続銀鼎

5話

4,525字 約9分 2016年9月7日 公開

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 水源(みなもと)を、岩井(いはゐ)大沼(おほぬま)(おこ)すと()ふ、浦川(うらかは)()けた(はし)(わた)つた(ころ)である。

 松島(まつしま)から帰途(かへり)に、停車場(ステーシヨン)までの(あひだ)を、旅館(りよくわん)から(やと)つた車夫(しやふ)は、昨日(きのふ)日暮方(ひぐれがた)()旅館(りよくわん)まで、(おな)停車場(ていしやば)から(おく)つた(をとこ)()れて、(その)心易(こゝろやす)車上(しやじやう)(はな)した。

「さあ、(なん)()はうかな。……景色(けしき)()うだ、と()かれて(わる)いと()ふものもなからうし……(たゞ)よかつたよ、とだけぢや、(きみ)たちの(はう)(をさま)るまいけれども、(なに)しろ、(わたし)には、松島(まつしま)()ても松島(まつしま)(ろん)ずる資格(しかく)はないのだよ。昨日(きのふ)(きみ)世話(せわ)()つたと()ふから、()つてるだらうが、薄暮合(うすくれあひ)、あの時間(じかん)旅館(りよくわん)()いたのだから、あとは()()(はひ)つて()るばかりさ。」

 (その)昨日(きのふ)(それ)までは、(いさゝ)()(よう)があつて仙台(せんだい)()たのであつた。

()があけたわ、(かほ)(あら)つたわ、旅館(りよくわん)縁側(えんがは)から、築山(つきやま)(まつ)()へたのが(いく)つも(かすみ)(なか)()いて()る、(おほき)(いけ)(なが)めて、いゝなあと()つたつて、それまでだ。――海岸(かいがん)()たからつて、(なみ)(ひと)()るぢやなし、桜貝(さくらがひ)(ひと)つあるんぢやあない。

 しかし、無理(むり)だよ。……(かね)()いても()るし、むかしの書物(しよもつ)にも()いてある。――松島(まつしま)()るのは(ふね)(かぎ)る。八百八(しま)()(しま)(あひだ)を、自由(じいう)青畳(あをだゝみ)(うへ)のやうに()ぐんだと()ふから、(しま)一つ一つ(おもむき)のかはるのも、どんなにいゝか()れやしない。(うを)もすら/\(およ)ぐだらうし、(まつ)には(ふぢ)()いてるさうだし、つゝじ、山吹(やまぶき)、とり/″\だと()ふ、()(あひだ)を、(ふね)(かげ)(おどろ)いて、パツと()れて水鳥(みづとり)()つたり、(かもめ)(およ)いで()たり……」

()うで、()うで、()(とほ)りで……旦那(だんな)。」

と、車夫(しやふ)楫棒(かじぼう)()つた(かた)(そび)やかした。

(ふね)でなけりや、富山(とみやま)()ふのへ(のぼ)るだね。はい、其処(そこ)だと、松島(まつしま)(のこ)らず一目(ひとめ)()えますだ。」

「ださうだね。(なに)しろ、(ふね)(まは)るか、富山(とみやま)(のぼ)らないぢやあ、松島(まつしま)景色(けしき)(ろん)ずべからずと、ちやんと(いまし)められて()るんだよ。」

()うでがすね、(これ)から、富山(とみやま)へおのぼりに()つては、はい、一()たらずだ、一息(ひといき)だで。」

「いや、それよりも、(はや)(かへ)つて、墓参(はかまゐり)がしたくなつた。」

「へい。」

()つたが、()つた(きやく)も、()(をとこ)も、(めう)(だま)つた。

 (その)(われ)ながら、(あま)りつきもない(こと)をうつかり()つたのに、はつと()()いたほどである。

 車夫(しやふ)唐突(だしぬけ)に、()かくしでもされたやうに(おも)つたらう。

 ()(しろ)く、(くも)(しろ)く、(そら)(しろ)い。のんどりとして静寂(せいじやく)田畠(たはた)には、(つち)湧出(わきで)て、装上(もりあが)るやうな(かはづ)(こゑ)。かた/\かた/\ころツ、ころツ、くわら/\くわら、くつ/\くつ。(なか)でも(おほ)きさうなのが、(つち)()()れる(ところ)に、(たか)(かま)へた(はら)を、()(ひと)()()かせて、があ/\があ/\と(ふと)()く。……

