2話 中村仲蔵(2)
読み方を変える
拍子木チョンチョンチョンチョン……で幕が開いたらしい。
半次遂に断念したかドッカと坐る。
桟敷の女客が花道の方見る(仲蔵が其処から現れるからです)。
旗本連も花道の方見る。
五郎蔵も花道の方を見る。
平土間の観衆、花道の方を見て居たが、ドッと喚声上る。
花道――ダダと駈けて来た仲蔵の定九郎、七三でグッときまった。
客の一人が「ナリコマヤ――」と怒鳴る。
桟敷の女客が恍惚とする。
半次チェッと舌打ちする。
仲蔵花道で大見得切って置いて、舞台の方へ歩き出さんとした時である。
T「仲蔵引ッ込め!」
仲蔵ドキンッとして立ちすくむ。
土間の客「ナンヤロなァ」と声のした方キョロキョロ見る。
半次も五郎蔵も「可笑しな具合」と顔見合わす。
仲蔵、暫時棒立ちになってたが気のせいやろうと又歩き出さんとすれば、
T「引ッ込めッたら
引ッ込めッ!」
仲蔵吃驚して棒立ちになる。
平土間の客、動揺して一斉に一方を見る。
進藤等も「何で厶ろうな」と顔見合わす。
女客も声のした方を訝しげに見る。
半次と五郎蔵も見る。
棒立ちの仲蔵。と又、
T「引ッ込ま無きゃ
ひきずり下す!」
桟敷の後の戸がガラリと開く。誰か立っている(下半身だけより見せない)。
仲蔵、不審げに戸の開いた方見る。
半次も見た。よろこんだ! 躍り上った。
T「先生!
待ってました!」
と大喜び。
桟敷の女客の一人が、
T「まあ
此村大吉よ」
と相手の女に言う。
それ聞いたか平土間の一人の客が「オホホ」
T「此村大吉」
と眼見張る。
進藤がそれを耳にした。
T「なに、大吉だ?」
と、他の若侍と共に気色ばむ。
一杯機嫌の此村大吉、ニタニタ笑い乍ら仲蔵を睨んでいたが、
ノッシノッシ花道へ上って、
震え上って居る仲蔵の傍へ寄り、
T「よくも、この大吉と
定九郎とを
一緒にしやがった」
物凄い権幕に仲蔵蒼くなる。
半次も大喜びで続いて花道へ飛び上る。
平土間の客は愈々騒々しい。
と、舞台の方から例の強い男、事件出態とばかりノシノシ出て来た。
大吉の背後の半次小さくなる。
強い男は、尚も仲蔵を責めて居る大吉の側へ寄って「コラッ」と胸倉掴んだ。大吉、二三度振り払ったが、尚もしつこく掴みに来るので逆に強い男の腕掴んで、二三間曳きずって物の見事に花道から、
平土間へドスーンと投げつけた。
投げられて強い人フラフラ。
半次「どんな物でえ」と花道の上から先刻の仇とばかり強い男の頭をコツン!
大吉、オドオドして居る仲蔵の所へ戻って、
「ヤイコラ
T「仲蔵! 汝に
俺が命令する」
断然と言い放ち、
T「此後断じて
舞台に立つ事ならぬ!」
仲蔵仰天した「そんな、無理な事」
大吉「あかんちゅうたら、駄目だ」
仲蔵「そう仰言らずに……」と必死に謝り頼む。
桟敷の女客「ひどい人」と顔見合せる。
進藤始め、若侍達も、いまいましそうな顔。
仲蔵が尚も必死に頼むのを、大吉ニタニタ笑い乍ら聞き流して居たが暫時して、
T「汝 それ程
舞台へ出たいか?」
と問う。
仲蔵「はい出とう厶います」と涙見せて頼む。
大吉「汝がそれ程
T「出たけりゃ
勝手に出ろ!」
「エッ」と訳の分らぬ仲蔵、でも嬉しそうに、
「あの出ても構いませんか?」
大吉「ウーン、いいとも」と頷いて、さて改まって、
T「じゃが……」
ジロッと凄く仲蔵睨んで、
T「素ッ首
洗っとけよ!」
仲蔵呆然たり。
大吉刀の柄に手を掛けて、
T「舞台へ上る、その前に
親兄弟に遺言
して置く事、忘れるな!」
エッと仲蔵絶望する。大吉冷笑す。
と、平土間の一人の客が、
T「そんな無茶な!」
と叫んだのをきっかけに、平土間の群衆騒然たり。ガヤガヤ、ワイワイ口々に、
T「横暴だ!」
T「大吉、退れ!」
T「無茶だ!」
T「ひどいぞォ!」
T「どん百姓、下りろ!」
ガヤガヤ、ガヤガヤ喧しい事!
