夜光人間

27話 古井戸の底

3,281字 約7分 2018年7月15日 公開

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 それから一時間ほどのち、上山さんの書斎で、上山さんと、一郎君と、小林少年と、ポケット小僧の四人が、テーブルをかこんで腰かけていました。もう日がくれて、書斎には電灯がついているのです。

 窓はぜんぶしめきって、ドアには中からかぎをかけ、壁のだんろの前には、さっきの書生が棍棒(こんぼう)を手にして、立ち番をしていました。そこから夜光怪人が、はいってくるといけないからです。

「やつらがねらっているものを、見ておいてもらいましょう。あの金庫に入れてあるのです。いまわたしが、それを出して、ここへ持ってくるから待っててください。」

 上山さんは、そういって、いすから立ちあがると、部屋のすみの小型金庫の前へいって、からだでかくすようにしてダイヤルをまわし、扉をあけて、むらさきのふくさにつつんだ小さいものをとりだし、テーブルにもどってきました。

 そして、むらさきのふくさをひらきますと、中から二十センチほどの、ほそながいきりの箱が出てきました。

「さあ見てください。これがわたしのうちの家宝です。むかし中国からわたってきたもので、ヒスイばかりを組みあわせてつくった三重の塔です。」

 そういって、きりの箱の中から、それをとりだして、テーブルの上に立てて見せるのでした。

 黒っぽい緑色の、つやつやとした、かわいらしい三重の塔です。高さは十五センチほどしかありません。

「きみたちには、この値うちはわからないだろうが、千万円もする美術品です。夜光怪人は、さいしょに推古仏をぬすみ、二どめには白玉の小仏像をうばい、そして、こんどは、このヒスイの塔をねらっているのです。みんなふるい東洋の美術品ばかりです。あいつは、そういうものを集めようとしているらしい。」

 上山さんは説明をおわると、ヒスイの塔をきり箱に入れ、ふくさでつつんで、もとの金庫におさめました。

「このダイヤルの暗号は、わたしのほかには、だれも知らないのです。いくら夜光怪人でも、その金庫をひらくことはできませんよ。」

 上山さんは、もとの席にもどって、自信ありげにいうのでした。

 そのときです。

「アッ!」

と叫んで、小林少年が、いすから立ちあがりました。そして、むこうの窓を見つめています。

 みんなが、そのほうを見ました。

 窓ガラスのすぐむこうがわに、夜光の首が、さかさまに、さがっているではありませんか。

 まっ赤な口が上になり、まっ赤な目が下についています。二階からぶらさがって、顔だけで、窓の上のほうからのぞいているのです。

「よしッ、ピストルで、うちころしてやる。」

 上山さんは、デスクのところへ走っていって、そのひきだしからピストルをとりだすと、いきなり窓の首にむかって、ひきがねをひきました。

 ガチャンと恐ろしい音がして、窓ガラスがわれ、そこに大きな穴があきましたが、夜光の首は、スウッと上のほうへかくれてしまって、べつに、きずついたようすもありません。

 部屋の中の四人は、身動きもしないで立ちつくしていました。

 そのとき、

「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ……。」

という、あやしい鳥のなき声のようなものが聞こえてきました。

「アッ、あすこだッ!」

 小林君が叫びました。

 まっ暗な庭の木立ちのあいだを、夜光の首が、飛んでいるのです。首ばかりでなく、胴体もついているのでしょうが、それは、黒いシャツでかくされていて見えないのです。首ばかりが、宙を飛んでいるように見えるのです。青く光る顔、まっ赤な目、火を吹きそうなまっ赤な口、その首が、「ここまでおいで。」といわぬばかりに、ふわりふわりと、闇の中をただよっていくのです。

