相撲の稽古

3話 三、四股や掛声

512字 約1分 2023年10月11日 公開

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 木戸を入ると地べたを掘り炉を拵へて一行幹部の年寄達が廻り(あた)つてる。大錦君は検査役入間川の側へ割り込むや早速鹿爪らしい議論を始めた。稽古の催促すると大錦君が気の毒さうに『実は巡業中の風紀に関する問題が起つたので一寸手を離せぬ誰か代りにさせますから』と小常陸(こひたち)君と若者頭雷ヶ浦とを呼んで自分を引渡した。二人は自分を不動堂の庫裡(くり)へ連れ込み締込みをさせて呉れた。『上州の空つ風つてそりやあ寒うごアすぜ』とシヤツと股引を着た上普通の取的は五まはりで済むうんさい(纏し)を七廻りしてあとはだらりと尻へ垂らす。いゝ形ぢや無いその儘土俵に引出された。雷ヶ浦は角技の精通者芝居道に於ける新十郎といふ格だ新弟子を扱ふ事にかけてこの上は無いといふ人。傍で仕方を示し教へる。土俵にしやがんで塵を切り、両手で開き掌の裏表を敵手に示すは種も仕掛けも(ござ)らぬといふ意進んで砂を両腋に塗り、四股を踏む。上体は真つ直にして足だけ高くあげよ。眼は一間先の土俵を見よ。砂を蹴る気持ちで脚を踏み下す時必ず足(さき)よりせよ、踵は不可、踏んだ拍子に『ハツシー』といへ云々。夫が中々巧く行かないので散々繰返す。此時既に場内に満員の高崎の角狂連怪訝な顔をしてそろそろ湧き始めた。

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