妖人ゴング

25話 さいごの手段

2,349字 約5分 2017年12月15日 公開

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 立ちすくんでいたゴングじいさんが、パッと身をひるがえしました。

「おれには、さいごの奥の手があるんだっ。」

と叫びざま、明智探偵のほうへ突進してきました。小林君は、ピストルをかまえていましたけれど、うつことができません。それほどゴングは、すばやかったのです。

 明智にとびかかるかと見ていると、そうではなくて、明智の横をとおりすぎて、いきなり、縁がわにとびあがり、あっと思うまに、奥の部屋にかくれてしまいました。

 そのとき、警官たちは、もう、縁がわの近くまできていましたが、ゴングじいさんの姿が見えないので、ピストルをうつこともできません。

「裏へまわってください。裏から逃げるつもりです。」

 明智の声に、警官たちは、家の横を裏のほうへ、とんでいきましたが、もう、まにあいません。ゴングじいさんは、一直線に、家の中を突っきって、裏手にとびだすと、そのまま、いけがきを乗りこして、裏山の森の中へ逃げこんでしまいました。そのはやいこと! まるで、つむじ風がとおりすぎるようでした。

 三人の警官が、それにつづいて、森の中へとびこんでいったことは、いうまでもありません。

 道もない森の中。頭の上は、いくえにも木の葉にとざされて、まっ暗です。イバラやつる草が、ゆくてをふさいでいて、なかなか、はやくは進めません。

 ゴングじいさんの姿は、はるかむこうに、ちらちらと見えたりかくれたりしています。三人の警官は、ターン、ターン、ターンと、空にむかって、おどかしのピストルを発射しました。

 しかし、そんなことで、おどろくゴングではありません。かれの姿は、ますます遠ざかっていくばかりです。

 そのとき、警官たちは、ぞっとして立ちどまりました。

「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」

 どこともしれず、あの恐ろしい音が聞こえてきたからです。はじめは小さく、だんだん大きく、しまいには、こまくやぶれるばかり恐ろしいひびきとなって、おそいかかってくるのです。

 ふと気がつくと、むこうの木のあいだに、白いもやのようなものがたちこめていました。だれかたき火でもしているのかと思いましたが、そうでもありません。うす暗い森の下に、白いものが、ボーッとたちこめているのです。

 警官たちは、思わず立ちどまって見ていますと、その白いもやの中に、ぼんやりと、へんなものがあらわれてきました。

 あっ! 人の顔です。五メートル四方もあるような、でっかい人の顔です。いや人間ではありません。人間に、あんな(きば)がはえているはずはないのです。

 ギョロリと光ったまんまるな目、大きな鼻、耳までさけた恐ろしい口、そこから、ニューッと、とびだしている大きな牙。

 妖人ゴングです。ゴングが正体をあらわしたのです。

「撃てっ!」

 警官のひとりが叫びざま、怪物の顔にむかってピストルを発射しました。あとのふたりも、それにつづいて、ターン、ターンとピストルを撃ちました。

 しかし、白いもやの中の怪物は、びくともしません。大きな口を、キューッとまげて、あざ笑っているばかりです。

 勇敢な警官たちは、いきなり、白いもやにむかって突進していきました。怪物につかみかからんばかりのいきおいです。

 ところが、近づくにしたがって、もやの中の怪物が、とけるように、くずれていきました。そして、警官たちが、もやの中にふみこんだときには、もう、そこには、なにもないのでした。ただ、うすい煙のようなものが、ふわふわと、ただよっているばかりです。

 そのとき、またしても、警官たちを、あざ笑うように、あのぶきみな音が、ひびいてきました。

「ウワン……ウワン……ウワン……ウワン……。」

 その音にまじって、もうひとつの、みょうな音が聞こえてくるのです。

「ブルン、ブルン、ブルン、ブルルルル……。」

 そして、サーッと嵐のような風が吹きつけてきました。そのへんの立ち木が、ざわざわとゆれています。

 怪物が、なまぐさい風をまきおこして、天にでものぼっていくのでしょうか。警官たちは、なんだか、そんな感じがしました。

 白いもやをくぐりぬけて、なおも進んでいきますと、むこうのほうが、パッと明るくなりました。そこで森がなくなって、原っぱがひろがっているらしいのです。小山のいただきが、原っぱになっているのでしょうか、つむじ風は、その原っぱのほうから吹きつけているらしいのです。

 警官たちは、やっと、森をぬけて、原っぱに出ました。

「あっ! あれをみたまえ。」

 さきにたっていた警官が、空を指さして叫びました。

 ああ、ごらんなさい。小山のいただきの原っぱの空には、一台のヘリコプターが、舞いあがっているではありませんか。

「あっ、ゴングは、あれに乗って逃げだしたんだ。あいつは、ヘリコプターを、ちゃんと、ここに待たせておいたんだ。」

 まだ、そんなに高くあがっていないので、すきとおったプラスチックばりの操縦席が、よく見えます。そこには、ゴングの部下らしいひとりの操縦者と、いなかじいさんにばけたゴングとが乗っていて、いなかじいさんは下を見おろして、にやにや笑っているのが、まざまざと見えるのです。

 警官たちは、こぶしをふるって、空にどなりつけましたが、なんのかいもありません。つづけざまにピストルをぶっぱなしましたが、ヘリコプターにはあたりません。

 ヘリコプターは、上へ上へとのぼって、東京のほうにむかって遠ざかっていきます。豆つぶのように小さくなり、それも、やがて見えなくなってしまいました。

 妖人ゴングは、明智探偵のために裏をかかれて、なにもすることもできず逃げさったのです。しかし、さすがの名探偵も、ゴングをとらえることはできませんでした。まさか、ヘリコプターまで用意しているとは気がつかなかったからです。

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