「ちくしょうめ! からかっているんだな。よしッ、ひっとらえてやるぞ。みんなも、ついてきたまえ。」

 上山さんは、いきなり窓をひらくと、まっ暗な庭へとびだしていきました。手には、さっきのピストルをにぎっています。

 小林君も、ポケット小僧も、一郎君も、書生も、つぎつぎと窓をのりこして、はだしで庭におり、上山さんのあとにつづきました。

 夜光の首は、「ケ、ケ、ケ、ケ……。」という、あのあやしい笑い声をたてながら、ふわふわと、むこうへ逃げていきます。

 上山さんは、どこまでも追っかけていきます。三人の少年と書生も、夢中になって走るのです。

 木立ちのあいだを、あちこちとくぐりながら、とうとう、庭のはずれまできてしまいました。そこは、つき山のうしろのくさむらで、水のかれた古井戸のあるところです。

 夜光の首は、その古井戸の上を、しばらくただよっていましたが、やがて、地面の中へ、スウッと消えていってしまいました。

「アッ、古井戸の中へはいった。もう、ふくろのねずみだぞッ。」

 上山さんは、そうどなって、古井戸に近づき、中をのぞきこみました。

 深い井戸の底に、夜光の首がうごめいているのが見えます。

 小林少年も、ポケット小僧も、こけのはえた井戸がわにとりついて、中をのぞいています。

 上山さんは、いきなり上着をぬいで、シャツとズボン下だけになりました。

「きみたちは、ここに待っていたまえ。わたしはおりていって、あいつをつかまえてやる。この井戸の内がわは石がけになっているから、それに足をかけて、おりられるのだ。」

 上山さんは、そういって、もう古井戸の中へすがたを消してしまいました。

 一郎君は、おとうさんが、こんな大胆な人だとは知りませんでした。いつものおとうさんと、まるで、人がかわってしまったようです。

「おおい、井戸の底に、よこ穴がある。あいつは、そのよこ穴へ逃げこんでしまった。だれか、うちへいって、縄をさがして持ってきてくれたまえ。それをつたって、きみたちも、ここへおりてくるんだ。」

 井戸の底から、上山さんの声がひびいてきました。

「縄をさがさなくても、少年探偵団のきぬ糸の縄ばしごを持っています。それで、いま、おりていきます。」

 小林君は、腰にまいていた長いきぬひもをほどいて、そのはしについている鉄のかぎを、井戸がわにひっかけ、ひもを井戸の中にたらしました。そのきぬひもには、三十センチおきに、まるいむすび玉がついていて、それに足の指をかけておりるようになっているのです。

「ぼくと、ポケット小僧だけ、おりていきます。一郎さんは、あぶないから、そこに待っていらっしゃい。書生さん、番をしててください。」

 そういいのこして小林君は、もう井戸の中へはいっていきました。小林君が下へおりるのを待って、ポケット小僧も、きぬひもをつたうのです。

 小林君が、水のない井戸の底に、おりたときには、上山さんは、もうよこ穴に、はいっていきました。

「ここだよ。石をくんだトンネルのようなものができている。いつのまに、こんなよこ穴ができたのか、わたしは、すこしも知らなかった。あいつは、このおくへ逃げこんでいった。追いつめて、ひっとらえてやろう。なあに、わたしはピストルを持っているから、だいじょうぶだよ。きみたちも、あとから、ついてきたまえ。」

「ええ、ぼくと、ポケット小僧だけついていきます。それから、ぼくたちふたりとも、万年筆型の懐中電灯を持っているのですよ。これをおかししますから、照らしながら進んでください。」

 小林君はそういって、ポケットから、探偵七つ道具のひとつの万年筆型懐中電灯をとりだし、上山さんにわたすのでした。

 よこ穴は、やっと、おとながはって通れるほどの広さでした。上山さんは右手にピストル、左手に懐中電灯をかざしながら、ぐんぐん、奥のほうへはっていきます。小林君とポケット小僧も、それにつづきました。

 ポケット小僧も、万年筆型懐中電灯をとりだして、照らしましたので、あたりは、ぼんやりと明るくなり、よこ穴の石ぐみが見えてきました。

 せまいよこ穴がつきると、そこに、広い洞窟(どうくつ)がありました。立って手をのばしても、天井にさわらないほど広いのです。

「おどろいたなあ。わたしのうちに、こんな地下道ができているなんて、思いもよらなかった。それにしても、なんのために、こんなものをつくったのかなあ。」

 上山さんが、あきれかえって、つぶやきました。

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