森の石松

3話 森の石松(3)

6,781字 約14分 2012年11月16日 公開

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S=茶店

 都田村の吉兵衛親分と、久六の児分、布橋の兼吉に小島の松五郎、それに吉兵衛の児分数吉が訪ねて来る。

 吉兵衛がお静に、

 「姐さん、石松つあん帰ってるだろう?」

 「兄さん?」

 「帰ってるだろう」

 「いいえ、……兄さん、帰って来ますの?」

 「なんだ。知らねえのか?」

 「本当ですか? お父っつあん、兄さんが帰って来るんですって」

 「なに、石松が帰って来る」

 源兵衛さん出て来る。

 「これは爺っつあんか、俺ァ都田村の吉兵衛って者だ」

 「はい……」

 「石松つあんとは以前からの友達だ」

 「久し振りに二人で一杯やりてえと思って来たんだが……まだ帰って来ねえのか」

 「石松が帰って来るので御座いますか」

 「なんだ。まだ爺っつあんも知らねえのか」

 裏口から内部の様子を窺って居た兼吉、松五郎の処へ戻って来て小声で話す。

 「まだ帰ってねえ」

 「隠してるんじゃあるめえな」

 「いや、本当に居ねえらしい」

 吉兵衛、源兵衛に、

 「帰って来たら、是非一度俺の家へ遊びに来る様に言って貰い度え」

 「はい、承知致しました」

 「じゃ爺っつあん、御免なせえ」

 「御免下さいまし……」

 吉兵衛、一同、共に去って行く。

 後に源兵衛親娘が、

 「兄さん、帰って来るのね」

 「帰って来るなら来るで、手紙の一本位出しときァいいのに、気の利かねえ奴だ」

 その時、

 旅人が一人通り掛かって、

 「御免なせえまし。森の石松つあんの御宅は此方で御座いますね。清水から手紙を言付かって参りました」

 「お父っつあん、清水から手紙ですって」

 「なに、清水から手紙」

 「きっと兄さんからよ」

 旅人、手紙を渡して、

 「確かにお渡し致します。じゃ御免なせえまし」

 「御苦労様で御座いました」

 旅人、去る。

 お静、源兵衛に手紙を渡して、

 「兄さんからでしょう」

 源兵衛、表書を読む。

 「石松どの? なんだ、これは石松の処へ来た手紙だ」

 「誰からなの」

 「おはん?」

 「おはん? 女のひとね」

 「一体、誰だろう?」

 「兄さんのお嫁さんかも知れないわ」

 「まさか……」

 「お父っつあん、読んでみたらどう?」

 「そうだな……。読んだっていいだろう」

 と源兵衛、封を切って読み始める。

 お静、のぞきこんで、

 「どう? 矢張り兄さんのお嫁さんでしょう?」

 「そんな書きっ振りだ……む――、こりァ余っ程以前から一緒になってるらしいぞ」

 「まア呆れた。兄さんったらそんな事ちっとも言って寄こさないのね」

 「親の儂に一言の挨拶もしねえで、何処の馬の骨か分らねえ様な女と一緒になりやがって………」

 「兄さん帰って来たら、うんと叱言を言ってやるといいわ」

 「おや?」

 「どうしたの」

 「ほ――」

 「どうしたのよ?」

 「子供が生れるんだって」

 「まァ赤ちゃんが」

 二人、笑い出す。

 野良帰りの七五郎、入って来る。

 「爺っつあん、何を笑ってるんだい」

 「今日は」

 「静坊、一杯呉れ、冷でいいよ」

 「はい」

 お静、酒を出し乍ら、

 「七五郎さん、兄さんったらね、知らないうちにお嫁さん貰ってるのよ」

 「石松が……?」

 「それで今度、赤ちゃんが出来るんですって」

 「なーンだ。それでか、爺っつあんいやにニコニコして居ると思ったよ」

 源兵衛爺さん嬉しそうに、

 「なアお静、儂清水へ行って来ようと思うんだが……」

 「清水へ行くって、兄さんの処、分ってるの」

 「なーに、次郎長親分を訪ねて行きァ分るサ」

 「でも、兄さんが帰ってから一緒に行けばいいじゃないの?」

 七五郎が、

 「石松、帰って来るのか」

 「兄さんのお嫁さんから此処へ手紙が来たの。だからきっと帰って来るわ」

 「そうか、帰って来るのか。あい度えなァ、さぞ立派なお貸元になってる事だろう」

(O・L)