 (くるま)踏切(ふみきり)を、()(かはづ)(こゑ)(うへ)()した。一昨日(おととひ)()(とほ)した(あめ)のなごりも、(うす)(かは)(まい)()つたやうに(みち)(かは)いた。

 一(ぱう)小高(こだか)土手(どて)()ると、いまゝで()いて()(かぜ)()むだ。(もや)(かすみ)もないのに、田畑(たはた)は一(めん)にぼうとして、日中(ひなか)(はる)()(おぼろ)である。薄日(うすび)(よわ)(くも)()さず、(くろ)()いた黄蒲公英(きたんぽゝ)咲交(さきまじ)(まめ)(はな)の、()(むらさき)にも、ぽつりとも(くろ)(かげ)()えぬ。(しゆ)木瓜(ぼけ)はちら/\と()をともし、()()(つゝ)むだ石楠花(しやくなげ)は、入日(いりひ)(あは)(いろ)()めつゝ、(しか)()(まさ)()なのである。(みち)にさし()た、(まつ)(こずゑ)には、(むさらき)(ふじ)かゝつて、どんよりした遠山(とほやま)のみどりを()けた遅桜(おそざくら)は、薄墨色(うすずみいろ)()()いて、(しか)散敷(ちりし)いた花弁(はなびら)は、(ちり)かさなつて()をこんもりと(つゝ)むで、薄紅(うすあか)い。

 ()(そば)に、二ツ三ツ(さかひ)のない(はか)()える。

 ()つゝ、(くるま)は、段々(だん/\)()(へだ)てゝ、土手添(どてぞ)ひの(こみち)(はるか)()くのである。

 (くも)も、(そら)も、(みな)(しろ)い。

 其処(そこ)へ、(かげ)のさすやうなのは、一つ一つ、百千と(かぞ)()れない(かはづ)(こゑ)である。

 ()く、()く。……

 (まつ)(すぎ)田芹(たぜり)、すつと()びた酸模草(すかんぽ)()の、そよとも(うご)かないのに、溝川(みぞがは)(おほ)ふ、たんぽゝの(はな)(まめ)のつるの、(たちま)ち一(しよ)に、さら/\と(うご)くのは、(ふな)(どぜう)には揺過(ゆれす)ぎる、――(ひる)水鶏(くひな)(とほ)るのであらう。

 (ゆめ)()()るやうである。

 (おもむき)(ちが)ふけれども、(その)は、名所(めいしよ)にも、古跡(こせき)にも、あんな景色(けしき)はまたあるまいと(おも)(ところ)を、前刻(さつき)も一()(とほ)つて()た。

 ――水源(みなもと)岩井沼(いはゐぬま)(おこ)すと()ふ、浦川(うらかは)(ながれ)(すゑ)が、(ひろ)()つて(うみ)(そゝ)(ところ)(ちか)かつた。旅館(りよくわん)()てまだいく(ほど)もない(ところ)に――(みち)(そば)に、切立(きつた)てた、(けづ)つた、(おほき)(いはほ)の、矗々(すく)()つのを()た。(あるひ)は、(ほとけ)御龕(みづし)(ごと)く、(あるひ)(ひと)髑髏(どくろ)()て、(あるひ)禅定(ぜんぢやう)(あな)にも()つゝ、(あるひ)山寨(さんさい)石門(せきもん)()た、()(いは)()には、(ひと)ツづゝ(みな)(みづ)(たゝ)へて、(なか)には(あを)()つて(ふち)かと(おも)はるゝのもあつた。岩角(いはかど)(まつ)(まつ)には(ふぢ)()き、巌膚(いははだ)には、つゝじ、山吹(やまぶき)(ちりば)めて、御仏(みほとけ)紫摩黄金(しまわうごん)(おに)(した)、また(そう)袈裟(けさ)、また将軍(しやうぐん)緋縅(ひおどし)(ごと)く、ちら/\と(みづ)(うつ)つた。

