11話 死刑台の怪影
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「先生。その超人間X号というのは、いったい何者かんですか、どうしてそんな怪物が、この世の中にすんでいるのですか」
戸山少年は、谷博士にたずねた。
「じつは、超人間X号をこしらえたのは、わしなんだ。わしが研究所で作りあげた人工の生物なんだ。それは電気臓器を中心にして生きている、半斤のパンほどの大きさのものなんだ。この電気臓器をつくることについて、わしは長いあいだ研究をかさねた。そして完成したのは、この春のことだった。あらゆる高等生物は、親のからだから生まれてくるが、超人間X号は、わしの手で作ったのだ。ちょうどラジオの受信機を組みたてるようにね。分かるね、わしの話が……」
博士のことばに、少年たちはたがいに顔を見あわせた。分かるようでもあり、あまりふしぎで、よく分かりかねるところもあった。そのことを博士にいうと、博士はうなずき、
「そうであろう。わしの話は、よほどの専門家にも分かりかねるところがあるんだ。だから君たちにも分からないのはむりでない。しかし、わしが生物を人造することに成功したということを、まず信じてくれれば、これで話の要点は分かったことになるんだ」と、博士は熱心に語った。
「さて、わしは、金属材料ではなく、人工細胞を使って、電気臓器を作りあげた。これは脳髄だ。その他のあらゆる臓器を一つところに集め、そして人間の臓器よりもずっとよく働くように設計してある。それはうまくできあがった。しかし困ったことに、それは生きてはいたが、まるで気絶している人間同様に、意識というものがなかった。それでは困る。せっかく作った電臓が、いつまでも気絶状態をつづけていては役に立たない。そこで、どうしたら、この電臓の意識を呼びさますことができるか、それを考えたのだ。分かるかね、ここらの話が……」
博士は、見えない顔を左右に動かして、少年たちの様子をうかがうのであった。
「ぼんやり分かりますよ」
少年は、正直に返答した。
「ほう。ぼんやりでも、分かってくれると、わしはうれしい。……そこでわしは、電臓に意識をつけるために電撃をあたえた。三角岳へおしよせてくる大雷雲を利用して、あの電臓へ、つよい電気の刺戟を加えたんだ。これが成功するか失敗するか、どっちとも分かっていなかった。しかしわしは、大胆にその実験をやってのけたのだ」
博士のことばは、だんだん熱して来た。
「ところが、意外にも、研究所の中に大爆発が起こった。ひどい爆発だった。まったく予期しない爆発だ。わしは一大閃光のために、いきなり目をやられた。わしの脳は、千万本の針をつっこまれたように、きりきりきりと痛んだ。ああ……ううーむ」
ここまで語って来た博士は、いきなりその場にもだえて、椅子から下へころがり落ちた。
さあ、たいへんである。少年たちは、博士を助けおこす組と、医局へ走る組とに分かれて一生けんめいにやった。
大宮山院長がかけつけて、博士を担架でしずかに病室へ移すよう命じた。そして当分のうち絶対に面会謝絶を申しわたした。
少年たちは、だからもうそれ以上博士から奇怪な超人間X号の話を聞くことができなかった。そして割りきれない胸をいだいて、病院を引きあげたのであった。
いよいよ怪しいかぎりの超人間X号は、今いずこにひそんでいるのだろうか。ダム爆破以来、ここに十三日になるが、彼の所在はさっぱり知られていないのだった。
ところが、その日の夜、三角岳の南方四十キロばかりの地点にある九鬼刑務所で、死刑執行中に、怪しい影がさしたという事件があった。
死刑は絞首台を使うことになっていた。
死刑囚は、毒殺で八人を殺したという罪状を持つ火辻軍平という三十歳の男であった。
この死刑に立ちあった者は、三人であった、一人は執行官、もう一人はその下でじっさいの仕事、つまり死刑囚の首に綱をかけたり、死んだあとは死骸をひきおろしたりする執行補助官、もう一人は教誨師であった。
すでに用意は終り、死刑囚火辻は絞首台の上にのぼり、補助官によって首に綱の輪がかけられていた。それに向かって、十メートルはなれて、執行官と教誨師が並んで所定の席についていた。おりから東の空からのぼりはじめた月が明かるく、この死刑場を照らした。塀のそとにすだく虫の声も悲しく、凄惨な光景であった。
立ちあいの執行官は時計を見ながら、命令の時間になるのをまっていた。もう残すところ一分あまりであった。
執行官は、さっきから補助官の姿が見えないので、どこにいるのかと軽い疑問を持っていた。死刑の時刻は、あと三十秒ほどにせまった。
そのときであった。目かくしされ首に綱をつけ、しずかに塀をうしろにして、立っている死刑囚のそのうしろの塀に横あいから近づく一つの人影をうつした。
「あッ、あの人影は……」
教誨師が、低い声で叫んだ。