S=七五郎の住居の表

 それは曾つての日、石松が故郷を出る時、七五郎と語ったあの場所です。

 黄昏。七五郎、一人居る。

 「あの時、おッ母ァさえ居なけれァ、俺ァ石松と一緒に清水へ行ったんだ。おッ母ァがもう一年早く死んでれァ、俺ァ次郎長親分の身内になれたんだな?」

 その時、七五郎の女房、お民の声がする。

 「貴ン方、御飯よ……」

 「あ、今行くよ」

 七五郎、不気嫌に家へ入る。

S=内部(夜)

 御膳。

 七五郎、茶碗を置く。

 お民、

 「どうしたの?」

 「いや、喰い度くねえンだ」

 「何処か悪いんじゃない」

 「……」

 「でも一杯ぐらい、食べて置かないとお前さん」

 「喰い度くねえったら」

 お民、茶碗を置く。

 「どうしたのよォ?」

 「……」

 「ね、本当にどこか悪いんじゃない?」

 七五郎、

 「――手や爪を綺麗にして毎晩酒の一本も呑める身分になってみてえ……」

 お民、

 「お酒だったの。そうならそうと早く云って呉れればいいのに……まだ少し残ってるのよ」

 「お民」

 「えッ」

 七五郎、

 「誰が酒を呑みたいと云った?」

 「お前さん今夜、どうかしてるわ。どうしたの? 何かあったんでしょう」

 「石松が帰って来るそうだ」

 「石松つあんが……」

 「俺ァ石松に頼んで……清水の次郎長親分の身内になろうと思うんだ。朝から晩まで泥だらけで働いて、まずい飯しか喰えないこんな堅気な暮しが俺ァつくづく嫌ンなった」(F・O)

S=茶店(昼)

 七五郎、来る。お静に、

 「石松、今日もまだ帰って来ねえのか」

 「ええ、まだよ。兄さん、もう帰って来ないのじゃないかしら」

 「つまんねえな」

 表に旅人来る。石松です。床几に腰掛ける。

 お静、出て、

 「いらっしゃい」

 お静、茶なぞ汲みながら、石松と気付かない。

 「ね、七五郎さん、兄さん、お父っつあんと途中で会って、一緒に清水へ行ったのかも知れないわ」

 「俺も清水へ行こうかな」

 「兄さん処へ行くの?」

 「俺ァ是非石松に会わなくっちゃならねえ、会って頼み度えことがあるんだ」

 石松、ふと吉兵衛等が来るのを見る。

 吉兵衛来る(兼吉と松五郎を連れて)。

 お静が、

 「今日は」

 「姐さん、石松つあん未だ帰って来ねえのか」

 「ええ、まだですの」

 「おや七五郎?」

 「親方、今日は。今もね、お静坊と石松はもう帰って来ねえンだろうって話して居たんですよ」

 「帰って来ねえッ? そんな筈はねえ、きっと帰って来る」

 「そうですかい」

 「今日あたりは、もう帰ってなきァならねえ筈だ」

 お静が、

 「お入りなさいまし」

 「いや、姐さん構わねえで呉れ。七五郎、お前、俺の代りに此処に居て、石松つあんが帰って来たら直ぐに俺の家へ知らせてくれ」

 「へえ、それぁもう、儂が間違えなくお知らせ致しますから、親方、どうかお引き取りなすってお呉んなせえまし」

 吉兵衛、兼吉等に、

 「おう」

 「へい」

 「此奴に頼んで俺達は帰るとしよう、じゃ七五郎、頼んだぞ」

 「へえ、宜しう御座います」

 「姐さん、御邪魔したな」

 「さよなら」

 吉兵衛等、帰って行く。

 お静、七五郎に、

 「あの人達、此処ンところ毎日よ」

 「へえ、吉兵衛親分、毎日来てるんかい?」

 「日に二度も来ることがあるわ、あの人達、兄さんに何の用事かしら」

 「なーに彼奴等、石松と兄弟分になりてえンだろう、きっとそうだ。相手は次郎長身内で名うての森の石松だ。兄弟分になっときゃあ、彼奴等肩身が広えからな。どうしたんだ?」

