夜光人間

26話 水中の怪光

2,959字 約6分 2018年7月15日 公開

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 二、三年まえ、あるフランス人が、ヘリコプターのプロペラのようなものを背中にしょって、空を飛ぶ発明をしたことが新聞にのっていましたが、四十面相は『宇宙怪人』の事件のとき、それとおなじようなプロペラを身につけて、たびたび空を飛んでみせました。

 こんども、そのプロペラなのです。四十面相の夜光怪人は、木のてっぺんに、かくしておいた飛行具を身につけて、星空を飛んでみせたのです。

 こうして夜光怪人は、またもや逃げさってしまいましたが、それから十日ほどたった、あるばんのことです。

 夜光怪人は、こんどは(みなと)区の上山(かみやま)さんというお金持ちのやしきに、そのぶきみなすがたをあらわしました。

 上山さんのうちには、小学校六年生の上山一郎という少年がいました。それが上山さんのひとりっ子なのです。

 一郎君は、少年探偵団にはいっている勇気のある少年でした。

 そのばん、一郎君は、二階のじぶんの部屋で勉強していましたが、ふと、窓から広い庭をのぞきますと、なんだか青く光るものが、木の間を、スウッと飛んだように見えました。

「へんだな。だれか懐中電灯を持って、庭へはいってきたのじゃないかしら。」

 一郎君は、勇気のある少年ですから、すぐに部屋を出て、階段をおり、庭にとびだしてみました。

 さっき光の動いていた木立ちの中へ、はいっていきましたが、あたりはまっ暗で、もうなんの光も見えません。

 しばらく、暗やみの中に立ちどまって、耳をすましましたが、あやしいもの音も聞こえません。

「おや、あれはなんだろう?」

 木立ちのむこうに池があります。その池の水面が、ボウッと青く光っているのです。

 一郎君は、池のそばへいってみました。

 水の中に、なにか光るものがしずんでいるではありませんか。

 岸にしゃがんで、水の中をのぞきますと、さすがの一郎君も、まっ青になって、ふるえあがってしまいました。

 池の底に、人間のすがたをした青く光るものが、よこたわっていたのです。そいつが、首をねじむけて、一郎君のほうをにらみました。

 ああ、その顔!

 まっ赤に光る三センチほどもあるまんまるな目、耳までさけたまっ赤な口、その恐ろしい顔が、水の中から、じろっと、一郎君をにらみつけたのです。

「アッ、夜光怪人だッ!」

 一郎君は、おもわずそう叫んで、うちのほうへかけだしました。そして、おとうさんの書斎へはいると、

「たいへんです。夜光怪人が、庭の池の中にいます。」

と、いきせききって知らせました。

 夜光怪人と聞くと、おとうさんもびっくりして、それをたしかめるために、ひとりの書生をつれて庭に出ていきました。

 そして、懐中電灯を照らしながら、池のまわりを、ぐるっと回ってみましたが、青く光る人間のすがたなんて、どこにもありません。

 夜光怪人は、かってに、じぶんのからだの光を消すことはできないでしょうから、池の中にいれば、かならず見えるはずです。

 おとうさんと書生とは、なお、そのへんの木立ちの中を、よくしらべましたが、べつにあやしいこともありませんでした。

「一郎、おまえは少年探偵団なんかにはいっているので、いつも夜光怪人のことばかり考えている。それで、まぼろしを見たんだよ。もう探偵のまねなんか、よすんだね。」

 おとうさんは、そういって、一郎君をたしなめました。

 しかし、あれがまぼろしだったのでしょうか。一郎君は、どうしても、そうは思えないのです。すきとおった池の水の中に、ゆらゆらゆれながら、青く光る人間がよこたわっていました。目と口だけがまっ赤な、人間です。

 一郎君は、その美しさをわすれることができません。そのばんは、水の中によこたわっている夜光怪人の夢を見ました。おきていても、ふと目をつぶると、まぶたのうらに、あの青い人間の姿が、スウッと浮かんでくるのです。

 そのあくる日は、空が黒雲(くろぐも)にとざされた、うす暗い日でした。

 一郎君が学校から帰って、おとうさんの書斎へはいっていきますと、おとうさんはデスクの前に立って、ゾウッとしたような顔で、壁のだんろを見つめていました。その書斎は、窓が小さくて、うす暗い広い洋室でした。

 一郎君も、おもわずそのだんろに目をやりました。いまは火をもやしていないだんろのおくに、青いまるいものが、ぶらさがっていました。

 青く光るまるいものに、三つのまっ赤なところがあります。

 なんだか、えたいのしれないものでした。

 アッ、夜光怪人だッ!

 一郎君は、やっとそこへ気がつきました。怪人の顔が、だんろの中にさかさまにさがって、口が上になり、目が下になっていたので、えたいのしれないものに見えたのです。

 おとうさんも一郎君も、それが夜光怪人とわかると、立ちすくんだまま身動きもできません。

 目はくぎづけになったように、じーっとだんろの中の怪物を見つめているのです。

 すると怪物は、スウッと、だんろの煙突のほうへあがっていって、見えなくなってしまいました。

 おとうさんと一郎君は、やっと、じゅ文をとかれたみたいに、からだが動くようになりましたので、すぐに、だんろのそばへいって、中に首をつっこむようにして、上をのぞいてみました。

 だが、ぜんたいにまっ暗で、青く光るものなど、どこにも見えないのでした。

「やっぱり、一郎のいったことは、ほんとうだった。夜光怪人は、このうちを、ねらいはじめたんだ。」

 おとうさんは、そういって、じっと一郎君の顔を見るのでした。

「ねえ、おとうさん、やっぱり明智先生にたのみましょうよ。ね、いいでしょう。」

 一郎君は、少年探偵団員ですから、明智探偵が、いちばんえらいと思っているのです。

「うん、すぐに明智先生に電話をかけて、きていただこう。むろん警察にも知らせるけれども、まず明智先生に相談してからだ。」

 おとうさんは、そこの卓上電話のダイヤルをまわして、明智探偵事務所を呼びだしました。

「明智先生はおいでになりますか。」

「おでかけになっています。きょうは、お帰りがおそいかもしれません。」

「ああ、そうですか。で、あなたは、どなたです?」

「ぼく、助手の小林です。」

「おお、小林君ですか。わたしは上山というものですが、至急、ご相談したいことがあるのです。明智先生がおいでにならなければ、あなた、きてくれませんか。あなたのてがら話は、ずいぶん聞かされていますよ。あなたなら信用します。ぜひ、きてください。」

「いったい、どんなご用件なのですか。」

「夜光怪人です!」

 上山さんは、受話器に口をつけるようにして、ささやき声でいいました。

「エッ、夜光怪人ですって?」

 小林少年のびっくりした声。

「そうです。あいつが、わたしのうちにあらわれたのです。わたしのもっている美術品を、ねらっているにちがいありません。」

「では、すぐにまいります。住所をおしえてください。」

 そこで上山さんは、住所をくわしくおしえたあとで、つけくわえました。

「チンピラ隊のポケット小僧というのが有名ですね。あの子もいっしょに、つれてきてくださると、ありがたいのですがね。わたしは、あの子にも、いちどあいたいと思っていたのですよ。」

「ああ、ポケット君ですか。しょうちしました。つれていきますよ。あの子は、ぼくのかたうでですからね。」

 小林少年は、じまんらしく答えるのでした。

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