妖人ゴング

21話 ゴングとは何者

1,622字 約3分 2017年12月15日 公開

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 怪人は、また、しゃべりはじめました。

「明智君、おれは執念(しゅうねん)ぶかいぞ。戦いは、これからだ。おれはマユミと俊一を、かならず、とりこにしてみせる。一度は、きみのおせっかいで失敗したが、そんなことで、ひきさがるおれじゃない。花崎検事に、そういっておいてくれ。一週間、そうだ、きょうから一週間のうちに、マユミと俊一をつれだしてみせる。そして、二度と、顔を見ることができないようにしてやる。妖人ゴングの名誉にかけて、これを宣言する。わかったか。明智君、いつか、きみにあうときもあるだろう。用心するがいい。おれは、こうと思ったことは、きっと、やりとげる男だ。」

 この恐ろしいことばがおわると、またしても、

「ウワン、ウワン、ウワン、ウワン……。」

と、あのいやらしい音が、ひびいてきました。そして、その音が、だんだん小さくなって消えてしまうと、ぷっつりと電話がきれました。

「どうせ、遠くの公衆電話からかけたのでしょう。電話局でしらべて、警察にしらせてみても、とても、まにあいません。こうなれば、あいてがせめてくるのを、待つほかはありません。ところで……。」

 明智探偵は、もとのいすにもどって、テーブルごしに、じっと花崎さんの顔を見つめました。

「こいつは、魔法つかいの妖人みたいに見せかけていますが、むろん、われわれとおなじ人間です。おそらく、あなたに、深いうらみをもっているやつです。マユミさんや、俊一君をいじめるのも、あなたに、気がちがうほど心配させるためです。なにか、そういう、うらみをうける、お心あたりはありませんか。」

「わたしは、いちじは、鬼検事というあだなをつけられていたほどで、悪いやつには、ようしゃなく、びしびしやるほうでしたから、犯罪者には、ずいぶん、うらまれているわけです。しかし、それはみんなむこうが悪いからで、こんな復讐をうけるおぼえはないのですが……。」

「でも、犯罪者というやつは、じぶんの悪いのは棚にあげておいて、検事さんを、うらむことがよくあるものです。なにか、重い罪をおかしたもので、このごろ、刑務所を出たものとか、または、脱獄したものとか、そういう、お心あたりはありませんか。」

「それなら、たいして多くはありません。まあこんな連中ですね。」

 花崎さんは、テーブルのうえにあったメモの紙に、五―六人の名を書いて、明智に出してみせました。

 明智は、その人名を、じっと見ていましたが、ある名まえを、指でおさえて、

「これです!」

と、低いけれども力のこもった声で、いいました。

「えっ? そいつが、あのゴングですって?」

「そうです。こいつでなければ、妖人ゴングにばけることはできません。こいつならば、じつに恐ろしいあいてです。」

 明智はそういって、じっと、花崎さんの顔を見つめました。花崎さんも、青ざめた顔になって明智を見つめました。そうして、ふたりは、たっぷり一分間、身うごきもせず、異様なにらみあいをつづけたのです。

 やっとしてから、明智のひきしまっていた顔が、にこにこ顔にかわりました。

「いや、そんなに、ご心配になることはありません。わたしがついていれば、けっして、あいつの思うようにはさせません。しかし、よほど用心しなくてはいけません。こうなったら、非常手段をとるほかはないのです。あいてが、妖人の魔法つかいですから、こちらも魔法つかいになるのです。そんなとほうもないことをと、おっしゃるかもしれませんが、そのとほうもないことをやらないと、あいつには勝てないのです。」

 そして、明智は、なにか、ひそひそと、花崎さんの耳にささやくのでした。それをきくと、花崎さんの顔が、すこし明るくなってきました。

「なるほど、悪魔の知恵には、悪魔の知恵で、というわけですね。二重底の秘密というわけですね。わかりました。明智さんのお考えに、したがいましょう。いっさい、おまかせしますよ。」

 そして、ふたりは、またなにか、ひそひそと、ささやきあうのでした。

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