19話 知恵の勝利
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「えっ、なんだって?」
「ぼくが勝ったのですよ。黄金のトラを盗みだしてしまったのですよ。」
「おい、おい、でたらめも、いいかげんにしたまえ。きみは、このろうやから、一歩も出られなかったじゃないか。ろうやにいて、どうして、トラが盗みだせるんだ?」
「それじゃ、おじさんが、かくした場所をあらためてごらんなさい。黄金のトラがあるか、ないか。」
小林君の自信たっぷりな口ぶりに、魔法博士も心配になってきました。そこで、いそいで二階の書斎へいって、百科辞典のトの部をぬき出して、ひらいてみました。
「あっ!」
ページの穴のなかは、からっぽでした。
博士は、そのままろうやにかけもどって、小林君をにらみつけました。
「小林君、きみはじつにふしぎな子どもだ。いったい、どうして、あれを盗みだしたんだ。」
すると小林君は、すまして、こたえました。
「ネズミですよ。」
「えっ? ネズミとは?」
さすがの博士も、あっけにとられるばかりです。
小林君は、にこにこして説明しました。
「このろうやの床のすみに、レンガのこわれたところがあって、そこからネズミがはいってくるのです。その穴のおくへ手をいれて、さぐって見ますと、地面の下のほうに、いまは使われなくなっている下水の土管がのこっていて、そのわれめから、ネズミが出てくることがわかりました。
ぼくは、昼間、その穴へ耳をあててみました。すると、へいの外の子どもたちの声が、はっきり聞こえてくるのです。そこで、地面の下のふるい土管は、へいの外の空地までつづいて、そこに口をひらいているにちがいないと、考えたのです。
それから、ぼくは、ひまにまかせて、ネズミを手なずけることを、はじめました。
パンをたべのこしておいて、それをえさにして、手なずけたのです。三日めには、ネズミがぼくになれて、ひざにはいあがったり、手をなめたりするようになりました。なぜそんなことをしたかというと、ネズミを使って、へいの外と通信をするためなのです。ぼくはじぶんの毛糸のシャツをほぐして、ながい糸を取りだし、それをネズミの足にまきつけて、穴のなかへ、おいやったのです。」
小林君は、持っていた手帳の紙に鉛筆で手紙を書き、それをおりたたんで、おもてに「これをひろった人は、すぐ麹町六番町十二番地の木村正雄君に届けてください。そうすれば木村君が、たくさんおれいをくれます。」と書いて、毛糸のはじにくくりつけ、それをネズミの足に、グルグルまきつけて、はなしてやったのです。ネズミは土管をつたって、へいの外へ出ます。
そして、ひろっぱのどこかで、足にまいた毛糸がとけて、手紙が地面に落ちるわけです。二度ほど、しっぱいしましたが、三度めに、うまくいきました。ひろっぱで遊んでいる子どもが、その手紙を見つけて、木村君に届けてくれたのです。木村君というのは、少年探偵団員のなかで、いちばんかしこい子どもです。木村君はすぐに、このへいの外へ来てくれました。
木村君への手紙には、「へいの外へ来て、毛糸のはじをさがせ。見つかったら、それに、じょうぶな長いひもを結びつけて、ピン、ピン、ピンと、三度ひっぱれ。」と書いてあったのです。木村君は、そのとおりにしました。それをあいずに、ろうやのなかの小林君は、毛糸をたぐりよせ、それにつづいている、じょうぶなひもをにぎると、両方で、そのはじをもって、通信をはじめたのです。
少年探偵団員は、みんな電信のモールス信号のうちかたを知っていました。それで、ろうやのなかの小林君と、へいの外の木村君とは、そのひもをモールス信号でひっぱって、話しあったのです。そして、小林君のさしずにしたがって、木村君が博士の西洋館にしのびこみ、書斎の百科辞典のなかから、黄金のトラを盗みだしたのです。
小林君が、説明をおわりますと、魔法博士は、ひざをたたいて感心しました。
「えらいっ! おとなもおよばぬ知恵だっ。わしの負けだよ。黄金のトラは、少年探偵団のものだ。なお、ねんのために、わしから明智探偵に電話をかけることにしよう。少年探偵団が勝ちました。おめでとうと、いっておくよ。」
それから数時間ののち、明智探偵事務所の前に、にこにこ顔の明智探偵と、十数名の少年探偵団員が立ちならんで待ちかまえていました。そこへ、もとの学生服にかえった小林少年と、木村少年とが、手をひきあって、もどってきました。
「少年探偵団ばんざーい、小林団長ばんざーい。」
少年たちは、いっせいに、両手をあげて、声をかぎりにさけぶのでした。