24話 恐るべき発見 友をどうしよう
読み方を変える
「ぼくがきみを警官の手にわたすなんて、そんなばかなことがあるものか……ぼくを信じてゆっくりとやすみたまえ」
しかし、透明人間はどこまでも用心ぶかかった。部屋のなかをねんいりに見わたしてから、ふたつの窓をしらべ、そしてドアの鍵をあらため、警官がまんいちかれをおそうことがあっても、逃げだす道があることをたしかめてから、やっと、よこになった。
「おやすみ」
博士が透明人間に言って、ドアをしめようとすると、急にナイト・ガウンがすーっと近づいてきて、
「だいじょうぶだろうね、ケンプ。ぼくをゆっくりねむらしてくれるね。警官にわたしはしないだろうね」
博士は顔いろをかえ、
「わすれたのかい。たったいま、やくそくしたじゃないか。よけいな心配をしないで、ぐっすりやすみたまえ」
ドアをしめると、すぐに中から鍵をかける音がした。
博士は、
「やれやれ、とうとうじぶんの寝室から追いだされてしまった。まるっきり、夢をみているのか、気がちがっているのか……わけがわからない」
なんども頭をふりながら、廊下をゆっくりと歩いて書斎にはいった。
博士は、ぐったりといすに身をなげだして、もの思いにしずんでいたが、
「そうだ、新聞を見れば、なにか手がかりがつかめるかもしれんぞ」
ぽつりとひとり言をもらし、いくとおりもの新聞をかきあつめ、机の上にひろげて、むさぼるように読みはじめた。
どの新聞も、アイピング村でのさわぎが、大げさに書きたてられている。
「ふうん、村人をなぐりたおしてあばれまわったというのか……なんて乱暴なことをするのだ。えっ、なに、巡査はなぐられて気ぜつしたっていうのか。そして宿屋の女主人はおそろしさのために、寝こんでしまったのか。なんというおそろしいことをやる男だ」
博士は、ぼんやりと前方を見つめて、考えこんでいたが、ぽとりと新聞を手から落としてしまった。いくら考えても、この奇怪な事件ははっきりしない。
博士は、長いすによりかかって眠ろうとしたが、目がさえて、寝つかれそうもなかった。
やがて、窓から、しらじらと朝のひかりが流れこんできたが、博士はまだふいに飛びこんできたやっかいな透明人間を、どうしようかと思いなやんでいた。
「やれやれ、これでやつが起きだしてくれば、また、服だけの化けものと、しかつめらしい顔をして話し、なんにもないところへ、たべものがつぎつぎと消えていくのを見ていなくてはならないのか。どうかして、この災難からのがれるすべはないかな」
へいぜいは頭のするどさをほこり、どんなことでもあざやかにかたづけてしまう博士も、思ってもみなかった透明人間には、すっかり手をやいたらしかった。
夜がすっかりあけはなたれると、お手伝いが朝の新聞をかかえてやってきた。
博士は、お手伝いにむかい、
「いいか、朝食を二人まえ用意して、ここまでもってきなさい。そしてわしが呼ぶまで、二階へかってにくることはならんよ。わかったな」
「はい」
お手伝いは、博士が研究であたまをつかいすぎて、気が変になったのではないかと、心配しはじめた。
博士は、お手伝いがはこんできた熱いコーヒーをすすると、いくらか気分がはっきりした。
朝の新聞をひろげ、透明人間のことが書かれているところを、ねんいりに読んだ。
「新聞には、透明人間は狂人になったにちがいないと書いてあるぞ。じっさいやつは、気がくるっているにちがいない。なにをやりだすか、わかったもんじゃない。しかも空気のように自由な身だ。悪事をやりだせば、こんなおそろしい敵はない。そいつがおれの家にまいこんできたんだ。それにやつは、昔の友だちのグリッフィンだというのだから……」
博士は机のまえに、どっかりと腰をおろすと、ながい間、頭をかかえて考えこんでいた。
「おお、どうしてそんなことができよう――友だちの信らいをうらぎるなんて……。だが……たとえ友だちであっても――」
博士は、思いまよったすえ、ひきだしから便せんをとりだすと、ペンを走らせだした。
書いてはすて、書いてはすて、博士はなんども書きなおして、やっと一通の手紙をかきあげると、封をして、宛名をしたためた。
それには肉太の博士のいつもの字で、
『ポート・バードック署 アダイ警部どの』――と書かれてあった。