25話 恐るべき発見 光と色
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透明人間は起きあがるやいなや、あばれはじめた。けさはひどく、きげんがわるいらしい。
いすをなげとばし、洗面所のコップをたたきわった。
もの音で博士が、あわててかけつけてきた。
「どうしたのだ? なにか気にいらないことでもあるのかい?」
「なに、頭の傷がすこしばかりいたみだしたので、気分がすぐれないんだ。いやな気もちがするんだ」
博士はだまって、ちらばっているガラスのかけらをひろいあつめ、
「きみのことが、すっかり新聞にのっているよ。世間は透明人間のうわさでもちきりらしい。ただ、ぼくの家にきみがしのびこんでいることは知らないがね」
「うるさいやつらだ! なぜぼくを、しずかにしておいてはくれないんだろう」
「それはむりだよ。世の中は、物わかりのいいやつばかりでできてやしないんだ。そいつらは、どこまでもきみをつかまえようとさわぐだろうね。そこで、これからどうするかね? むろん、ぼくはできるかぎりの手伝いはするよ。だが、きみはいったい、どうしたいと思ってるのかね」
透明人間は考えこんでいるらしく、ベッドのはしにすわりこんだまま、だまっている。
ケンプ博士は、しばらくしてから、さりげなく、
「書斎に朝食のよういをさせてあるよ」
と、さそった。透明人間はすなおに立ちあがり、博士のあとについて書斎にはいってきた。
ゆうべとおなじように、ナイト・ガウンだけが、すーっと食卓のまえにすわりこんで、手も口もなんにも見えないのに、どんどん食べはじめた。
はじめて見たときほどおどろかなかったが、やはりへんな光景だった。
食事がおわりかけたころ、ケンプ博士は、
「これから先のことを相談するまえに、なぜきみがそんな体になったか、くわしく話してもらいたいね」
透明人間は、ナプキンをとりあげ、ゆっくりと口のあたりと思われるところをふき、
「かんたんなことなんだ。きみだって説明をきけば、なーんだ、と思うよ。奇跡がおこったのでも、なんでもないさ」
「きみには、かんたんかもしれないが、ほかの者にとっては、奇跡とおなじくらいふしぎなことだよ」
「はっはっは」
透明人間は、ケンプ博士に会ってからはじめて、ゆかいそうに笑った。
「さて、それではなにから話そうかな。ぼくが、はじめ医学を勉強していたことは、きみも知っているとおりだ。その後、ふとしたことから医学を研究することをよして、物理学にうつったんだ。ことに光の反射とか屈折とかが、ぼくの興味をとらえてしまったんだ」
「昔からきみは、そういうことを研究するのがすきだったじゃないか」
「そうだよ。しかも、この研究は人があまりやっていないので、いくらでも研究することが残されているのが、若いぼくには、たまらない魅力だったのだ。まだ二十二才のわかい科学者だったぼくには、これに一生をささげて、いつかは世間のやつどもを、あっといわせるような研究をやりとげようと決心したんだ」
透明人間は、いつもの、いんきくさい世をのろったような声とはまるでちがう、わかい張りのある声で話しつづけた。
「それからのぼくの頭には、研究のことよりほかは、なにもなかったね。寝てもさめても考えるのは、研究のことばかり――六ヵ月ほどたったとき、はっと思いついたことがあったのだ」
「どんなことだ」
「きみも知っているとおり、物が見えるということは、光が物にあたったとき反射するか、そのまま吸収されてしまうか、または光がおれまがる具合によって、いろいろな色とか、形とかが、それぞれの姿をもって目にみえるので――光のこの三つの働きがなかったら、われわれは物をみることができないわけだ」
「そうだ」
「たとえば、われわれが赤い布をみるとするね。赤くみえるのは、太陽の光線のなかで赤い色のところだけを布が反射して、あとの色はみんな吸いこんでしまうからなんだ。また光をぜんぶ反射してしまえば、白くきらきらとかがやいてみえるだろう。そしてふつうのうすいガラスが、光のすくないうす暗いところなどでは見にくいわけは、光をほとんど吸収しないし、はねかえすことも、おれまがる度合もすくないからなんだ」
透明人間はむちゅうで、しゃべりまくっている。ケンプ博士はあきれ顔をして、じっと相手の声をきいていた。
「そのガラスをこなごなにして、水のなかに入れてみたまえ。たちまち見えなくなってしまうだろう。これは水とガラスは、光がおなじような具合におれまがるからなんだ。これから考えをすすめてゆけば、なにもガラスを水中に入れなくても、水の中に入れたとおなじように見えなくすることができるはずだろう」