此処(こゝ)(うみ)ではなかつたか――いまの松島(まつしま)の。……()(いは)は、一つ一つ、あの(しま)のやうに――」

 一(ぱう)は、ひしや/\とした、何処(どこ)までも蘆原(あしはら)で、きよつ/\、きよつ/\、と(あし)一むらづゝ、(じゆん)に、ばら/\と、(また)飛々(とび/\)に、行々子(ぎやう/\し)()きしきつた。

 それから、しばらくは、まばらにも(あし)のある(ところ)には、(みな)行々子(ぎやう/\し)()いて()た――

 こゝに、(かはづ)()くやうに……

 まだ、()(ころ)は、(うみ)ある(はう)(くも)()れた、薄青(うすあを)(そら)があつた。それさへいまは(ゆめ)のやうである。

 (その)は、行々子(ぎやう/\し)()()におくられつゝ、(かはづ)(こゑ)(むか)へられたやうな()がした。

 ……水鶏(くひな)(はし)るか、さら/\と、ソレまた小溝(こみぞ)(うご)く。……(うご)きながら()静寂(しづか)さ。

 ()(とほ)くに、行々子(ぎやう/\し)()きしきつて、こゝに(かはづ)がすだく――()(あひだ)を、わあーとつないで、屋根(やね)(もん)()えないで、あの、遅桜(おそざくら)(やま)のうらあたり、学校(がくかう)生徒(せいと)の、一斉(いちどき)読本(とくほん)音読(おんどく)()はす(こゑ)

 (その)(こゝろ)()も《ぼう》と()つた。

 ピイ、キリ/\と雲雀(ひばり)()くと、ぐらりと(はげ)しく(くるま)()れた。

「あゝ、車夫(わかいしゆ)。」

 (ひど)(みち)だ。

()りやう、――()りやう。」

(なに)旦那(だんな)大丈夫(だいぢやうぶ)で、昨日(きのふ)此処(こゝ)(とほ)つたゞね、()れてるだよ。」

「いや、昨日(きのふ)も、はら/\したつけが、まだ()れて()たから、()をくつて、お(まへ)さんが()きにくいまでも、まだ()かつた。泥濘(ぬかるみ)薬研(やげん)のやうに(かは)いたんぢやあ、大変(たいへん)だ。(ころ)んだ(ところ)怪我(けが)もしまいが、……()()いてる(はな)(きまり)(わる)い。」

 (みち)のゆく()には、藁屋(わらや)(ちひ)さく、ゆる/\(うね)(みち)(あら)はれた背戸(せど)に、牡丹(ぼたん)()ゑたのが、あの(とき)の、子爵夫人(ししやくふじん)のやうに(はるか)(のぞ)いて()えた。

「はゝゝ、旦那(だんな)御風流(ごふうりう)だ。」

 それから、歩行(ある)きながら、

東京(とうきやう)から()らつしやる(かた)は、誰方(どなた)(はな)がお()きだアなあ。」

「いろんな可愛(かあい)いのが、路傍(みちばた)()いて()るんだ。(だれ)だつて(わる)くはあるまい。」

此人方等(こちとら)は、()()(やつ)か、()へるんでなくつては、黄色(きいろ)いのも、(あを)いのも、(ちつ)こいものを、(なん)にすべいよ。」

(わら)つた。が、ふと、(あせ)ばんだ(あか)(がほ)の、元気(げんき)らしい、(わか)いのが、(くちびる)をしめて……真顔(まがほ)()つて、

()うだ、()うだ、(おも)ひつけた。旦那(だんな)、あなた(さま)、とこなつと()(くさ)()つてるだかね。」

常夏(とこなつ)。」

「それよ。」

撫子(なでしこ)(こと)ぢやあないか。」

「それよ――矢張(やつぱ)り……()うだ――(わす)れもしねえ。……矢張(やつぱ)(おな)じやうな(こと)()はしつけが、私等(わしら)にや()撫子(なでしこ)()(わか)んねえだ。――(なに)ね、(いま)から、二三(ねん)()うだねえ、()れこれ四(ねん)には()るづらか。東京(とうきやう)から()なさつたな、そりや、()うも容子(やうす)たら、容色(きりやう)たら、そりや()うも(うつくし)(わか)奥様(おくさま)がな。」

