4話 四、三人相撲
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見物の声として『芝居の鼠イ! しつかり頼むぞ』といふのがある。シヤツと股引の縫ぐるみに締込みの尾を垂らし居る自分に対しての評である。又『小常陸イ、助太刀も遣つちまへ』といふのがある。雷ヶ浦を自分の助太刀と認めての評である聞えるかして向ひ合ふ小常陸君の臍がクツ/\笑ふ、誠に気が入らぬ。仕切り方は愈々以て難かしい。腰を割つて膝に力を入れる。両掌は軽く軽く握り広からず狭からず地に置く。顎を思ひ切つて引き、額越しに敵の眼を見る。素人は眼玉の筋が延びて無いから見えぬ。慣れると伊勢関の様なお出額でも額越に見える。関取に打突るを鉄砲と称して居る。相撲道の言葉に『押さば押せ引かば押せ押すに手段なし』とあり押し方一つだ『両肘を堅く両脇につける。隙くものは常に小石を挟んで慣らす、足並よく進んで額を関取の右肩へ持つて行く。』と以上右の実際を雷ヶ浦は小常陸君と協力して予の身体の上に施した。自分は雷ヶ浦の力で木偶の如く取扱はれ最後に頭を小常陸君の右肩へトント打突けられた。頭は暫く肉の中に埋まり頓て弾ね返される時呼吸をすつかり切らした。兎に角これ丈けでも独立して出来る迄には半年以上かゝる。鉄砲の卒業は三段目以上がと聞いて打切りにした。小常陸君の部屋で昼飯を喰ふ。御馳走は葱鮪だ。国ヶ岩君が香を嚊つけて『一杯饗んで呉れ』と入つて来た。『これぢや食へんからのう』と差出す賄の上には塩鮭が一切れ佗しく戴つてあつた。