地球盗難

18話 地下道の俘囚

1,522字 約3分 2010年10月30日 公開

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 博士は不意を喰って、その場に一メートルほども飛び上った。佐々は佐々で、思いがけない失敗に、ひどく狼狽(ろうばい)の色を現した。

 そうなると、どっちも五分と五分だった。

「貴様ア……」

「ウヌ、何者かア……」

 二人は(にら)みあったまま、ジリジリと双方から近づいていった。大隅は手術台の上で、いまこそ脱出の好期とばかりに、手足をいろいろと引張ってみたが、どうしてどうして、動かばこそ……。

 佐々は身を沈めて、つと拳銃を拾いあげようとした。途端(とたん)(すき)見出(みいだ)したか、辻川博士は飢えたる狼のように、佐々の上に飛びかかった。

「痛いイ……」

 悲鳴をあげたのは佐々の方だった。

「ウヌ。助け……」

 声が出なくなった佐々は、博士のために遂に利腕(ききうで)を逆にとられて、床の上にお辞儀をしたような恰好になった。ヒイヒイ云っている彼の右耳からは、赤い血がタラタラと流れている様子だ。辻川博士が犬の様に佐々の耳に噛みついたらしかった。

()しからぬ奴どもだ。岩蔵は何をしているんだろう」

 佐々を縛りあげてしまうと、博士は頬を(ふく)らませて、憤慨(ふんがい)の言葉をはいた。

「ああ痛い。……あの男なら、僕がさっき楽に寝かせて置いたよ。少くとも僕の今の場合よりも、もっと丁寧に取扱ってある。それになんだ。これは……。博士、もっと綱をゆるめてくれんか」

 博士はそれを聞くと、窓のところによって、外を見た。そしてチェッと舌打をした。

 門脇の小屋から、岩蔵を助けだしてくるまでに十分ほどの時間が流れた。この間、大隅と佐々とは、(むな)しい悲憤を語りあったに過ぎなかった。

 義足をつけた岩蔵の姿を見たとき、二人の不安はますます深くなった。一体博士はこの男を使って何をさせようというのだろう。

 ところが、この男は、佐々の足の(いまし)めを()いて、床上に立ち上らせた。それから大隅学士の方にも、同じような自由を与えるかと思って待っていたが、そうはしなかった。彼は大きい失望に暮れた。

「さあ、向うへ歩け。……」

 義足の男は、佐々の身体を向うへ突きとばした。俘囚(とりこ)というものが、いかに惨めなものであるかということを、二人の盟友は別々に同じ事を感じ合った。向うへつれてゆかれるのは自分だけだと知って、佐々は大隅の方に別れを眼でつたえた。

 ――なアに、(なげ)くな!

 大隅はそういうつもりで、目に物を云わせた。

 佐々はエレヴェーターに乗せられた。岩蔵だけかと思っていたら、辻川博士も一緒にきた。やがてエレヴェーターはゴーッと下に下っていったが、エレヴェーターの停ったのは、地階だった。彼は死刑囚のように、外に引張りだされた。

おれをどうしようというのだい」

「黙って、歩け!」

 岩蔵は憎々しげに、佐々の腰のあたりをドーンとついた。(しゃべ)るだけ損がゆくようなものだった。

 三人は地下道に入った。天井こそ低いが、まるで中ソ国境の名物トーチカの内部のように頑丈にできていた。乾燥した涼しい風がどこからともなく吹いてきて、いい気持だった。だが地下道の行方は何処であろうか。

 長い地下道を千メートルぢかくも行ったころ、通路は急に広くなった。見廻すと、そこは倉庫らしく、大きな鉄扉(てっぴ)が六つほど並んで居り、その上には1とか2とか、いちいち番号がうってあった。何を入れてある倉庫だろう?

 博士は一人先に立って、鉄扉4の前に行った。そしてなにかガチャガチャやっていたと思うと、鉄扉はしずかに左右に開きはじめた。そして中から現れてきたものは何だったであろうか。――大きな爆弾のような恰好をしたものがギッシリ(つま)っていた。だがそれは爆弾ではなかった。ロケットB18号――と、鋼鉄の上に白いエナメルでもって書き綴られていた。

 ああロケット。なぜ佐々はロケット室の前に引張って来られたのであろうか。

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