 お静、石松を見る。

 石松、後姿。銭を廻してる。

 七五郎も気付く。

 「おや?」

 お静が、

 「兄さん……?」

 「お静、大きくなったなァ」

 「兄さん」

 「なんだ、石松、お前先刻から其処に居たのか。黙ってるなんて人が悪いぞ」

 石松、笑って店へ入る。お静が、

 「兄さん、意地悪ねえ」

 「お前が、あんまり綺麗になってるもんだから、すっかり見違えて居たんだよ」

 「知らない」

 石松笑う。七五郎が、

 「あれ、石松、眼どうしたんだい」

 「なに、なんでもねえんだよ」

 石松、奥の間を見て、

 「お父っつあん居ねえのか」

 「清水へ行ったわ」

 「清水へ? 何日?」

 「四日程前よ」

 「何しに行ったんだ」

 「おはんさんから手紙が来たの」

 「おはんさんって……誰だ」

 七五郎が、

 「お前の女房じゃねえか?」

 「あッ、お半から何か云って来たのか」

 「知らない。兄さん意地悪したから教えない事よ」

 「手紙あるだろう。見せて呉れ」

 「知らない」

 「見せろよ」

 「兄さん、何時お嫁さん貰ったの」

 「おい、手紙何処にあるんだ」

 「妾達に内緒でお嫁さん貰ったりして、お父っつあん怒ってたわよ」

 「そんな事訊いてやしねえ。手紙を早く出せよ」

 七五郎、傍から、

 「石松、兎に角、草鞋をぬいで上れよ、俺ァ一ッ走り吉兵衛親分を呼んで来るから?」

 「おッ、七五郎待てよ。吉兵衛を呼ぶのはよせ」

 「何故だい? お前に逢い度がってるぜ」

 「彼奴は逢いたがってるだろうが、俺ァ逢い度くねえ訳があるんだ。後でお前にだけ訳を話すよ」

 「そうかい、じゃ呼びに行かねえ。俺もあの親分は虫が好かねえんだ」

 「七五郎、久し振りで一杯やろう」

 「おう、飲もう」

 「お静、早く出せ、何処にあるんだ」

 「なに?」

 「手紙じゃねえか」

 「誰の手紙?」

 「此奴ッ、あんまりくどいと兄さん怒るぞ」

 「怒って御覧」

 「なにッ」

 「これでしょう、嫌やァよ」

 お静、かくして居た手紙を出す。

 「オイ見せろよ、早く」

 「いやァよ」

 「出せよ」

 「嫌ッ」

 「オイ、これッ」

 と、たあいない中に。

(WIPE)

S=奥座敷

 縁側。

 石松、手紙読み乍ら柿を喰っている。

 お静、座敷へ酒を持って来る。

 「お待ち遠さま」

 七五郎、

 「石松、さッ一杯どうだ」

 石松、入って来る。

 七五郎、

 「暫く居るンだろう」

 「今夜帰るつもりだ」

 お静、

 「まあ、今夜帰るの」

 「ウン」

 「馬鹿に急ぐんだな、おい、ゆっくりして行けよ、久し振りに来たンじゃねえか」

 「せめて二三日遊んで行ったらどう?」

 「いや、どうしても今夜中に立たなくちゃならねえ」

 「お客様じゃねえか」

 この時、七五郎、表を見て言う。

 お静、立って行く。

S=表

 侍が床几に憩み、掛けている。

 お静、部屋から降りて来る。

 「いらっしゃいませ」

S=奥座敷

 石松と七五郎。

 「お静が聞くと心配するから言わなかったが、実ァ都田村の吉兵衛が俺の首をねらってやがるんだ」

 「えッ、吉兵衛が? そうか道理で近頃あの野郎様子が可笑しいと思った。毎日お前を訪ねて此処へ来るそうだ」

 「だから今夜の中にたってしまえば、まさか吉兵衛の奴も、気がつくめえと思うンだ」

(WIPE)

