妖人ゴング

23話 二挺のピストル

1,353字 約3分 2017年12月15日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 そして、老人は、にこにこ笑いながら、こんなことをいいました。

「わしは、きみが、いまくるか、いまくるかと、まい日、待ちかまえていたのですよ。奥のかやの中に寝ているきょうだいを、きみが、つれ出しにくることが、ちゃんと、わかっていたのでね……。」

 すると、ごましお頭のいなかじいさんが、みょうな声をたてて笑いました。

「それじゃ、あんたは、わしがだれだか、知っているのかね……。」

「むろん、知っているよ。……きみは、ゴングという怪物だっ!」

 ふたりは、縁がわから、すっくと立ちあがって、にらみあいました。

「うん、そのとおり。さすがは、名探偵の明智君だ。よろしい。それで、どうしようというんだね。」

 いなかじいさんが、とつぜん、わかわかしい声にかわりました。

 しらひげの老人は、明智小五郎の変装姿だったのです。こちらも、にわかに、わかわかしい声になって、

「こうするのだっ!」

と叫びながら、相手にとびかかっていきました。そして、

「マユミさん、俊一君、そこにあるほそびきを、持ってきなさい。こいつを、しばりあげてしまうのだっ。」

 ああ、かやの中に寝ていたきょうだいは、花崎検事のむすめのマユミさんと、その弟の俊一君だったのです。

 ふたりとも、いなかものに変装して、こんな山の中にかくれていたのです。

 明智探偵の変装したしらひげの老人の声を聞くと、ふたりとも寝まきのまま、かやの中から、とび出してきました。マユミさんは、長いほそびきを持っています。

「ワハハハハハ……。」

 ゴングの変装したいなかじいさんが、恐ろしい笑い声をたてながら、パッと、明智の手をすりぬけて、庭のまん中に立ちはだかりました。

「やっぱりそうだったな。そのふたりは、マユミと俊一だな。こんなところへかくしたつもりでも、おれのほうでは、なにもかも見とおしだ。明智先生、きみも、ぞんがい知恵のない男だねえ。」

「ウフフフフ……、知恵があるかないか、いまにわかるよ。きみは、たったひとりで乗りこんできた。こっちは三人だよ。三対一では、まず、きみの負けだねえ。」

 明智の老人は、そういって、ゴングのじいさんに、とびかかろうとしました。

 するとゴングは、右手を内ぶところにいれて、なにか、もぞもぞやっていましたが、その手をパッと出したときには、黒い小型ピストルが、にぎられていたではありませんか。

「ハハハハハ……、これがおれの奥の手だよ。ピストルはかならず二挺用意しているのだ。ひとつがだめになっても、もうひとつというわけだよ。」

 たじたじとなった明智の顔を見て、ゴングは、とくいらしく笑いつづけていましたが、やがて、ピストルをマユミさんと俊一君のほうにふりむけました。

「きみたちふたりは、そのほそびきで、明智先生をしばるんだ。……明智君、縁がわに腰かけて、両手をうしろにまわしなさい。そう、そう、そうすれば、しばりやすくなる。さあ、子どもたち、明智先生のからだを、ほそびきで、ぐるぐる巻きにするんだ。はやくしろっ! でないと、このピストルを、ぶっぱなすぞっ。」

 ああ、明智ともあろうものが、どうして、もう一つのピストルに気がつかなかったのでしょう。名探偵にしては、たいへんな手ぬかりではありませんか。いったい、マユミさんと俊一君の運命は、どうなることでしょうか。

目次に戻る

目次