大吉イライラして来た。観衆をハッタと睨み、
T「喧しいやい!」
大刀ズラリと引ッこ抜く。
平土間の観衆忽ち驚く。
大吉「静かにせんかァ!」
平土間やや静かになる。
大吉花道から、大刀片手に大跨にヅカヅカと舞台へ来り、平土間に向って、
T「文句が有ったら
上って来い」
観衆睨み乍ら舞台の端を行ったり来たり「文句ある奴何奴だァ」と怒鳴って歩く。
T「平土間残らず
俺が相手だ!」
「誰でもいい、文句有ったら掛かって来い」
T「命の要らねえ奴は
何奴だァ!」
と大声に怒鳴って「貴様かッ?」と一人刀で指す。
指された男「滅そうな」ブルブル。
大吉、又、他の男に「貴様か」
その男、震え上って小さくなる。
大吉「誰も文句がないのか?」
T「仲蔵は、今日限り
舞台へ上げぬぞ!」
「いいか、皆承知だなァ」と叫んで、
T「文句、ほざく奴
居ないのか?」
「どうだァ!」と大刀振り上げる。
進藤始め若侍「畜生!」と云った態。
大吉、尚も舞台を歩き廻り乍ら平土間に、
T「此村大吉が芝居を
滅茶苦茶に
ブッ壊したんだ!」
ジロリと、進藤等の方一睨して又群衆に向って、
T「むかつく奴
居ないのか?」
と怒鳴る。
進藤たちウヌッと怒る。
大吉尚も舞台の端を右左に歩き廻り乍ら進藤たちの方チラッと見乍ら、
T「天下の豪傑
出て来ぬのか?」
怒号する。五六歩横に歩いて又、
T「何奴も此奴も
此村大吉が怖いのか?」
遂に進藤「ウヌッ」と叫んで、
T「大吉!
其処動くな」
叫ぶと共に五名バラバラと桟敷より駈けて舞台へ飛び上った。
大吉刀を収めて「ニヤー」と満足の笑。
T「待ってたんだ」
と云って五六歩、後退り、へへへと笑い、
T「馬鹿野郎の
飛び出すのをなァ」
と云う。
進藤たち怒って、ズラリズラリと抜刀した。
大吉「ナニッ」
T「やるか?」
「よーし、やるぞ!」と云う。
半次、飛び上って喜んだ。走り出し、
舞台の隅へ坐って平土間の客に向い、拍子木叩いて、
T「東西――
東西――」
「ベラベラベラ」何だか喋言り出す。
平土間の客「面白うなったぞ」と固唾呑む。
女客も不安乍ら見て居る。
其処彼処の弥次馬連ワイワイ、ワイワイ騒々しい事!
