食物として

1話 食物として

433字 約1分 2007年7月22日 公開

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 金沢(かなざは)方言(はうげん)によれば「うまさうな」と云ふのは「(ふと)つた」と云ふことである。例へば肥つた人を見ると、あの人はうまさうな人だなどとも云ふらしい。この方言は一寸(ちよつと)食人種の使ふ言葉じみてゐて愉快である。

 僕はこの方言(はうげん)を思ひ出すたびに、自然と僕の友達を食物(しよくもつ)として、見るやうになつてゐる。

 里見(さとみとん)君などは皮造りの刺身(さしみ)にしたらば、きつと、うまいのに違ひない。菊池(きくち)君も、あの鼻などを椎茸(しひたけ)一緒(いつしよ)()てくへば、(あぶら)ぎつてゐて、うまいだらう。谷崎潤一郎(たにざきじゆんいちらう)君は西洋酒で煮てくへば飛び切りに、うまいことは(たしか)である。

 北原白秋(きたはらはくしう)君のビフテキも、やはり、うまいのに違ひない。宇野浩二(うのかうじ)君がロオスト・ビフに適してゐることは、前にも何かの次手(ついで)に書いておいた。佐佐木茂索(ささきもさく)君は(くし)に通して、白やきにするのに適してゐる。

 室生犀星(むろふさいせい)君はこれは――今僕の前に坐つてゐるから、甚だ相済(あひす)まない気がするけれども――干物(ひもの)にして食ふより仕方がない。然し、室生君は、さだめしこの室生君自身の干物を珍重(ちんちよう)して食べることだらう。(昭和二年四月)

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