8話 あっ、ひもが切れた
読み方を変える
ノロちゃんをおどろかせた怪物は、バタバタと、てんじょうを飛びまわってから、サーッと、どこかへ、いってしまいました。
「なあんだ、あれ、コウモリだよ。怪物じゃないよ。」
井上君は、おかしそうに、いいました。
「ハハハ……、ノロちゃんの声のほうが、よっぽど、こわかったよ。コウモリは、なんにもしやしないよ。」
それから、また、おくへ、おくへと進んでいきますと、岩穴が、だんだんせまくなり、いきどまりになってしまいました。
「あらっ、これで、おしまいかしら。せまいんだなあ。」
「そうじゃないよ。ごらん、あそこに、岩のわれめの小さい穴があるだろう。あそこから、はってはいるんだよ。
ぼくのにいさんが、そういってたよ。にいさんは、まえに、ここへ来たことがあるんだ。」
水野という少年が、岩のわれめをゆびさして、いうのです。そこで、小林団長が、さきにたって、みんな、よつんばいになって、その小さな穴にはいっていきました。
「ワーッ、なんだか、ぼくの首へ落ちてきたよ。ヘビだよ。はやく、はやくとって……。」
さけんだのは、やっぱりノロちゃんでした。うしろにいた少年が、いそいで、ノロちゃんの首をなでてみました。
「なあんだ、水じゃないか。上から水がしたたり落ちたんだよ。ノロちゃんの弱虫!」
「そうかあ。いやにつめたいと思ったよ。」
ノロちゃんは、やみのなかで、ペロッとしたを出しました。
よつんばいになって、七―八メートルも進むと、パッと、あたりが広くなりました。もう、立って歩けるのです。みんなが、広い穴へ出ると、三つの懐中電灯で、グルッと、てらしてみました。
「あっ、枝道だよ。ふたつにわかれている。どっちへ、いったらいいのだろう。」
「さきに、広いほうへ、いってみよう。」
小林団長が、進む道をきめました。
その広いほうの穴を、すこしいきますと、どこからか、ゴーッ、ゴーッという、ぶきみな音が聞こえてくるではありませんか。みんな立ちどまって、「なんだろう?」「なんだろう?」と、ささやきかわしました。
「あっ、わかった。地底の川だよ。ほら、そこに大きな岩のさけめがある。その下のほうに、水がながれているんだよ。その水の音だよ。」
はば一メートル半もある、大きな岩のさけめが、どうくつをよこぎっていました。懐中電灯で、そのなかをてらしても、あまり深いのでなにも見えませんが、その底に水がながれているらしく、ゴーッ、ゴーッという音が聞こえ、つめたい風が吹きあがってきます。
みんなが、その深い穴を、のぞいていますと、岩のさけめの下のほうから、懐中電灯の光のなかへ、なにか大きな鳥のようなものが、フワフワと浮きあがってきました。あっとおもうまに、それが、どうくつのやみのなかへ消えていくと、また、底のほうから、ネズミ色の大きなやつが、いくつも、いくつも、浮きあがってくるのです。
「おどろくことはないよ。コウモリだよ。」
岩のさけめのなかに、たくさんのコウモリがすんでいたのです。それが、懐中電灯の光におどろいて、飛びだしてきたのです。
「さあ、みんな、こんなものに、かまっていないで、もっとおくへ、進むんだ。」
小林団長が、命令しました。
「だって、この岩のさけめは、とても、とびこせないよ。底が見えないほど、深いんだもの。」
「とびこさなくてもいいよ。よくごらん。ここに橋がかけてあるじゃないか。」
見ると、一まいの長い板が、岩のさけめに渡してありました。少年たちは、ひとりずつ、それを渡って、おくへ進みます。しばらくいくと、また、道がふたつにわかれていました。小林団長は、右がわの穴へ進むことにしました。
十人の少年たちは、懐中電灯であたりをてらし、どこかに、黄金のトラがかくしてないかと、二十の目を光らせていましたが、まだなにも発見できません。
それから、たびたび、枝道にぶつかりました。小林団長は、いつも、右へ右へと進んでいきます。おそろしい迷路です。道しるべのひもがなかったら、とても、入口へもどることはできません。
そのとき、うしろのほうで、「あっ。」という声がしたので、みんな、びっくりして、懐中電灯を、そのほうにむけました。すると、そこに井上一郎君が、たおれていたではありませんか。
「だいじょうぶかい? けがはしなかった?」
「うん、だいじょうぶ。岩につまずいたんだよ。」
感心なことに、井上君はころんでも、あのひもの玉を、しっかりだきしめていました。
しばらく進みますと、また、うしろのほうから、
「あっ、しまったっ。」
という声が、聞こえました。やっぱり井上君です。
「どうしたの? また、ころんだのかい?」
「そうじゃないよ。たいへんなことを、しちゃった!」
「えっ、たいへんなことって?」
「さっき、ころんだとき、道しるべのひもが、切れちゃったんだよ。」
「えっ、きみの持ってるひもが?」
「うん、ひっぱると、てごたえがなくて、ズルズルたぐりよせられるんだ。とちゅうで切れたんだよ。ほら、こんなにみじかくなってるよ。」
ひもは、その切れたところまで、すっかり、たぐりよせられていました。
みんなは、おどろいて、井上君のまわりに集まりました。
「それじゃ、道しるべが、なくなってしまったんだね。」
「ぼくらは、もう帰れなくなったんだね。」
ノロちゃんは、ベソをかいています。ノロちゃんばかりではありません。みんな心配で、胸がドキドキしてきました。