半次尚も、
T「演じまするは
これ北辰一刀流
名代の踊り手
此村大吉が得意の壇上」
拍子木をガチャガチャガチャ。
T「いで――
三味や太鼓も賑やかに」
「振り面白く踊り出だす……」
T「当世流行
剣劇踊りの
始まり
はじまり」
チョン、チョン、とやったものだ。
大吉、笑い乍ら大刀抜く。
進藤たちスワと身構える。
大吉、刀を背向ける(背打ちにする覚悟らしい)。
平土間固唾呑む。
大吉「一人二人……五人か」
T「まず
五から一引く」
立廻り。
一人殺られた(無論背打ち)。
平土間ワッと喚声上げる。
半次「一人……」と指折る。
大吉、ニタニタ笑い乍ら、
T「四から一引く」
立廻り。
又一人殺られた。
平土間の喚声。
半次「二人……」と喜ぶ。
大吉、悠々、
T「今度は
三から二引く」
立廻り。
今度は二人一度にズバリ――
平土間騒然たり。
女客も「マァー」と鮮やかさに眼を見張る。
半次「ホー四人だァ」
大吉、ニタニタ笑い乍ら、
T「残った一つを
二つにする」
と云って背打ちにしていた大刀元に返す。
進藤、オホホと蒼うなる。
大吉、ジリジリ迫って、
T「縦に二つか?」
進藤、ジリジリ下る。
大吉、ジリジリ進み乍ら、
T「横に二つか?」
進藤、ガタガタ震え出す。
大吉、尚もジリジリ。
T「それとも
斜めの袈裟がけか?」
と云って笑って居た唇グッと引きしめた。
進藤、生きた心地しない。
大吉、サッと大刀振り上ぐ。
進藤、ワーと叫んで大刀おッ放り出して其場にヘタヘタヘタ。
大吉、気抜けした。
平土間は大笑い。(F・O)
其の夜も更けた。
=(F・I)川端
柳の木の下に悲恋に泣く男女の姿。
お光が涙の面で、
T「では、どうあっても
明日演るの?」
決然として仲蔵が答えた。
T「演る!」
涙を呑んで、
T「私も男……」
耐られなくなって柳の木に面伏せた。
お光も悲しかった。
仲蔵が健気に言ってのけた。
T「役者が、舞台で死ねたら
本望……」
勇ましや、恋人の言葉! お光も嬉しかった。
仲蔵が、
T「お光ちゃん」
二人相抱いて、暫時声無し。仲蔵が、
T「私と云う男は
何処までいじめられる
んだ!」
夜は更けて風粛々、二人の嗚咽の声のみ高し。
(F・O)
=(F・I)物部の家
表障子ガラリと開いて嘉助老人打ち沈んで帰って来た。
T「駄目だ!」
行燈の灯影の許、雪枝と向い合って坐った。
暗い空気があたりを包む。
老人が、
T「仲蔵は、明日も
舞台へ上るとの事」
驚く雪枝。老人が、
T「出れば
きっと殺される!」
と言い放ったきり、老人は凝っと一点を見つめた儘動かない。
雪枝が、
T「憎いのは
此村大吉とか仰しゃる
御武家様……」
弱い者が強い奴への果敢ない反抗です。
「いくら、いくら……
T「酔狂にも
程がある……」
悲痛な叫びは老人の胸を掻きむしった。
T「可哀そうな兄さんの
出世の道
妨げたばかりか」
雪枝尚も叫ぶ。
T「妾達親娘の
たった一ツの幸福まで
ブッ壊して……」
後は涙に声もなし。
嘉助老人の眼光の鋭さは何事か決心する所あるらし。(F・O)
翌朝――
猿若町に櫓の太鼓
鳴り響けば
鳴り響く櫓太鼓――
=(F・I)お光の茶店(朝まだき)
駕籠が一丁待っている。茶店の戸を開けてお光に送られ飛び出した仲蔵。
T「名残りは尽きぬ!
随分達者で……」
サッと駕籠に乗る。
見送るお光の涙顔。(急速にF・O)
=(F・I)物部の家
嘉助老人おっとり刀で飛び出さんとするのを雪枝が縋って「何処へ?」
老人が「何処へとは知れた事
T「老いさらばえた
此の命
伜の役に立てて来る!」
雪枝を振り切って二三歩、尚も縋り付くのを足蹴にし、
老人土間へ飛び下りて、
雪枝を振り返り、
T「此村大吉と
刺し違える!」
叫ぶと見るや表へ飛び出した。取り残されオロオロする雪枝。(急速なるF・O)
=(F・I)ある街角
