妖人ゴング

31話 穴の上から

1,902字 約4分 2017年12月15日 公開

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 防空壕の上の土手では、シャベルで掘れるだけ掘ると、あついコンクリートが、あらわれてきました。防空壕のてんじょうにあたる部分です。

 もうシャベルでは掘れませんから、用意してあった電気さく岩機(がんき)を庭の電灯線につないで、土手の上にはこび、コンクリートをこわしはじめました。よく、道路工事などで、労働者が長ぼそい機械を地面に立て、上から両手でおさえつけて、ダダダダダ……と、コンクリートをこわしているでしょう。あの機械なのです。

 ゴングが地震だと思ったのは、このさく岩機のひびきでした。頭の上から落ちてきたのは、コンクリートのかけらだったのです。

 見ているまに、さしわたし五十センチほどの穴があきました。待ちかまえていた明智探偵は、懐中電灯で、その穴の中を照らしました。

 穴の下は水でいっぱいです。その水の中から、あわれなゴングの首が浮きあがっていました。頭には、まだネズミがとまっています。そして顔じゅう血だらけなのです。

 明智に呼ばれて、土手の下から、ひとりの警官がかけあがってきました。警視庁の中村警部です。

「ゴングは、だいじょうぶか?」

「だいじょうぶ。もう水はとめさせたから、これいじょう、ふえることはないよ。それにしても、ゴングの顔は血だらけになっている。どうしたんだろう。」

「コンクリートのかけらが、ぶっつかったのかな?」

「いや、わかった。そうじゃないよ。見たまえ。あいつの頭には、ネズミがウジャウジャかたまっている、ネズミにかじられたんだよ。かわいそうなことをしたな。」

 明智探偵はそういって、にが笑いをするのでした。

 水の中のゴングは、しばらくは、なにがなんだかわからないように、ぼんやりと、穴の上を見あげていましたが、やがて、ことのしだいが、のみこめたらしく、ぐっとこちらをにらみつけて、どなりました。

「おい、そこにいるのは明智だな。そして、もうひとりは、中村警部か?」

「そうだよ。ひどいめにあわせてすまなかったね。だが、きみをとらえるのには、こんな手を考えだすほかはなかったのだよ。きみは、魔法つかいだからね。それにしても、きみの魔法はどうしたんだ。こんなときには、役にたたないとみえるね。」

 明智が穴をのぞきこみながらいいますと、下から、また、にくにくしげな、どなり声が聞こえました。

「きさまなんかに、おれの魔法がわかってたまるもんか。いまに、どんなことが起こるか、見ているがいい。こんどこそ、もう、きさまを生かしちゃおかないぞっ!」

「ハハハ……、からいばりは、よしたまえ。きみは、ぜったい人ごろしはしないはずだったじゃないか。それに、きみはもう、魔法なんかつかえはしないよ。あれは魔法でも、なんでもないんだからね。」

「フフン、で、きさま、おれの魔法の秘密を知っているというのか。」

「すっかり知っているよ。だから、いくらきみがおどかしたって、ちっともこわくないのさ。」

「それじゃ、いってみろ。」

「なにも、いまいうことはないじゃないか。きみは、そのつめたい水の中に、まだがまんしているつもりか?」

「おれに、縄がかけたいのだろう。おれのほうでは、ちっともいそぐことはないよ。ここで聞いてやろう。さあ、いってみろ!」

「ごうじょうなやつだな。それじゃ、水の中で泳ぎながら、聞いていたまえ。きみの魔法といっても、たいていは、これまでに種がわれている。わからなかったのは、ゴングの顔が、空にあらわれる秘密と、ここの池の底から、大きなゴングの顔が浮きあがってきた秘密と、それから、れいのウワン、ウワンという音と、この三つぐらいのものだね。」

「うん、その秘密がわかるか。」

「子どもだましだよ。ウワン、ウワンという音は、テープレコーダーと、拡声器があれば、だれにだってだせるよ。拡声器の大きなやつをつかえば、何百メートルもむこうまで、ひびくからね。」

「ふふん、きさまの考えは、まあ、そんなところだろう。だが、あとの二つの秘密は、むずかしいぜ。きさまに、とけるかね?」

 水の中から、首だけをだした血まみれのゴングの顔が、にくにくしく、あざ笑いました。

「なんでもないよ。二つとも、やっぱり、子どもだましさ。きみのやることは、いつでも子どもだましだよ。ただ、ちょっと、人の思いつかないような、きばつな子どもだましなので、世間がだまされるのだ。きみのくせを知ってしまえば、その秘密をとくのは、ぞうさもないことだよ。」

「で、とけたか?」

「むろん、とけたさ。」

 ひとりは、穴の上にしゃがんで、懐中電灯を照らしながら、ひとりは血まみれの顔で、つめたい水の中に立ちおよぎをしながら、このふしぎな問答は、なおもつづくのでした。

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