4話 4
読み方を変える
私は悪い癖で、ちょっと相手に反抗してみたく、
「面白かった。だけどねえ、僕ならそのままを殺人事件にしてしまうな」
「それは少し無理ではないかしら」
「そんな事はない。僕に云わせれば、窓に締りがしてなかったり、若い女がすぐ脳貧血をおこしたり、こんな偶然が二つ重なる方が妙ですよ。総てを理詰めに解釈する方が簡単なんだから」
「と云うと?」
「或る男がいて、女を偽名で呼びよせる。そこで宿のがらんとした日を利用して、鍵を手に入れ、女を誘ってその浴室にはいりこむ。(男の目的は女を抹消することにあるとして、動機はどうでも適当に考えたらいいだろう)
で、女の隙を見て首根っこをおさえつけ、あっさり溺死させてしまう。それから女の下着は窓の外へ投げ、女のドテラを着こんで忍び出す。女の部屋まで来ると、すぐそのスキー服をつけスキー帽を被り眼鏡までかければ、これで男女の区別は判らなくなって、悠々と女のスキーをはいて一回り。窓の下に滑りこんで、一切をそこに脱ぎ捨てる」
「そのあとは、また浴室を抜けて、今度は自分のドテラを着て逃出すんですか」
「その男を決定するには条件がある。宿の事情に詳しい男、その日は宿に残っていた男、鍵を自由に扱える男、最後に褌ひとつで飛出した男だ!」
こうきっぱり云い切った時、相手の顔はむっとどす黒く歪んで見えた。私はトランクに手をかけながら、
「これは探偵作家の空想ですよ。君の話を僕ならこんな風に書直してみたいけれど、それでも、密室事件としては単純すぎますね。ただ少しばかり感心しているところは偉い方のおいでを利用して事件を当局者の手で揉消してしまう、そうした犯人の悪智慧です」
と云いすてて、悪戯っ児のように首をすぼめて逃出した。列車はようやく青葉の軽井沢に滑りこんだ。