進藤甚助やって来ると、昨日の若侍と剣士日下部典六の面々とバッタリ出会った。若侍の一人が「オオ
T「いい所へ、進藤氏
中村座へ行こう」
進藤、震え上って「馬鹿な事」
若侍が、
T「日下部先生をお頼み
したから
今日は大丈夫」
成程、強そうな日下部典六の一党。けれど進藤、心配だ。
T「拙者、今朝がたより
腹痛を覚え……」
と急に腹をおさえる。
若侍も「それでは致し方厶らぬ」と、進藤と別れ一同急ぎ足に走る。
(急速なるF・O)
=(F・I)半次の家
鉢巻で尻掛げした半次、勇ましく飛び出した。
T「面白うなって来たぞ!」
雀躍りして喜んだ。
T「先生、引ッ張って
来なくちゃ……」
と慌てて去る。
(急速なるF・O)
=(F・I)道――
急ぎ足に歩いて居る日下部典六の一行。典六が、
T「日下部典六、一党
引き連れ乗り込むと
聞いたなら
大吉奴、驚くぞ」
と云えば、若侍が「左様
T「震え上って
よう来ぬかも知れぬ」
云い乍ら一同歩いて居る。
(急速なるF・O)
=(F・I)他の道――
途上で半次はバッタリ子分連れた五郎蔵親分と出会った。
半次は息せき切って、
T「先生知りませんか
先生を?」
五郎蔵が「先生?」
T「先生なら
俺の家で酒呑んで居る筈」
半次喜んだ! それじゃと一同そろって走り出す。
(急速なるF・O)
=(F・I)物部の家
仏前に雪枝が、父の無事なる事を一心に念じて居る。
(急速なるF・O)
=(F・I)柳島の妙見には――
恋人の無事なる事、神かけて祈るお光の姿がある。
(急速なるF・O)
=(F・I)道――
走る嘉助老人。
走る仲蔵の駕籠。
急ぎ足の典六等の一行。
走る半次と五郎蔵達。
以上のカットバック追い追い急激に物凄きスピードとなり、
結局――
=五郎蔵の家の表
バラバラと半次の一行、飛び込んで行く。
(F・O)
中村仲蔵死を決して
出演し
日下部典六一党率いて
繰り出したと聞けば
此村大吉たる者亦
登場せざるべからず。
三ツ巴の大波瀾を
予期した江戸ッ児連が
中村座に雪崩
れ込んで……
=(F・I)芝居小屋
大人気大入の平土間。(O・Lして)
大入満員と書いた札。(F・O)
=(F・I)五郎蔵の家の一室
此村大吉の半身位、大吉カメラの方を向いて、ワハ……と愉快そうに笑う。
T「皆、一杯
喰わされやがった」
聞いた半次や五郎蔵呆れた。
半次が、
T「冗談じゃねえ
先生、本当に
行かないんですか」
大吉半次の方見て、
T「行かないよ」
半次が何か言わんとするのを大吉、
T「今も言った通り
行き度くないから
行かぬのだ」
半次が「でも先生
T「昨日、あれだけ
仰有っとき乍ら」
「今更になって……」と言うのを
大吉、空うそぶいて、
T「昨日は昨日
今日は今日」
半次が尚もしつこく、
T「でも
武士の言葉に……」
大吉が半次をジロッと見て、
T「二言ないと
申すのか」
半次がうなずくと大吉改まって、
T「半次よ
貴様俺が武士に
見えるか?」
半次、「阿呆な事、見えるかって、武士じゃ厶いませんか?」
T「大吉が俺がまこと武士なら
先祖伝来の千五百石
戴いて、錦糸堀に
くすぶってるわ」
と言い放ち、更に、
T「有難い事に
俺は武士じゃない」
半次が「武士でなかったら何ですい」
大吉、
T「自由気儘の
悪たれ小僧よ」
言い度い事言って了うと大吉出掛けようとするので、
五郎蔵がとめた。
T「先生はそれでよいかも
しれませんが
此の五郎蔵の腹の虫
が収まらぬ」
と本気になって怒り出した。
T「仲蔵はきっと
五郎蔵がとっちめて
お見せします」
大吉、簡単に、
T「お託せする」
と立ち上り、
半次も続いて立ち上る。
襖の所で大吉振り返って五郎蔵に、
T「じゃが、親分
いかい御熱心?」
五郎蔵、図星さされてグッと詰ったがテレ隠しに「ナー
T「先生が、他人事の様
に放って置くからよ」
と言うのを大吉の傍の半次が、
