地球盗難

11話 外国船の秘密

2,200字 約4分 2010年10月30日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

 大隅学士は直ぐに佐々記者と仲よしになった。(もっと)も佐々のような押しの太い人間は、いくら振り離そうとしても用のある間は決して離れてくれないことは確だった。

 佐々記者はなかなか熱心に根掘り葉掘り質問をするので、まもなくこの村の事件に関する大抵(たいてい)のことは知られてしまった。しかし彼は賢明だったから直ぐに本社へ通信を送るようなことはしなかった。他社ではこの事件にまだ気がついていないから、その間はむしろ沈黙を守り、そして事件の内容を出来るだけみっちり仕入れておく方が得策であることを知っていた。

 そんなわけで、佐々記者は記事を取るばかりではなく、今では大隅学士を大いに手助けして一日も早くこの事件の解決を図ろうと決心したのだった。彼は学士の為に、自分の知っているいろいろな知識を貸して与えた。

「大隅さん、いよいよ今日の十一時だ。さあそこにある受話器で、よく聞いているんだよ」

 そういうと佐々記者はアタフタと、宿を飛び出していった。大隅学士は腕時計を見た。あと十五分で、その午前十一時となるのであった。彼の元気な友人は、今しも村の助役である古花甚平(ふるはなじんぺい)のところへ出掛けたのだった。古花といえば、失踪(しっそう)した武夫少年が調査依頼した三つの突飛(とっぴ)な質問の一つに関係がある人物だった。つまり古花甚平こそは、丁度今から一年程前、この矢追村の沖合に停泊した外国汽船に臨時に雇われ、その汽船のために何か用事を果たした人物だった。(ほか)にも二名の男がいたが、一人は既に病死し、他の一人は武夫の父親であるがこれは行方不明になっていて、今では当時の事情を知る唯一の村人だったのである。大隅学士は古花甚平に逢って、いろいろ訊ね出そうとしたが、彼は説明の出来ない恐怖のためどうしても口を開かなかった。()くてはこの第一問は遂に知ることが出来ないこととなり、第二の問題の方に懸かろうかと思っていたが、これを知った佐々記者は、そんなことは何でもないことで自分が喋らせてみるから一寸(ちょっと)(まか)せるようにと申し出た。そこで佐々の計画というのを聞いてみると彼は習い覚えた催眠術を古花甚平に懸けて、そして例の秘密を喋らせようというのだ。同時に佐々は彼の得意中の得意とする私設電話術、別名盗聴法を活躍させ、宿にいながらにして大隅学士に甚平の喋っているところを聴かせようというのであった。尤もそれは電話技術を心得ている者ならば何でもないことだった。つまり甚平を呼びよせた室には額の裏かなんかにマイクロフォンを置き、それから出た二本の電線をラジオの発振機に(つな)ぎそれから更に電話線に持っていって接ぐ。すると高周波の電流は電話線を伝わって走るから、そこで大隅学士の宿の前を走る電話線から別に二本の支線を接ぎ、それを学士の室まで引張り込んでラジオ受信機に入れてやれば、それで甚平の話はすっかり聞えるわけだった。それは明かに通信法の違反であったけれど、佐々記者はそんなこととは知らなかったのである。

 盗聴の用意は万端(ばんたん)できあがった。

 午前十一時という時刻になると、学士は受信機のスイッチをひねって、高声器から出てくる話し声を待った。やがて待っていた佐々記者の元気な声と、古花甚平の眠むそうな声とが入り交って聞えてきた。もう甚平は、すっかり佐々記者の魔術に懸っているらしい。学士は彼の何者にも頓着(とんじゃく)しない悪達者な腕前に三歎(さんたん)するより外なかった。

「……すると、沖についた白い汽船は、どこの船だか国籍が分らなかったというのだネ。碧眼(へきがん)の船長は何を君たちに頼んだのか、それを思い出してみなさい」

「……(とう)()んだ四斗樽(よんとだる)よりまだ少し大きい籠を三個陸揚げすることを頼まれたなア。持ち上げようとすると、それは何が入っているのか三人でやっと上るほどの重さじゃった。……」

「そうだ。そこでボートに乗せて、海岸まで(はこ)んでいったね。船長も一緒について来たね。それから三つの(とう)(かご)を、どうしたんだったかネ」

「……海岸の暗闇の中には、誰か手提電灯を持って立っていた者があった。近づいてきたのを見ると、それは辻川博士じゃった」

「えッ、辻川博士!」と佐々記者は声を()んだ。

「うん、辻川博士だったネ。それから?」

「辻川博士は何か分らぬ異人語で船長と話をしていたが、相談がまとまったものと見え、その三つの籠をわし等に(かつ)がせて、山麓の博士の家へ持ちこませたことじゃった」

「そうだそうだ。そこで取引は済んだのだ。それからどうした……」

「それからわし等は、一室に入れられてたいへん御馳走になって、たんまり金を貰った。しかし用事はまだ残っていたのじゃ。わし等がたらふく腹を(ふく)らませて無駄話をしていると、さあこの籠をもう一度船までもっていってくれというのじゃ。それからわし等は、また三つの籠を担ぎあげた。ところが奇体なことに、二つの籠は軽くて中が(から)っぽだと分ったが、もう一つの籠はズッシリと重いのじゃ。そして肩に担ぎあげていると、どうも変な具合じゃ。あれは何が入っていたのじゃろうかどうも()に落ちん。……」

 といって甚平は額から脂汗を流しながら、ふと押し黙った。佐々記者は()かさず、

「実に変なものだったネ、あれは……。しかし後で三人で話し合ったところでは……」

「そうじゃ、……話し合ったところでは、どうもこの籠の中には、何か生き物が入っているのじゃないかと……」そこまで喋ると、どうしたのか甚平の面には突如としてひどい苦悶の色が浮かんできた。

目次に戻る

目次