一人(ひとり)かい。」

「へゝい、お二人(ふたり)づれで。――旦那様(だんなさま)は、洋服(やうふく)で、それ、()()(かた)が、こゝへぶら()げておいでなさる、あの器械(きかい)()つて()らしつけえ。――(わす)れもしねえだ、若奥様(わかおくさま)は、綺麗(きれい)(ぬひ)肩掛(かたかけ)()()つてよ。(むらさき)がゝつた(くろ)(ところ)へ、一(めん)に、はい、(さくら)(はな)びらのちら/\かゝつた、コートをめしてな。」

 (その)はゾツとした。

(ちやう)今頃(いまごろ)だで――それ/\、それよ矢張(やつぱ)()(みち)だ。……(わし)忠蔵(ちうざう)がお(とも)でやしたが、若奥様(わかおくさま)がね、瑞巌寺(ずゐがんじ)欄間(らんま)()つてる、迦陵頻伽(かりようびんが)()(こゑ)でや、

 ――あの(なつ)になると、()(へん)常夏(とこなつ)沢山(たくさん)()きませうね――

 へい、()常夏(とこなつ)()らねえだ。

 ――まあ、撫子(なでしこ)(こと)なんだよ――

 ()のさ、撫子(なでしこ)()らねえだ。(わし)(あせ)(なが)したでなあ。……

 (をり)があつたら、誰方(どなた)ぞ、()かう()かう(おも)つて、因果(いんぐわ)因縁(いんねん)で三(ねん)()つたゞ。旦那(だんな)(はな)がお()きだで、な、どんな草葉(くさつぱ)だかこゝ()にあつたら、一寸(ちよつと)つまんで(をし)へてくらせえ。」

淡紅色(ときいろ)の、(やさし)(はな)だが、()(へん)には(きつ)とあるね。あるに(ちが)ひない。()だけでも(わたし)にも(わか)るだらう。」

と、のつかゝつた(いきほひ)で、(みぞ)()さうとして、

「お()ち。」

 (その)は、つと(くるま)()つた。

 バスケツトを()けて、()(はな)が、(いろ)のまゝ()まつた、衣絵(きぬゑ)さんの友染(いうぜん)を、と(おも)つた……其時(そのとき)である。車夫(くるまや)が、

「あつ。」

(くち)()けて、にやりとして、

「へ、へ、(ころ)ぶと、そこらの(はな)(はづ)かしい。……うつ、へ、へ。御尢(ごもつと)もだで。旦那(だんな)()(はや)いだやあ。」

(なん)だ。」

「へ、へ、(わし)あまた。真個(ほんとう)草葉(くさつぱ)(はな)かと(おも)つたゞ、」

(なん)だよ……」

「なんだよつて、へ、へ、へ。そこな、酸模(すかんぽ)蚊帳釣草(かやつりさう)彼方(むかう)に、きれいな(はな)が、へ、へ、(はな)が、うつむいて、(くさ)(つま)んで()なさるだ。」

