妖人ゴング

32話 ゴングの秘密

3,201字 約6分 2017年12月15日 公開

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 そのとき防空壕の土手のそばに、みょうなことが起こっていました。

 そこには少年探偵団とチンピラ隊の子どもたちが、十人ばかり集まって、なにかひそひそとささやきあっていました。

「ね、この考え、いいだろう。おれ、マネキン人形屋のゴミ箱から、これをひろってきたんだよ。子どものマネキン人形だよ。こいつに俊一さんの服を着せるんだよ。」

 チンピラ隊の安公という少年が、とくいになって、みんなに話しているのです。安公はじぶんと同じくらいの大きさの、マネキン人形をわきに立たせて、両手でたおれないように、かかえていました。かたほうの耳がかけ、手足もきずだらけになって、もうつかえない人形です。

「きみは、ずいぶん、へんなことを考えるんだねえ。そんなこと、うまくいくと思うかい?」

 少年探偵団のひとりが、からかうようにいいました。

「うまくいかないかもしれないよ。だって、もともとじゃないか。まあ、ためしに、やってみるんだよ。だれか俊一さんの洋服かりてきてくれよ。」

 チンピラの安公は、あくまでいいはるのです。

 みんなは、小林団長の意見をきいてみました。すると、小林少年は、

「やってみたらいいよ。安公の考えはおもしろいよ。ゴングのやつ、だれも助けにきてくれないんだから、ひょっとしたら、その手にのるかもしれない。ぼく、俊一君の洋服かりてきてやるよ。」

 小林少年は、そういって、まっ暗な庭のなかをかけだしていきましたが、しばらくすると、俊一君の着がえの服を持って、帰ってきました。

 それから、みんなして、きずだらけの人形に俊一君の服を着せ、人形をしゃがませ、地面にみじかい木の棒を立て、たおれないようにしました。頭には学生帽を深くかぶせましたから、ちょっと見たのでは、俊一君とそっくりです。人形の顔も、なんだか俊一君ににているようです。

 小林少年は懐中電灯で、それをしらべながら、

「うまくできたね。ぼくだって、ちょっと見たら俊一君だと思うよ。」

と、安公の知恵をほめるのでした。

 やみのなかに、花崎俊一君のカカシがしゃがんでいるわけです。

 それにしても、このカカシは、いったい、どんな役目をするのでしょうか。チンピラの安公は、じつにへんなことを、思いついたものです。

 カカシができあがると、少年たちはそのまわりに立って、時のくるのを待ちかまえるのでした。

 そのあいだにも、防空壕の水の中と、てんじょうの穴の上との、きみょうな問答がつづいていました。

「で、きさま、おれの魔法の種がわかるというのか。」

 水の中のゴングが、あざけるように叫びました。

「空いっぱいにゴングの顔があらわれたのは、ガラスにかいた絵を映写したんだよ。」

 明智探偵が、こともなげに答えました。

「子どもだましだよ。しかし、大じかけな子どもだましだ。まずヘリコプターを飛ばせて、白い煙を空いっぱいに、まきちらかすのだ。その煙がスクリーンになる。それに向けて、どこかの屋上にすえつけた、サーチライトのような強い光の映写機で、ガラスにかいたゴングの顔をうつすのだ。空にあらわれるゴングの顔が、なんだかもやもやして、はっきりしなかったのはそのためだよ。ゴングが笑っているように見えたのも、スクリーンの白い煙が動くので、そんなふうに感じられたのだ。

 どうだ、そのとおりだろう。返事をしないところをみると、ぼくのいったことが、あたっているのだね。

 だが、そんなことをするのには、たいへん費用がかかる。ゴングは、なぜそんなバカなまねをしたのか。それは花崎さんをおどかすためだよ。いや、世間ぜんたいをおどかすためだよ。そして、このぼくに挑戦したのだ。え、そうだろう。きみはそういう大げさなことがすきだからねえ。」

 ああ、空にあらわれた怪物は、ガラスの絵を映写したのにすぎなかったのです。それにしても、なんというきばつなことを考えついたものでしょう。

 水の中のゴングは、だまっていました。懐中電灯の光をあててみると、目をつむっています。明智にすっかりいいあてられて、一言(いちごん)もないというようすです。明智はなおも話しつづけました。

