透明人間

13話 怪しい客の正体 首のない男

1,552字 約3分 2010年8月22日 公開

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「こうさんするよ」

 なにを思ったのか、巡査(じゅんさ)をおさえつけていた手をはなして、(くび)なし男は立ちあがった。

 みれば、頭ばかりか、右手も左手もなくなっている。手袋(てぶくろ)がぬげてしまったからだ。

 巡査(じゅんさ)は、すばやく起きなおり、威厳(いげん)をつくろいながら、男に手錠(てじょう)をはめようとして、なさけない声を出した。

「こいつはいかん、どこへ手錠(てじょう)をはめればいいんだ、見当(けんとう)がつかんぞ」

 みんなは、ぎくっとして顔を見あわせた。

「ああっ! やつは(くつ)をぬいだぞ、靴下(くつした)もぬいだ。あれっ! 足がない」

 ホールが、とんきょうな声をあげた。

 怪しい男は、うずくまって靴下(くつした)をぬいだと思うと、こんどは上着(うわぎ)をぬぎ、チョッキのボタンをはずしはじめた。

 それは()にもふしぎな光景(こうけい)だった。

 (ふく)だけが(ちゅう)に浮かび、そして、まるで生命(せいめい)のあるもののように動いて、一枚一枚ぬぎすてられていくのだ。

 人びとはあっけにとられて手も足もでず、ぼんやりとながめるばかりだった。

 男は、さっさとボタンをはずし、チョッキをぽいとぬぎすてた。シャツだけになった。

 そのとき、巡査(じゅんさ)があわてて大声でさけんだ。

「やめさせろ! 服をみんなぬがさせると、たいへんなことになるぞ! すっかり見えなくなって、つかまえられなくなるんだ」

「そうだ、そうだ、いまのうちにつかまえてしまえ!」

 しかし、すでに男は、手ばやくなにもかもぬぎすてていたので、いまとなっては、あちこち動きまわっている白いシャツだけが、(あや)しい男のありかをしめしているだけになった。

 シャツの(そで)がひるがえると、ホールの顔にものすごいげんこつがとんできた。

 巡査(じゅんさ)がシャツめがけてとびついていく。ヘンフリイはうしろからせまっていったが、したたか耳たぶのあたりをなぐりつけられて、悲鳴(ひめい)をあげた。

 そのうち、シャツがくねくねと気味(きみ)わるく動き、人間(にんげん)がぬぎすてるようにまるまったと思うと、ぽんと(まど)ぎわになげすてられて、(あや)しい男は完全(かんぜん)にその姿(すがた)()してしまった。

 かれをつかまえる手がかりは、なんにもなくなったのである。

「気をつけろ、ドアをしめろ。外へださないようにして、なんでもいいから、手にさわったものはみんなつかまえて、なぐりつけろ!」

「ほら、いた!」

「いや、こっちだ!」

 だれもかれもむやみに空間(くうかん)をなぐりつけるばかりで、なんのたしにもならなかった。

「おい、おれをなぐるとはけしからんぞ!」

「おまえをなぐったんじゃないんだよ。あいつはふわふわ浮いてたんでなぐりつけたんだが、やつめ、うまくかわしやがったらしいな。そのはずみでおまえさんをかすったんだ」

 人びとは、むやみにさわぎ、へとへとにつかれてきた。

 そのとき、巡査(じゅんさ)はかれとハクスターの間に動く、いようなけはいを(かん)じた。

「やつだ!」

 かれは、見当をつけてとびついた。手ごたえがあり、男のがっちりとした(からだ)をつかまえたとたんに、(くび)をぐいとしめあげられた。

「つかまえたぞ!」

 巡査(じゅんさ)は、(くび)をしめられて紫色(むらさきいろ)になりながら、一生けんめいにさけんだ。

 男は、ひどい力で巡査をしめつけながら、しだいに玄関(げんかん)のほうにでてきた。それにつれて人びとも右に左によろめきながら外へおしだされていった。

 男と巡査がもつれるように玄関(げんかん)のふみ(だん)まできたとき、巡査はもう(いき)もたえだえになっていた。

「えーい!」

 男は、かけ声といっしょに、巡査(じゅんさ)をぶるんとふりまわして、地面になげとばした。巡査は、ひと声うめき声をあげると、その場にばったりと(たお)れたまま、動かなくなってしまった。

「わあっ、()けものがきたぞ! 巡査(じゅんさ)がたおされた! やられないうちに()げろ!」

 村びとは後もみずに、つきあたったりつまずいたりしながら、右へ左へ、くもの子をちらすように()げていった。

 人っこひとりいなくなった道に、巡査(じゅんさ)のジャッファーズだけが、気をうしなってよこたわっていた。

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