「え。」

「や――旦那(だんな)、――旦那(だんな)でがせう。其方(むかふ)()ながら。(まね)かつしやるは。」

「これ。」

「や、(わし)で、――へい、(わし)で。」

と、きよろりとしながら、

「へい、へい。」

 (くるま)(よこ)に、つか/\と、()(くろ)へ、()いて乗掛(のつか)けると、(しろ)()に、(かげ)もなく、ぽんと()つて、ぺこ/\と叩頭(おじぎ)をした。

「へい、(それ)が、へい、成程(なるほど)(それ)が、常夏(とこなつ)で、へい。」

とまた叩頭(おじぎ)をした。が、ゑみわれるやうに、()もいはれぬ、成仏(じやうぶつ)しさうな笑顔(ゑがほ)()けて、

旦那(だんな)旦那(だんな)旦那(だんな)……」

(なに)。」

「あなた(さま)にも、御覧(ごらん)なせえと……若奥様(わかおくさま)が。」

 (その)は、(たましひ)(こゝろ)(ちう)()んで()()つた。

 (そら)に一(りん)(つぼみ)()へて、()いたやうに、()常夏(とこなつ)(はな)()にした、(ほつそ)りと(しろ)()と、(さくら)ぢらしの紫紺(しこん)のコート。

衣絵(きぬゑ)さん……」

 (ひん)のいゝ、藤紫(ふぢむらさき)鹿子切(かのこぎれ)の、円髷(まげ)つやゝかな(かほ)()(とき)

「ぎやツ。」

(わめ)くと、楫棒(かぢぼう)をたゝき()げて、車夫(しやふ)雲雀(ひばり)と十文字(もんじ)()んで()げた。

 寂寞(ひつそ)()る。(かはづ)(こゑ)()やむだ()を、(なん)と、(その)は、はづみでころがり()した服紗(ふくさ)(ぎん)(なべ)に、(れい)()りつゝ、()(れい)常夏(とこなつ)(はな)をうけようとした。

 (しか)り、(ぎん)(かなへ)(さゝ)げた(とき)(その)聖僧(せいそう)(ごと)く、()(こゝろ)(すゞ)しかつた。

 (えり)をあとへ、常夏(とこなつ)(ゆび)(すこ)()いて、きやしやな撫肩(なでがた)をやゝ(なゝめ)()つたと(おも)ふと、衣絵(きぬゑ)さんの(かほ)は、(まつげ)()く、凝然(じつ)()ながら片手(かたて)(ほゝ)打招(うちまね)く。……(しな)ふ、(しろ)指先(ゆびさき)から、(つき)のやうな(かげ)(なが)れた。

 ()らうとすると、()()(うつ)る、(つま)(うつ)る、(もすそ)真蒼(まつさを)(みづ)がある。

 また(まね)くのを、ためらうと、薄雲(うすぐも)のさすやうに、(おもて)(さつ)気色(けしき)ばんで、常夏(とこなつ)をハツと(ぎん)(なべ)()げて寄越(よこ)した。

 ()(はな)(かげ)(うつ)つた。が、いまは、(みづ)()もと(おも)つた。

御免(ごめん)なされや。」

 背中(せなか)に、むつとして、いきれたやうな可厭(いや)(こゑ)(これ)は、と()ると、すれ(ちが)つて、(とほ)(ざま)振向(ふりむ)いたのは、真夜中(まよなか)(あめ)饂飩(うどん)()つた、(かみ)()の一(すぢ)ならびの、(くちびる)(たゞ)れたあの順礼(じゆんれい)である。

 ()(はし)に、前歯(まへば)()けた、(きたな)(くち)でニヤリとした。

 車夫(くるまや)が、()(みち)を、(ちひ)さく()つて、()げる、()げる。

 はや、幻影(まぼろし)()えつゝ、(その)()(まへ)に、一()(ふじ)つゝじを(ちりば)めた、大巌(おほいは)()に、(あい)(ごと)(みづ)(のぞ)むで、(あし)は、めぐらした(さく)()えたのを見出(みいだ)した。

 (きね)(キネ。)が(いけ)()ふ、(ひと)()(みづ)よ、と(のち)()く。

 衣絵(きぬゑ)さんに、()(となへ)似通(にかよ)ふそれより、()ほ、なつかしく、(なみだ)ぐまるゝは、(ぎん)(なべ)()れば、いつも、常夏(とこなつ)(かげ)がさながら()ゑたやうに()くのである。

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