T「とか何とか言って
其の実は……」
大吉が「其の実は?」
半次が、
T「叶わぬ恋の
意趣晴らし」
五郎蔵「馬鹿!」と怒る。
半次慌てて去る。大吉も笑い乍ら出て行く。
=五郎蔵の家の表
大吉と半次格子戸をガラリと開くと、
バラバラと五六人の通行人急ぎ、
走り去る。続いて又数人、口々に「喧嘩だ」
と言っているらしい。
大吉、半次を振り返って、
T「喧嘩らしい」
と二人急ぎ足に去る。
=附近――
大吉と半次来て見ると成程喧嘩らしい。群衆ワイワイ言っている。
一人の旗本、数名の浪人者の立廻り。何と言っても数の少ない方が危い。
既に斬り伏せられんとした時、大吉飛び出して来た。
旗本を後にして、
T「友人の誼
助勢致す!」
と叫ぶや、長刀ズラリ引っこ抜く。
立廻り。
結局、浪人者サンザンの態にて逃げ去る。
大吉が刀収めた時くだんの旗本、
T「いずれの御人か
存ぜねど
千万忝けない」
と礼を述べてから、負け惜しみに、
T「尋常ならば
彼奴等如きの
五人六人」
「束になって参ろうとも……ビクとも致す、拙者では厶らぬが」
T「何分にも
病気上り……」
と言うのを大吉が、
T「弱って居られて
御幸せ」
「エッ」と旗本訝しそう。
大吉が、
T「拙者、強い方を
叩き斬る」
面喰って居る旗本を尻目に大吉尚も、
T「貴殿が御強よう
厶ったら、今頃
貴殿の其の首は
まさか胴には……」
「着いちゃいまいテ」と大笑する。
旗本、オホホと首をおさえた。(F・O)
翌る朝――
=(F・I)お光の茶店
進藤甚助と昨日の若侍とが休息して居る。進藤は若侍から昨日の事聞いたらしい。
T「さもあらん
さもあらん」
とうなずく。
若侍が、
T「日下部先生お出で
と知って、よう出て
来ぬとは大吉も
案外情けない奴」
と言えば、
進藤が、
T「と思って居られる
から、御貴殿は
未だ若い」
若いと言われて若侍訝しそう。
進藤威張り返って、
T「大吉は
身共が怖くて
よう来なかったのじゃ」
独りで威張って居る。
茶店の柱に凭れて居たお光が彼方を見てオヤッと言った顔(大吉を見とめたからだ)。
進藤が話して居る背後の床几に大吉が腰下した。
若侍、オヤッと思ったが、
進藤は平気な物。
T「大体身共は内気な
方で厶って喃」
若侍手真似で「アカンアカン」云うが、
進藤一向構わず、
T「生得、大勢の人中へ
出ると気がボー
と致す性質」
大吉背後でジッと聞いて居る。
若侍泣き相になった。
進藤知らずに尚も、
T「尋常の勝負ならば
断じて大吉如きに」
大吉が後を続けた。
T「負とらぬと
仰しゃるか?」
ゲーと進藤飛び上った。背後見て二度吃驚慌てて五六歩逃げたがハタと立ちどまる。
床几の上に残って居た進藤の大刀を大吉が取り上げる。
進藤振り返って之を見て泣き相な顔。
大吉ニヤニヤ笑って刀を弄って居る。
進藤のベソ掻いた面。若侍の方は、五六間向うで早く逃げようと言って居る。
大吉、進藤の刀持ってスックと立ち上る。
進藤飛び上って驚いた。後をも見ずに一目散。
大吉、笑って件の刀、ポイと上へ投げる。
茶店の屋根上へ落ちる刀。
はるか彼方の木蔭で様子を見て「アッアッ」
と云った顔の進藤と若侍。
大吉が又床几に腰掛けて茶を飲まんとした時、急ぎ足に半次が現れた。大吉を見て「先生」
と近寄る。
大吉「半次か、まあ掛けろ!」と言って、
T「五郎蔵親分
見事、仲蔵を
とっちめたかい!」
仲蔵と聞いてお光はハテと聞耳立てる。
半次が「ソソそれが大変ですよ」
大吉「どうかしたか」と訊く。
半次、
T「昨夜、芝居が
果ててから
帰りを急ぐ仲蔵
の駕籠を……」
(此のタイトル次の画面にO・Lして)
=深夜の街
帰りを急ぐ駕籠一丁。
突然、バラバラと現れた五郎蔵一味が駕籠を囲んだ。
五郎蔵が、
T「仲蔵出ろ!」
駕籠からは一向出て来そうもない。
背後の方で半次見て居る。
