仮面の恐怖王

24話 がんばる力

3,669字 約7分 2018年1月15日 公開

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「じゃあ、あっちのほうの土を、ほってみようか。ずっとまえにおちたんだから、もう、かわいているかもしれない。」

「うん。やってみよう。そのほかに、たすかるみちはないよ。」

 そこで、小林君は、古いほうの落盤のところへいって、両手で土をとりのけてみました。そんなにかたくない土ですから、なんとかして、手でほることができます。

 くさった材木の柱が、ななめにたおれて、土にうずまっていますが、その下の土をほっても、それ以上たおれてくるようすはありません。なにかにつかえて、動かなくなっているのです。第二の落盤がおこるしんぱいはないようです。

 小林君は両手で土をすくいだして、五十センチぐらいのあなをつくりました。すくいだした土をうしろにおしやると、ポケット小僧がその土を、じゃまにならない場所にはこぶのです。

 ふたりはまっくらな中で、せっせとはたらきました。懐中電灯は電池をけんやくするために、消してしまっていたのです。

 そのうちに小林君は指のつめのあいだに土がくいこんで、いたくてたまらなくなってきました。

「おい、きみ、ちょっと、かわってくれよ。なにか、ほるものをさがすから。」

 そういって、ポケット小僧にかわってもらって、そのあいだに懐中電灯をつけて、あたりを見まわしました。

「あっ、あった。これがいい。」

 三角形のひらべったい石です。それを土の中からほりおこして、つかってみますと、けっこう、シャベルのかわりになることがわかりました。

 この石のシャベルをみつけてから、きゅうに仕事がはかどって、土をほりだしたあなが、だんだんふかくなり、やがて、せまいあなの中にもぐりこんで、仕事をしなければならなくなりました。くるしい仕事です。そんなにかたくない土ではありましたが、一メートルあまりほりすすむと、すっかりくたびれてしまいました。

「きみ、ひとりでやってては、とてもくたびれてだめだよ。交替制にしよう。ぼくときみとで、かわりあって、ほる役をやるんだよ。」

 ひとりがほれば、もうひとりは、その土をあなのそとに、はこびだすのです。三十回土をはこびだしたら、交替ときめました。そして、また、いっしょうけんめいに仕事をつづけるのでした。

「ねえ、小林さん、こんなに苦心してここをぬけだしても、このむこうがわがどうなっているか、わからないね。」

 ポケット小僧がくらやみの中で、土をはこびながら話しかけてきました。

「うん、そりゃあ、そうさ。」

「もし、これからさきのあなが、ぜんぶうずまってたら、どうする? ほっても、ほっても、どこへも出られないじゃないか。」

「そりゃあ、そうだよ。」

「もし、むこうのあなが、ふさがっていないとしてもね、そのあなを歩いていくと、つきあたりになってしまうんじゃないだろうか。おれたちは、どっちにしたって、たすからないのかもしれないぜ。」

 ポケット小僧は、べそをかくような声でいいました。

「おい、おい、いくじのないこというんじゃないよ。ぼくは、いろんな冒険談を読んだけどね、こういうときにはしんぼう強くがんばるのが、いちばんだいじなんだ。あくまで、がんばりぬくんだよ。そうすれば、ひとりでに、運がひらけてくることがある。神さまがたすけてくださるんだ。

 もうだめだなんて、あきらめてしまったら、おしまいだよ。神さまだって、そんなよわむしは、たすけてくれやしない。ね、ポケット君、がんばるんだよ。がんばりさえすれば、きっといいことがあるよ。」

 ところが、小林君が、がんばれ、がんばれといって、はりきったので、とんでもないことが、おこってしまいました。

 二メートルもほりすすんだときです。土の中にあるくさった柱がじゃまになるので、それをとりのけようとして、ぐっとひっぱったかとおもうと、ダダダダ……と音がして、そこの土が小林君の頭の上から、くずれおちてきました。そして腰から上のほうが、ぜんぶうずまってしまったのです。

「う、う、う、……。」

と、いいましたが、さけぶことも、どうすることもできません。顔がびっしり土につつまれてしまって、さけぶどころか、息をすることもできないのです。このまま、ほうっておけば、死んでしまいます。

