サーカスの怪人

29話 大グマの秘密

2,683字 約5分 2017年10月13日 公開

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 小林少年たちとサーカスの団員が、骸骨男のゾウを追って、テントのそとにかけ出しました。入口のそとの原っぱには、見物の人たちが大きな輪をつくって、ワアワアとさわいでいます。その見物の輪のなかに、さっきのゾウが、きょとんとして立っていました。

 そこには、ゾウに乗っていた骸骨男のすがたが見えないのです。

「あっちへ逃げた。あっちへ逃げた。」

 見物たちは、口々にわめきながら、テントの裏のほうを指さしています。

 小林君やサーカスの人たちは、そのほうへかけつけました。裏口からはいって、楽屋をさがしましたが、だれもいません。みんなそとへ出てしまって、楽屋はからっぽなのです。骸骨男のすがたも、どこにも見えません。

 原っぱでは、むこうの大型バスの中で、やすんでいたゾウ使いの男が、さわぎを知ってかけ出してきて、ゾウをテントの中につれもどすのでした。

 そこへ警視庁の白い自動車が三台、警官をいっぱい乗せてやってきました。明智探偵は中村警部といっしょに、まっさきの車に乗りこんでいました。

 ふたりは自動車をおりると、見物たちに、ようすを聞き、警官隊に大テントのまわりを、グルッと取りかこむよう命じておいて、三人の警官だけをつのって、テントの裏口にいそぎました。

「アッ、先生……、あいつは、また消えてしまいました。」

 テントにはいると、小林少年がとび出してきて、明智探偵に、いままでのことを、報告するのでした。

 それから、明智探偵と中村警部たちも、いっしょになってほうぼうを捜しまわりましたが、骸骨男はどこにも見えません。

 しばらくすると、小林少年が明智探偵のそばによって、ひそひそとささやきました。

「うん、そうか。きみが見つけたんだね。よし、行ってみよう。」

 明智探偵は、そばにいた中村警部に目くばせをして、みんなで、小林君のあとからついていきました。

 小林、井上、野呂の三少年が案内役です。大テントの中の楽屋の隣に、動物のおりのおいてある場所があります。

 おりには小さな車がついていて、サーカスがはじまると、原っぱにおいてあるトラックからおろして、ここへ運ぶようになっているのです。

 そこにはいると、ムッと動物のにおいがしました。むこうに大きなおりが三つならんで、その中に一ぴきずつライオンがいました。寝そべっているのもあれば、のそのそ、おりの中を歩きまわっているのもあります。

 その横に、トラとヒョウのおりが並んでいます。みんな人になれた動物ですから、大ぜいが、どかどかとはいってきても、おどろいて()えるようなことはありません。トラもヒョウものんきそうに、のそりのそり、とおりの中を歩いています。

 こちらのほうに、クマのおりがおいてあって、その中におそろしく大きなヒグマがうずくまっていました。

 小林少年は、そのクマのおりの前に立ちどまって、うしろにいたサーカス団の人に、

「このおりを、あけてください。」

といいました。

「エッ。これをあけるんですって、そんなことをしたら、大へんですよ。こいつは、おそろしく気のあらいやつですから。」

 サーカスの人は、びっくりして小林君の顔をながめるのでした。

 小林君はニコニコしながら、サーカス団員の耳に口をよせて、なにかささやきました。

「エッ、このクマのなかに?」

 団員は、おったまげた顔で、クマを見つめていましたが、

「アッ、いけねえ。鍵がはずれている。」

と叫びながら、おりの戸に近づきました。

 そのときです。おりの戸が、中からパッと開き、大グマが「ごうッ……。」とうなりながら、いきなり、みんなの前にとび出してきたではありませんか。

 それを見ると小林少年が、せいいっぱいの声で叫びました。

「こいつは、ほんとうのクマじゃありません。クマの毛がわの中に、二十面相がかくれているのです。恐れることはありません。みなさん、つかまえてくださいッ。」

 サーカス団の人々と警官とが、クマにとびかかっていきました。

「うおうッ……。」

 恐ろしいうなり声をたてて、あと足で立ちあがったクマは、人々にのしかかるようにして、戦いをいどんできます。

 恐ろしい組みうちが、はじまりました。

「うおうッ、うおうッ。」

 サーカスの団員のひとりがクマの下じきになって、もがいています。三人の警官が、上になっているクマをおしころがそうと、とびかかっていきました。

 それから、組んずほぐれつ大格闘がつづきました。

「さあ、つかまえたぞ。はやく(なわ)を縄を……。」

 ひとりの警官はクマの背なかにしがみつき、ひとりの警官は、クマの前足をはがいじめにし、ふたりのサーカス団員は、クマのあと足に、すがりついています。

 ひとりの警官は、腰にさげていた縄をとりだそうとしました。しかし、そのひまはなかったのです。

「アッ……。」という声が、おこりました。クマにとりついていた人たちが、はずみをくって地面にころがりました。その人たちの下には、クマの毛がわだけが、ひらべったくなって残っていたのです。

 毛がわの腹には、かくしボタンがついていて、そこから人間が出入りできるように、こしらえてありました。二十面相は、とっ組みあいのあいだに、そのボタンをひとつひとつはずしておいて、みんながクマをつかまえたと思って安心しているうちに、パッとそこからとび出したのです。

 それは骸骨男のすがたでした。恐ろしい骸骨が、人々をかきわけ、つきとばしながら、弾丸(だんがん)のように走っていくのです。

 みんなが、ふいをうたれて、アッとおどろいているまに骸骨男は、その部屋の入口にさがってるカーテンのむこうへ、すがたを消してしまいました。

 そのとき、「ひひひ……ん。」というウマのいななき声が、聞こえてきました。

「アッ、あいつ、ウマに乗って逃げるつもりだッ。」

 中村警部が叫びました。

「よしッ、追っかけるんだ。ぼくはウマに乗る。きみたちは自動車で追っかけたまえ。」

 明智もそういって、かけだしました。明智探偵は、どんなスポーツでもできるのでした。乗馬もお手のものです。

 明智はサーカスの楽屋にとびこんで、そこにあった長いほそびきのたばをつかみとると、テントの中のうまやにかけつけ、いちばん強そうなウマをえらんで、それをひき出して、くらの上にとびのりました。

 そのとき、二十面相の骸骨男はウマに乗って、もうテントのそとに出ていました。原っぱにのこっていた見物たちの「ワアッ、ワアッ……。」という声が、聞こえてきます。

 名探偵と怪人二十面相との、ふしぎな競馬競走がはじまったのです。明智探偵は、うまく二十面相に追いつくことができるでしょうか。

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