五郎蔵ヅカヅカと駕籠に寄り、垂れを上げんとした時、アッと叫んで蹴飛ばされる。
一同スワと身構えれば、
駕籠の中より現れた日下部典六。
一同二度吃驚。
典六驚いて居る五郎蔵を投げ飛ばし、
その首筋掴んで、
T「帰ったら大吉に
申して置け」
一同が斬り付けんとするのを一喝して置いて、
五郎蔵に、
T「日下部典六が怖くて
よう来ぬのなら
怖う厶いますと
両手をついて
詫びに来い!」
と、首筋掴んだ儘、五郎蔵を曳きずり起し、
T「さすれば
命だけは助けて
やるとなァ」
と叫んでドンと突けば、
五郎蔵二三間コロコロと転がった。
せせら笑う典六。
呆然たる半次。(F・O)
=(F・I)元に返って
話して居る半次。
T「第一捨て台詞が
気に喰わねえじゃ
厶んせんか、ねえ
先生」
大吉笑って居る。
お光はまだそっと聞いて居る。
=茶店の横手
進藤甚助と例の若侍が梯子掛けて進藤が屋根へ上る。刀をとるつもりらしい。
大吉ニヤニヤ笑い乍ら、
T「日下部典六
可愛いい奴」
半次面喰った。
T「可愛いい奴……
と言って
放って置くんですか」
大吉問題にしない。
T「当分喜ばして
置くサ」
半次「当分喜ばして置いて」
大吉、
T「気が向いた時
出掛けて行って
冥途へ送ってやる」
「なーる程」と半次。
大吉「出掛けよう」と手を叩く。
お光ハッとして急ぎ大吉の方へ。
屋根の上で――
進藤、刀を拾わんとして前へよろめいて、
アッアッアッと言ってる中にコロコロと転がって、
大吉たちの前へドスンと落ちて、驚いて立ち上ったが腰が抜けてヘタヘタ。(F・O)
其の夜
仲蔵をとっちめると云った
五郎蔵の言葉が
実現した
=(F・I)夜の町
お光が急ぎ足に歩いて来る。
五郎蔵一味、息を殺して待って居る。
五郎蔵がソレッと合図した。
一同バラバラとお光を囲む。
驚いたお光、アッと叫んで逃げんとする。
背後から抱きつく奴――(F・O)
=(F・I)五郎蔵の家の一室
五郎蔵が嫌にニタニタ笑って居る。
お光、鷲の前の小鳩と云った形。
半次や二三人の児分が控えて居る。
大吉は隅で独酌でチビリチビリ。時々五郎蔵の方ジロリと見ては、嬉しそうに笑って居る。
お光は案外、落ち着いたもの。
五郎蔵が、
T「仲蔵の命は
俺の手の中にあるんだ」
「よっく考えて見ろよ」と五郎蔵、
T「殺そうと生かそうと
お前の心一つ……」
云われてお光ニコッと笑って、
T「古臭いわねえ
其の手は……」
五郎蔵エッと意外の面。
お光、
T「一昔前なら
そんな嚇しも
利いただろうにね」
とせせら笑って五郎蔵を見て、
T「此の間の晩
大川端でお武士に
投げ飛ばされて
ギュッと言わされたのは……
親分、あれは一体
誰でしたっけねえ?」
グッと詰って眼を白黒さす五郎蔵、怒って、
T「ドドどうするか
覚えてろ!」
と、カンカンに怒る。
お光はフンと鼻であしらう。
大吉ニヤニヤ笑い乍ら酒を呑んで居る。
(F・O)
此頃の嘉助老人は
伜の評判の素晴らしさに
聞き惚れて居る
だけでは、どうにも
我慢が出来なくなった
=(F・I)嘉助の家
雪枝がイソイソと帰って来た。
嘉助老人はボンヤリ室に坐って居る。
雪枝が嬉しそうに「父上様
T「よい事
聞いて参りました」
嘉助が「何だ?」と問う。
雪枝が、
T「兄さんは毎晩
芝居が済んでから
柳島の妙見様へ
お詣りになるとの事」
「成程」と老人の面に喜色浮ぶ。
雪枝も嬉しそうに、
T「其処で
人知れず親子の
対面なされたら……」
「ウンウン」と老人。
雪枝が、
T「それなら、まさか
お父上様の武士も
廃りは致しますまい」
聞いた老人元気よく、
T「そうだ、今夜
柳島の妙見へ」
包み切れぬ喜悦、面に浮べ老人が言いました。
雪枝も父の笑顔見て嬉しそう――
と、ツト立って表の間へ。
障子の破れから、外見て居る。
=長屋――
半次の家から今日も大吉と半次ブラリと出掛ける。(F・O)