透明人間

12話 怪しい客の正体 恐怖の一瞬

2,108字 約4分 2010年8月22日 公開

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 (いか)りくるった男は、ついにじぶんから正体(しょうたい)をあらわしたのだった。

「見よ!」

 男は手袋(てぶくろ)をはめた手をふりまわし、

「おれがどんな人間(にんげん)か知りたければしらせてやろう。よく見ておけ!」

 そのすさまじさに、おかみさんはちぢみあがってしまった。

 男は、ぱっと手をひろげると、つるりとひとなで(かお)をなでおろした。

 すると、顔のまん中に、ぽかりと(あな)があいた。

「さあ」

 男は手ににぎったものを、おかみさんの手のなかにおしつけた。

 みるまに変わってしまった男の顔に、どぎもをぬかれてしまったおかみさんは、男のわたすものを、ひょいとうけとった。

 が、ひと目みるなり、かなきり声をあげてほうりだしてしまった。

 (はな)だ! たったいままで男の顔にくっついていた鼻なのである。

 ピンク色に光った鼻は、ごろごろと(ゆか)をころがっていった。

「だれかきて!」

 おかみさんの必死(ひっし)のさけびに、ホールや酒場(さかば)にいた男の連中(れんちゅう)がどやどやとかけつけてきた。

 男は、その連中のまえで、ゆうゆうと眼鏡(めがね)をはずし、帽子(ぼうし)をとった。

 かけつけた連中は、立ちすくんで(いき)をのみ、男のやることをながめているばかりだった。

 こんどは、ほうたいをぐるぐるほどきはじめた。

 人びとは、ほうたいの下から、どんなおそろしい顔があらわれるのか、と考えただけでも、おそろしさにぞっとして、じっとしていられなくなった。うき足だったひとりが、

「こいつあたいへんだ!」

 大声をあげると、わっとばかり、ひとりのこらず()げだしてしまった。

 ホール夫人だけは、足がすくんで、その場にとりのこされていた。

 男の顔から、ほうたいがつぎつぎととられてゆくにつれて、どうしたというのだろう?――

 そのあとには、なにもなくなってしまったのである。考えていたような恐ろしい顔も、みにくい顔もあらわれてはこずに、男の顔はかき消え、(くび)なしの怪人(かいじん)がそこにつっ立っていた。

 首なしの()けものは、そのまま、玄関(げんかん)にかけだしていった。

 入口の酒場(さかば)により集まって、がやがやとさわいでいた村の連中に、ホール、それからお手伝(てつだ)いのミリーがけたたましい悲鳴(ひめい)をあげて、玄関(げんかん)のとびらをおしあけて、こぼれ()ちるようにわっと外へとびだした。

 それからあとのさわぎは、お話するまでもなかった。

 人びとは(とお)まきに黒馬旅館(くろうまりょかん)をとりかこんで、

「頭がねえそうだよ。ほんとにねえんだ。帽子(ぼうし)をとって、ほうたいをはずしたら、その下にあるはずの頭がなかったってんだ」

「ばかを言え。そんなことがあるはずがねえよ」

「ほんとだってば、おや、巡査(じゅんさ)のジャッファーズがきたよ。()けものをつかまえにきたんだ」

 旅館(りょかん)をとりかこんでいた人びとは、わっと巡査をとりかこんで、おもい思いにしゃべりたてた。巡査(じゅんさ)は、いばって、

「頭があろうがなかろうが、わしはやつをつかまえなければならん」

「そうです、そうです。お(まわ)りさん、さあ、つかめえてくだせえ」

 ホールは、まっすぐに玄関(げんかん)にすすみ、入口のドアをいきおいよくあけた。

 ジャッファーズは、えらい元気でとびこんでいった。

 旅館(りょかん)のうす(くら)台所(だいどころ)のすみに、首のない人間(にんげん)が、片手にかじりかけのパン、片手にチーズの大きな切れをもってたっている。

「あれですっ!」

 ホールがさけんだ。

「なんだ、きさまたち! なにしにはいってきやがった」

 (くび)なしの化物(ばけもの)の、(くび)のあたりと思われるあたりから、(おこ)った声がきこえてきた。

「ほほう、ずいぶん変わったやつだな。しかし首があろうがなかろうが、わしは逮捕状(たいほじょう)をもってきてるんだから、からだだけでもつかまえていくぞ」

 巡査(じゅんさ)は、ぱっと男めがけてとびかかった。男はさっとうしろにとびさがり、パンとチーズを巡査(じゅんさ)めがけてなげつけた。

「こんちくしょう! てむかう気か……」

 巡査(じゅんさ)はまっかになって(おこ)った。ホールはせいいっぱい気をきかせて(つくえ)の上のナイフをとり、ちょうど応援(おうえん)にかけつけた鍛冶屋(かじや)のウォッジャーズにわたした。

 男はさわぎが大きくなったので、かんかんに(はら)をたてたらしく、いきなり巡査の顔をいやと言うほどなぐりつけた。

「あっ!」

 ふいをうたれた巡査(じゅんさ)は、一瞬(いっしゅん)たじろいだが、猛然(もうぜん)と男にくみついていった。

 けとばす、つきとばす、すごい格闘(かくとう)がはじまった。

 巡査(じゅんさ)は、苦心(くしん)のすえに相手の(くび)をしめあげた。もちろん、見えない首をしめあげるのだから、ずいぶんおかしなものだったが、巡査は一生けんめいだった。

 男は苦しがって、巡査のむこうずねをけとばした。

「足をつかまえてくれ!」

 巡査(じゅんさ)は、(いた)さをこらえてさけんだ。ホールが足をおさえにきたが、まごまごするうちに、あばら(ほね)のあたりを音がするくらいけとばされて、(むね)をおさえてしゃがみこんでしまった。

 男はふいに、

「うむ!」

とさけぶと、ばか力をだして巡査(じゅんさ)をなげとばし、あべこべに巡査を下にくみしいてしまった。

「こいつはいけねえ」

 巡査(じゅんさ)のはた色が悪いとみたウォッジャーズは、おく病風(びょうかぜ)にふかれて、戸口(とぐち)のほうへ()げだした。そこへ、

「おーい、たすけにきたぞ!」

と、ハクスターと馬車屋(ばしゃや)がかけこんできた。

 巡査(じゅんさ)とウォッジャーズが、ほっとしたとたん、戸棚(とだな)から、がらがらとガラスびんが三つ四つころがりおち、(はな)をつくいやなにおいが部屋いっぱいにひろがった。

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