S=奥座敷(前のシーンと同じ)

 石松、大分飲んだ後の感じです。

 傍には七五郎とお静。

 「ああ、酔った。いい気持だ。俺ァ帰るのが厭になった」

 「兄さん、今夜はゆっくり休んで、明日の朝早くお立ちなさいよ……ね」

 「いや、矢張り今夜立つよ」

 七五郎が、

 「石松、話があるンだ」

 「改まって、どうしたんだい」

 「いや、お前のきっと喜ぶ事だ」

 「俺の喜ぶ事って?」

 「実は俺を次郎長親分の身内に加えて貰えねえだろうか」

 「お前が……親分の身内になりてえって……」

 「俺も、おッ母ァが居なくなって、誰にも遠慮も要らねえし、何時迄もこんな田舎でくすぶってるのは厭だから……やくざになって一生を楽しく暮そうと決心したンだ」

 「七五郎、其奴ァよくねえ考えだ。お前はやくざになるのはよせ」

 「何だって?」

 「やくざ稼業なンて、他で見る程楽しいものじゃねえ」

 「そんな事位え、俺だって判ってるよ。しかしやくざは男の中の男だってお前言ったじゃねえか」

 「いや、お前は此処で、堅気で暮した方が倖せだ」

 「石松、お前三年前に故郷を出る時、俺に一緒に清水へ行こうとすすめた時の事を忘れたのか」

 「七五郎、お前が何と云って頼んだって俺ァお前をやくざにしたかねえ、俺ァ厭だ」

S=茶畑

 七五郎、腹立たしそうに戻って来る。

 吉兵衛、兼吉等と姿を現わす。

 「あッ親分」

 「おい、石松は帰って来てるだろう」

 「いいえ」

 「なァ七五郎、教えてくれりゃ、五両だすがな、どうだ、七五郎」

 七五郎、立ちすくむ。

(F・O)

