

 「此の半次様が承知しねえ!」

 一同ホトホト困り果てた。

 その時、楽屋の表に一同にひっぱられて強そうな男(多分道具方らしい)やって来た。

 人掻き分けて前へ出て、

 半次の首筋ムズと掴んだ。

 半次眼を白黒。

 一同ヤッと安心する。

 強い男、半次を肩に担いでズドンと投げた。

 踏んで蹴って又投げつけて、

 格闘暫時――

 結局フラフラの半次を軽々と肩に乗せる。

 =桟敷

 五郎蔵親分「遅いな半次は?」と思ってる時に強い男、半次を引ッさげて幕の中より出て来て、

 「何処だ? 彼処か」

 と五郎蔵の席へ来て側の蒲団の上へ半次をドスン。

 投げられて気のついた、半次、夢中で「サー殺せ!」

 強い男が「何ッ!」と。

 半次、彼に気付いて、オホホと小さくなる。

 五郎蔵「ナニ」と強い男に向わんとするのを、

 半次、

 周章てて止めた。

 強い男セセラ笑って去る。

 後見送って五郎蔵「どうした?」

 半次が「あかん、強い奴や」と体の筋々が痛そうです。

 拍子木がチョンと鳴る。

 半次「アー幕が開く」

T「先生、早く来ねえかな」

 と大吉を物色して辺りを見廻す。

 平土間の客も幕が開くので落ちつく。

 進藤たちも雑談止める。

 女客も坐り直す。

 又拍子木チョンと鳴れば、

 半次悲観して五郎蔵に、

T「酔っぱらって

 来ないのじゃ、ないかな?」

 「困っちまうなァ本当に」と云ってる時、

 又チョンチョンと鳴る。

 半次耐らなくなって立ち上りキョロキョロ場内を見廻す。

 五郎蔵が独り言。

T「先生が来ると

 面白い芝居が見られるんだが」

 と云って居る時、

 又拍子木チョンとなる。

 半次尚もキョロキョロ。

 チョンッと拍子木一ツ鳴る。

 半次キョロキョロ。

 チョンと又一ツ。

 半次キョロキョロ。

(半次と拍子木のカットバックよろしく、追々急速になって遂に、フラシュバックになった時)

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