妖人ゴング

20話 水底の秘密

2,170字 約4分 2017年12月15日 公開

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 小林少年が、ブイの中からすくいだされ、妖人ゴングのすみかは、隅田川の水底にあるらしいと、報告しましたので、ただちに、水上警察が、そのへんいったいの水中捜索をはじめました。潜水夫をやとって、川の底をくまなく探しましたが、ふしぎなことに、妖人のすみからしいものは、なにも見あたらないのでした。

 あの事件から三日目の夜、名探偵明智小五郎は、妖人にねらわれているマユミさんと、俊一君のおとうさんの花崎検事のうちをたずねて、応接間で花崎さんと、今後のことについて、相談していました。

 そこへ、あやしい電話がかかってきたのです。花崎さんは、テーブルの上においてあった電話の受話器を耳にあてたかとおもうと、さっと、顔色がかわりました。

 受話器からは「ウワン、ウワン、ウワン……。」という、あの、気味のわるい音が聞こえてきたからです。

「ウワン、ウワン、ウワン、ウワン……。」

 その音は、だんだん大きくなって、耳のこまくが、やぶれるほどの恐ろしい音になりました。そして、

「ワハハハハ……。」

と、いきなり、人間の笑い声が聞こえてきたではありませんか。

「あいつです。ゴングが電話をかけてきたのです。」

 花崎さんは、そこにいた明智探偵に、そっと、ささやきました。

「じゃあ、それをわたしに、おかしなさい。わたしが応待します。」

 明智は、花崎さんの手から受話器をうけとって、あいてにどなりつけました。

「きみは、だれだっ?」

「ワハハハハ……、そういうきみは、だれだね。花崎検事かね?」

「ぼくは、明智小五郎だっ!」

「あっ、明智が、そこにいたのか。いや、ちょうどいい。それでは、きみと話そう。……おれがだれだか、むろん、わかっているだろうね。」

 あいては、人をばかにしたような、ふてぶてしい調子で、ゆっくり話しかけてきました。

「ぼくに、話があるというのか。」

 明智探偵も、おちつきはらっています。

「きみのほうこそ、ぼくに聞きたいことがあるというんじゃないかね。」

 あいても、自信まんまんの、調子です。

「べつに聞きたいこともないね。ぼくは、なにもかも知っている。」

「フフン、日本一の名探偵だからね。……それじゃ、こっちから聞いてやろう。きみたちは、隅田川の底を捜索したが、おれのすみかが見つからなかった。しかし、おれは、ちゃんと、隅田川の水の底に住んでいたんだよ。ウフフフ……。このなぞが、わかるかね。」

 ああ、やっぱり、水の底にすみかがあったのでしょうか。それが、あれほど、捜索しても、わからなかったのは、なぜでしょう? さすがの明智探偵にも、このなぞは、まだ、とけていないのです。しかし、わからないと、答えるわけにはいきません。

「むろん、ぼくには、わかっているよ。」

「ワハハハハハ……、自信のない声だな。やせがまんはよして、どうか教えてくださいといいたまえ。おれは、その種あかしをするために、電話をかけているんだからね。」

 怪人は、なにもかも見とおしているのです。明智が、まだ、その秘密を知らないことを、ちゃんと見ぬいているのです。

 こうなったら、明智のほうでも負けてはいられません。とっさに、そのなぞを、といてみせるほかはないのです。五秒間にこのむずかしいなぞを、とかなければなりません。いくら名探偵でも、そんなはなれわざが、できるのでしょうか?

「ぼくは、きみの秘密を知っているよ。」

 明智は、おちついて答えました。

「ウフフフ……、あくまで、やせがまんをはる気だな。よろしい。それなら、おれが水の底のどこに住んでいたか、いってみたまえ。潜水夫をいれて、あれほどさがしても見つからなかったじゃないか。」

「それは、あのときには、きみは、隅田川の底に住んでいた。しかし、いまは、もう、同じところに住んでいないからさ。」

 明智は、一時のがれのむだごとをいいながら、全身の気力を頭に集めて、このなぞをとこうとしていました。

「フフン、それは、むろんのことだ。おれはいま、陸上にいるよ。だが、水の底に住んでいたとすれば、そのあとがあるはずじゃないか。水の底の家が、そうやすやすと、こわせるものじゃないからね。」

「こわさなかった。しかし、もとの場所にはないのだ。」

 明智は、苦しまぎれにそういいましたが、そのとき、パッと、ある考えが浮かびました。秘密がわかったのです。わかってみれば、じつに、なんでもないことでした。

「ウフフフ……やせがまんはよして、かぶとをぬぎたまえ。おれが教えてやろうといっているんだからね。」

「ぼくには、ちゃんと、わかっている。」

「フン、そうか。じゃあ、いってみたまえ。さあ、はやく、いつまでも、電話をかけているわけには、いかないからね。」

潜航艇(せんこうてい)だよ。」

 明智が、ずばりと、いってのけました。

「え? なんだって?」

「きみのすみかは、潜航艇だったというのさ。」

「へえ? 潜航艇が、隅田川にはいれるかね。」

「どんなあさいところでもこられる、小型潜水艇だよ。ずっと前に、ある犯罪者が小型潜航艇で、隅田川をあらしまわったことがある。ちゃんと、前例があるのだ。ハハハ……どうだね。あたったらしいね。」

「あたった。ウフフフ……、さすがは、明智先生だね。まさに、そのとおりだよ。」

 怪人も、とうとう、かぶとをぬぎました。しかし、かれの用件は、そのことだけではなかったのです。

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