3話 3
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ここで相手はにやにやと顔を崩して、
「残念ながら、密室殺人事件にはなりませんでしたよ。と云うのは、巡査の一人が気をきかして、入口と反対側の窓を明けて見ると、そこの、屋根の雪をおろして小高くなっている蔭に、女の服が、スキーから手袋・眼鏡の類まで、そっくり脱ぎ捨ててあったのですから。しかも、スキーの跡がずーっと一筋ついていました。
それに、このスキーの跡は深くないし、ほかはどこの雪も乱れていない。女が独りきりで来た事は確実です。
別段どこにも傷の見えない死体を取巻いて、これだけ条件が揃えば、三人の判断も一致してきました。
つまり、その日、みんなが出かけてしまった頃を見計らった女は、スキーで大回りしてこっそり窓の下まで滑ってきた。そこで服を脱ぎ捨てると、つるりと浴室に忍びこむ。女の目的は評判のお方と同じ湯にひたってみたいという戦後派娘の虚栄心。そこにスリルを味わうつもりだったでしょう。
ざぶんと浴槽に跳びこむ。ところが、寒い中を来ていきなり熱い湯に沈んだから、すーっと脳貧血をおこし、気を失ったまま浴槽の底に溺れてしまった。誰も助けてくれてが無かったのは因果です。
まあ、こう想像はついたものの、こんな変死事件を起してしまったのは、わたしや警備係の大失態。何とか前後策を講じなければならないと、取りあえず死体はそっと係員室の奥に隠し、浴場の大清掃にかかりました。
この検死を麓の医者にでも頼んだら忽ち新聞記者の耳に洩れて問題にされるでしょうし、相談の結果、恐る恐る侍医の先生に一切を報告してお願いすることにしたのですが、そこは慣れたもので、先生は要領よく調書を作ってくれる。
一方、女の宿帳の名は偽名でしたから、これまた幸と、県の係の手で仮埋葬ということにして、誰も責任を問われずに済んでしまった、と、これだけの話なんです。
でも、叔父に頼んでその浴槽を使わしてもらったら、相当な幻想が湧いて傑作が書けるんではないでしょうか。いかがです」
長いお喋りを終えた青年は、いささか得意の面持だった。