S=茶店

 裏縁、石松を送ってるお静。

 「義姉さんによろしくね」

 「うん、閑になったらお前も一度清水へ遊びにおいでよ」

 「ええ、きっと行くわ。兄さん、提灯?」

 「いや要らねえだろう。いいお月様だ」

S=茶畑

 吉兵衛一味、かくれる。

S=七五郎の家

 七五郎、酔っ払って帰って来る。

 「おい、今帰ったぞ」

 お民、

 「お帰ンなさい。あら、どうしたのお前さん」

 七五郎、酔いつぶれる。

 「まア、何処でそんなに呑ンで来たの……」

 「お民、酒をつけろ、酒を……」

S=茶畑

 石松、やって来る。

S=七五郎の家

 七五郎、起きる。

 懐の小判に触れる。

 とり出す。落ちる。

 お民、見る。

 七五郎、落着かず部屋を出て行く。

 戸口へ行きかける。

 お民の声が、

 「お前さん」

 七五郎、振りかえる。

 お民、金をひろう。

 「これ、どうしたの」

S=茶畑

 石松、吉兵衛にいきなり欺し討ちに会う。

 「あッ」

 石松、深傷に弱りながら一味と乱闘。

S=七五郎の家

 七五郎とお民。

 「お前さん、何処でこんなお金を手に入れたの?」

 「お民、酒を買って来い」

 「いいえ、お前さん、この金の出所をきかしてお呉れ」

 「酒を買って来い」

 「ね、どこでどうしてこのお金を……」

 「酒を買って来いってんだ。早く買って来ねえか」

 戸に誰かぶつかる音。

 七五郎、お民、思わず見る。

 「七五郎、俺だ、石松だッ。七五郎」

 転がり込む石松。

 「石松!」

 「石松つあん」

 「どッ、どうしたンだ石松」

 「閉めてくれ、そこを閉めてくれ」

 お民、戸を閉める。

 「どうしたんだ石松」

 「七五郎、しばらく、かくまって呉れ……吉兵衛の奴、卑怯にも欺し討ちにしやがった……俺の帰って来た事を何処で聞きやがったか、あの野郎……」

 お民、

 「お前さん、二階が……」

 「そうだ、石松、二階に隠れてろ……石松、痛むか?」

 「なーに、この位えの傷ァ……七五郎、こんな事があるから俺ァお前にやくざになるなって言ったンだ」

 石松、梯子を這いあがる。七五郎、助けあげる。

S=屋根裏

 藁が積んである。這い上って来て石松、藁の上に身を投げる。喘ぐ。

 七五郎、堪らなくなる。

 「石松、吉兵衛になァお前の来た事を……」

 「誰が言やがったんだろう……畜生」

 七五郎、言えなくなって梯子を下りる。

S=階下

 七五郎、下りて来る。

 梯子を外す。板の間を見る。

 「おい、そこ拭いとけ」

S=屋根裏

 痛みに夢中の石松。

 「お半……お半」

 (お半の声)

 「出来るだけ早く帰ってね」

 (石松の声)

 「お半、下の親爺に聞いたんだけど、お前――」

 (お半の声)

 「だから、早く帰って来てね」

 石松、喘ぐ。

 (源兵衛の声)

 「石松、俺が昔、やくざだったから、俺がやくざだったから、お前だけはやくざにしたくなかった」

 一文銭廻って落ちる。

S=表

 吉兵衛等、追って来る。

 「七五郎、開けろ」

 「おい開けろ」

 「開けろ」

S=階下

 七五郎、

 「どなた?」

 「俺だ、吉兵衛だ」

 七五郎、戸を開ける。

 吉兵衛等、飛び込む。

 児分達、家の中を探し廻る。

 「な、何をするんだ、何をするんだ。親分、なんですか」

 「おい七五郎、石松が来てるんだろう」

 「石松なんて来てませんよ」

 「何ッ」

 「何ッ」

S=屋根裏

 石松、階下の物音に窓の方へ匍い出す。

S=階下

 吉兵衛、畳の上を見る。

 「おや」

 血が落ちて来る。

 七五郎、思わず天井を見上げる。

 「おい二階だッ」

 「あッ親分何をするんだ」

 「何をこの野郎」

 「あッ親分、親分、誰も二階にいねえ、いねえ」

S=屋根裏

 石松、窓の方へ匍って行く。

S=階下

 七五郎、遮る。

 「誰もいねえ、いねえてえのに」

 児分達、梯子を掛けて駈けあがる。

 「あ、いた」

 「なにッ」

 「畜生ッ」

 「あ、お前さん」

S=向いの屋根

 石松、小路を隔てた向いの屋根へ窓から飛びついている。

S=屋根裏

 あがって来ている吉兵衛一味。

 七五郎、飛び上って来る。

 「親分、待って呉れ」

 「馬鹿ッ」

 七五郎、棚の出刃を取る。

 「野郎ッ」

 乱闘。暗がりで斬られる。

 「あッ」

S=向いの屋根

 必死で屋根瓦を掴んで匍い上ろうとしている石松。

 窓から顔を出した吉兵衛がいきなり後から斬る。石松、落ちる。(F・O)

S=茶店の表

 茶屋の旗。

S=内部

 旅姿の源兵衛が草鞋を脱いでいる。

 傍のお静が、

 「兄さん、昨日帰ったのよ、お父っつあんもう一日早く帰って来ればよかったのに……」

 「そうか、そりゃ惜しい事をしたな」

 「赤ちゃんどうだった?」

 「男の子だったよ。わしもまあ、これで安心したよ」

 その時お民が憑かれた人のような足取りで表から入って来て源兵衛の前に突っ立った。

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