 ポケット小僧は大きなものおとにびっくりして、懐中電灯をつけて、あなのおくをてらしてみました。

 小林団長の両足が、くるしそうに、もがいています。頭のほうは土にかくれて見えません。

「わっ、たいへんだっ。」

 ポケット小僧は、いきなり両手で小林君の足をつかんで、エンヤラ、エンヤラ、ひっぱりだそうとしました。

 土が重いので、なかなかうごきません。でも、大すきな小林団長が死んだらたいへんですから、ポケット小僧は顔をまっかにして、しんぼう強く足をひっぱりつづけるのでした。

 土にうずまっている小林君にも、それがわかりましたので、土の中で、両手を力まかせに動かして、からだをうしろへずらすようにしました。

 こうして、ふたりの力があわさったので、小林君のからだは一センチずつ、一センチずつ、土の中からぬけだすことができました。

 しかし、それには、ながい、がまん強い努力をつづけなければなりませんでした。ほんとうに、一センチずつ、一センチずつです。からだをぜんぶ、ひきだすまでには、ずいぶん時間がかかりました。

「ああ、ひどいめにあった。」

 小林君はどろだらけになった顔をハンカチでふきながら、ハアハアと、肩で息をしています。よほどくるしかったのでしょう。

「いったい、どうしたっていうの。」

 ポケット小僧が、懐中電灯で団長のみじめな顔をてらしながら、たずねました。

「ぼくがいけなかったんだよ。ほっていくと、土の中に木の棒がじゃましていたので、力まかせに、ひっぱりだそうとしたんだ。そのはずみに、上から土がおちてきたんだよ。落盤というほど大きな土くずれじゃないけどね。これからは、気をつけてほるよ。」

「じゃあ、まだ、ほるつもりかい、こんなことがあっても。」

 ポケット小僧は、小林君の勇気におどろいているのです。

「もちろんだよ。こうなったら、運を天にまかすのだ。そして、人間の力で、できるかぎりのことをやってみるんだ。さいごまでがんばるんだよ。」

 ふたりは、しばらくやすんでから、また、あなの中にはいりました。小林君は懐中電灯で、さっきくずれたところをしらべていましたが、

「だいじょうぶだよ。上のほうに、もう一本、材木が横になっていて、これはビクとも動かない。その下をほれば、あぶないことはないよ。」

といって、さっそく仕事をはじめるのでした。

 やっぱり、交替をして、かわるがわる、ほるのですが、それからの、ふたりのはたらきは、じつにめざましいものでした。ゆっくりしていたら、酸素がなくなって、死んでしまうのですから、いそがないわけにはいきません。

 もう、真夜中でした。腕時計を見ると、一時になっていました。

 ポケット小僧も、よくはたらきました。小林君は、小僧のがんばりのきくのに、すっかり、おどろいてしまったほどです。

 もう、あなのふかさが三メートルをこしていました。しかし、このくるしい仕事は、いったい、いつまでつづくのでしょう。もう、腕も、肩も、腰もしびれたようになって、いうことをきかないのです。ふたりは、ときどきあなの外へでて、やすみました。そして、しびれた腕や肩をさすって、力をとりもどすのでした。

 ポケット小僧は、もう、すこしもぐちをいいません。死ぬまでほりつづけるのだと決心しているようでした。

 それから、ふたりはまた、あなの中へはいって、仕事をはじめました。そしてシャベルがわりの平べったい石で、三度か四度、土をすくいだしたときです。

 ぐっと石をおすと、なんの手ごたえもなく、石がむこうへぬけてしまったではありませんか。

 そこに、ポッカリとあながあいたのです。そのあなから、つめたい、おいしい空気がサーッとながれこんできたではありませんか。

 小林君はドキンとして、懐中電灯で、そのあなの外をのぞいてみました。

「あっ、とうとう、つきぬけたぞっ。」

 おどりあがるような、さけび声でした。

 あなの外には、ひろいほらあなが、ずっとむこうまで、つづいていたのです。ふたりのがんばる力で、あつい落盤の壁をうちぬいてしまったのです。

 さっき、小林君がいったとおり、神さまはさいごまでがんばるものの味方でした。

 ふたりは、つきぬけたあなを大きくほりひろげて、そこから、おくのひろいあなへ、はいだしました。

 しかし、これで、ほんとうに、たすかったのでしょうか。このあなが、また、どこかで、いきどまりになっていたら、どうすればいいのでしょう。

 やがて、懐中電灯の電池がつきてしまうにきまっています。そうすれば、まったくのくらやみの中を手さぐりで、さまよわなければならないのです。

「小林さん、ぼくたち、たすかるだろうか。ひょっとしたら、このまま生きうめになってしまうんじゃないだろうか。」

 ポケット小僧が、また、べそをかくような声を出しました。

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