「池の中から、巨人の顔が浮きあがった秘密も、同じような子どもだましだ。大きなゴムびきのぬのか、ビニールに巨大なゴングの顔をかいた。目はガラスかプラスチックの目玉をいれ、鼻は高くふくらませ、口は大きくくぼませ、やっぱりプラスチックかなにかで、二本の牙をはやした。

 その大きなゴムぬのかビニールの下には、空気のもれない袋を、いくつもくっつけておき、長いゴム管で、庭の茂みのかげから、あっさく空気を送ったのだ。すると袋がふくらんで、巨大な顔ぜんたいが、スーッと池の底から浮きあがってくるというしかけなのだ。

 どうだ、これもあたっているだろう。いかにも、きみの思いつきそうな手品だからね。

 俊一君が、あの巨大な顔を見て逃げだすと、木の茂みにかくれて、あっさく空気を送っていたきみは、すぐに、そこからとびだして、池の中の顔をひきあげ、袋の空気をぬいて、小さくおりたたみ、それを持って、姿をくらましてしまった。たぶん、そのときには助手がいたのだろう。でなくては、あっさく空気のしかけまで、ひとりで運びだすことは、むずかしいからね。」

 これで妖人ゴングの魔法の種は、すっかりとけてしまいました。さすがに名探偵です。明智はずっと早くから、なにもかも見ぬいていたのでした。

 水の中のゴングは、それでもまだ、だまりこんでいました。水の上に首だけが、じっと浮かんでいますが、生きているのか死んでいるのかわからないほど、しずかです。

 明智は、なおも話しつづけます。

「おい、ばかに考えこんでしまったね。ぼくのいったことが、みんなあたっていたので、すっかり、しょげてしまったんだね。ハハハハ……、ところが、きみにはまだ、もっとでっかい恐ろしい秘密があるのだ。

 きみはなぜ、マユミさんと俊一君を、執念ぶかくねらったか。それはおとうさんの花崎検事を苦しめるためだ。きみは花崎検事にひどいめにあったことがある。その復讐をしようとしたのだ。

 花崎さんは、すこしも悪い人ではない。しかし検事としては、罪人をきびしくせめるのがつとめだ。だから、花崎さんにうらみを持つものは、罪人のほかにない。きみは花崎さんのかかりで、重い刑をうけたことがあるにちがいない。

 ぼくは花崎さんに、そういう罪人の心あたりはないかときいてみた。すると花崎さんは、じぶんをひどくうらんでいるかもしれないという五―六人の名まえを、紙に書いて見せてくださった。その中に、きみの名まえがあったのだ。

 ぼくは、さいしょから、その男ではないかとうたがっていた。ただ花崎さんに復讐するだけなら、あんな大げさな魔法を使うひつようはない。その男は、世間をあっといわせたかったのだ。ぼくの前に姿をあらわして、これ見よがしに、戦いをいどんできたのだ。

 マユミさんがぼくの助手になったのが、こんどのきみの復讐の、きっかけになったのかもしれない。マユミさんをひどいめにあわせれば、花崎さんを苦しめるだけでなく、ぼくをおこらせることができる。きみは、いっぺんに二つの復讐ができるのだ。

 またきみは、小林君や少年探偵団にもうらみがある。だから小林君を、あんな恐ろしいめにあわせたのだ。そして、少年探偵団をおびきよせ、からかったり、いじめたりするつもりだったのだ。

 きみ、ゴング君。花崎さんばかりでなく、ぼくや小林君に、そういううらみを持っている男が、世間にふたりとあるだろうか。

 ここまでいえば、もうわかっただろう。ぼくは、きみの正体を見やぶったのだ。」

 明智探偵は、水の中に首を浮かべているゴングの顔に、まっこうから懐中電灯の光をあてて、底力のある重々しい声で、さいごの宣告をあたえました。

「きみは怪人二十面相だっ! べつの名は怪人四十面相だっ!」

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