13話 怪しい客の正体 首のない男
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「こうさんするよ」
なにを思ったのか、巡査をおさえつけていた手をはなして、首なし男は立ちあがった。
みれば、頭ばかりか、右手も左手もなくなっている。手袋がぬげてしまったからだ。
巡査は、すばやく起きなおり、威厳をつくろいながら、男に手錠をはめようとして、なさけない声を出した。
「こいつはいかん、どこへ手錠をはめればいいんだ、見当がつかんぞ」
みんなは、ぎくっとして顔を見あわせた。
「ああっ! やつは靴をぬいだぞ、靴下もぬいだ。あれっ! 足がない」
ホールが、とんきょうな声をあげた。
怪しい男は、うずくまって靴下をぬいだと思うと、こんどは上着をぬぎ、チョッキのボタンをはずしはじめた。
それは世にもふしぎな光景だった。
服だけが宙に浮かび、そして、まるで生命のあるもののように動いて、一枚一枚ぬぎすてられていくのだ。
人びとはあっけにとられて手も足もでず、ぼんやりとながめるばかりだった。
男は、さっさとボタンをはずし、チョッキをぽいとぬぎすてた。シャツだけになった。
そのとき、巡査があわてて大声でさけんだ。
「やめさせろ! 服をみんなぬがさせると、たいへんなことになるぞ! すっかり見えなくなって、つかまえられなくなるんだ」
「そうだ、そうだ、いまのうちにつかまえてしまえ!」
しかし、すでに男は、手ばやくなにもかもぬぎすてていたので、いまとなっては、あちこち動きまわっている白いシャツだけが、怪しい男のありかをしめしているだけになった。
シャツの袖がひるがえると、ホールの顔にものすごいげんこつがとんできた。
巡査がシャツめがけてとびついていく。ヘンフリイはうしろからせまっていったが、したたか耳たぶのあたりをなぐりつけられて、悲鳴をあげた。
そのうち、シャツがくねくねと気味わるく動き、人間がぬぎすてるようにまるまったと思うと、ぽんと窓ぎわになげすてられて、怪しい男は完全にその姿を消してしまった。
かれをつかまえる手がかりは、なんにもなくなったのである。
「気をつけろ、ドアをしめろ。外へださないようにして、なんでもいいから、手にさわったものはみんなつかまえて、なぐりつけろ!」
「ほら、いた!」
「いや、こっちだ!」
だれもかれもむやみに空間をなぐりつけるばかりで、なんのたしにもならなかった。
「おい、おれをなぐるとはけしからんぞ!」
「おまえをなぐったんじゃないんだよ。あいつはふわふわ浮いてたんでなぐりつけたんだが、やつめ、うまくかわしやがったらしいな。そのはずみでおまえさんをかすったんだ」
人びとは、むやみにさわぎ、へとへとにつかれてきた。
そのとき、巡査はかれとハクスターの間に動く、いようなけはいを感じた。
「やつだ!」
かれは、見当をつけてとびついた。手ごたえがあり、男のがっちりとした体をつかまえたとたんに、首をぐいとしめあげられた。
「つかまえたぞ!」
巡査は、首をしめられて紫色になりながら、一生けんめいにさけんだ。
男は、ひどい力で巡査をしめつけながら、しだいに玄関のほうにでてきた。それにつれて人びとも右に左によろめきながら外へおしだされていった。
男と巡査がもつれるように玄関のふみ段まできたとき、巡査はもう息もたえだえになっていた。
「えーい!」
男は、かけ声といっしょに、巡査をぶるんとふりまわして、地面になげとばした。巡査は、ひと声うめき声をあげると、その場にばったりと倒れたまま、動かなくなってしまった。
「わあっ、化けものがきたぞ! 巡査がたおされた! やられないうちに逃げろ!」
村びとは後もみずに、つきあたったりつまずいたりしながら、右へ左へ、くもの子をちらすように逃げていった。
人っこひとりいなくなった道に、巡査のジャッファーズだけが、気をうしなってよこたわっていた。