透明人間

24話 恐るべき発見 友をどうしよう

1,744字 約3分 2010年8月22日 公開

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「ぼくがきみを警官(けいかん)の手にわたすなんて、そんなばかなことがあるものか……ぼくを(しん)じてゆっくりとやすみたまえ」

 しかし、透明人間(とうめいにんげん)はどこまでも用心(ようじん)ぶかかった。部屋(へや)のなかをねんいりに見わたしてから、ふたつの(まど)をしらべ、そしてドアの(かぎ)をあらため、警官(けいかん)がまんいちかれをおそうことがあっても、逃げだす道があることをたしかめてから、やっと、よこになった。

「おやすみ」

 博士が透明人間(とうめいにんげん)に言って、ドアをしめようとすると、(きゅう)にナイト・ガウンがすーっと(ちか)づいてきて、

「だいじょうぶだろうね、ケンプ。ぼくをゆっくりねむらしてくれるね。警官(けいかん)にわたしはしないだろうね」

 博士(はくし)は顔いろをかえ、

「わすれたのかい。たったいま、やくそくしたじゃないか。よけいな心配(しんぱい)をしないで、ぐっすりやすみたまえ」

 ドアをしめると、すぐに中から(かぎ)をかける音がした。

 博士(はくし)は、

「やれやれ、とうとうじぶんの寝室(しんしつ)から追いだされてしまった。まるっきり、(ゆめ)をみているのか、気がちがっているのか……わけがわからない」

 なんども頭をふりながら、廊下(ろうか)をゆっくりと歩いて書斎(しょさい)にはいった。

 博士(はくし)は、ぐったりといすに身をなげだして、もの思いにしずんでいたが、

「そうだ、新聞(しんぶん)を見れば、なにか手がかりがつかめるかもしれんぞ」

 ぽつりとひとり(ごと)をもらし、いくとおりもの新聞(しんぶん)をかきあつめ、(つくえ)の上にひろげて、むさぼるように読みはじめた。

 どの新聞(しんぶん)も、アイピング村でのさわぎが、大げさに書きたてられている。

「ふうん、村人をなぐりたおしてあばれまわったというのか……なんて乱暴(らんぼう)なことをするのだ。えっ、なに、巡査(じゅんさ)はなぐられて()ぜつしたっていうのか。そして宿屋(やどや)女主人(おんなしゅじん)はおそろしさのために、寝こんでしまったのか。なんというおそろしいことをやる男だ」

 博士(はくし)は、ぼんやりと前方(ぜんぽう)を見つめて、考えこんでいたが、ぽとりと新聞を手から落としてしまった。いくら(かんが)えても、この奇怪(きかい)事件(じけん)ははっきりしない。

 博士(はくし)は、長いすによりかかって(ねむ)ろうとしたが、目がさえて、()つかれそうもなかった。

 やがて、(まど)から、しらじらと朝のひかりが(なが)れこんできたが、博士はまだふいに()びこんできたやっかいな透明人間(とうめいにんげん)を、どうしようかと思いなやんでいた。

「やれやれ、これでやつが()きだしてくれば、また、(ふく)だけの()けものと、しかつめらしい顔をして話し、なんにもないところへ、たべものがつぎつぎと消えていくのを見ていなくてはならないのか。どうかして、この災難(さいなん)からのがれるすべはないかな」

 へいぜいは頭のするどさをほこり、どんなことでもあざやかにかたづけてしまう博士(はくし)も、思ってもみなかった透明人間には、すっかり手をやいたらしかった。

 夜がすっかりあけはなたれると、お手伝いが朝の新聞をかかえてやってきた。

 博士は、お手伝いにむかい、

「いいか、朝食(ちょうしょく)を二人まえ用意(ようい)して、ここまでもってきなさい。そしてわしが()ぶまで、二(かい)へかってにくることはならんよ。わかったな」

「はい」

 お手伝いは、博士が研究であたまをつかいすぎて、気が変になったのではないかと、心配しはじめた。

 博士(はくし)は、お手伝いがはこんできた(あつ)いコーヒーをすすると、いくらか気分(きぶん)がはっきりした。

 朝の新聞(しんぶん)をひろげ、透明人間(とうめいにんげん)のことが書かれているところを、ねんいりに読んだ。

「新聞には、透明人間は狂人(きょうじん)になったにちがいないと書いてあるぞ。じっさいやつは、気がくるっているにちがいない。なにをやりだすか、わかったもんじゃない。しかも空気(くうき)のように自由(じゆう)な身だ。悪事(あくじ)をやりだせば、こんなおそろしい(てき)はない。そいつがおれの(いえ)にまいこんできたんだ。それにやつは、(むかし)の友だちのグリッフィンだというのだから……」

 博士は(つくえ)のまえに、どっかりと(こし)をおろすと、ながい間、頭をかかえて考えこんでいた。

「おお、どうしてそんなことができよう――(とも)だちの(しん)らいをうらぎるなんて……。だが……たとえ友だちであっても――」

 博士(はくし)は、思いまよったすえ、ひきだしから便(びん)せんをとりだすと、ペンを走らせだした。

 書いてはすて、書いてはすて、博士はなんども書きなおして、やっと一(つう)手紙(てがみ)をかきあげると、(ふう)をして、宛名(あてな)をしたためた。

 それには肉太(にくぶと)博士(はくし)のいつもの字で、

『ポート・バードック(しょ) アダイ警部(けいぶ)どの』――と書かれてあった。

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