地球盗難

31話 怪しきドクトル

1,860字 約4分 2010年10月30日 公開

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「ドクトル、シュワルツコッフ?」

 と、大隅学士は、岩蔵の顔を見詰(みつ)めて、問い返した。

「そうです。シュワルツコッフです」

 と、岩蔵はドキマギしている。

「辻川博士がいないことを云ったかネ」

「ええ、云いましたよ。するてえと、ちょっと愕いた顔をして、はるばる来たものだから、休憩させてくれというのでさあ」

「君はなぜ、本館の方へ行ったんだ」

「えッ、それは……それは何です。ドクトルが、もう一度、博士の部屋をよく見て来てくれ、もしかすると帰っていられるかも知れんから……というのです。それで私は、本館へ行って、博士を探してみたんですが、矢張(やは)り見えやしません。それだけのことですよ」

 岩蔵は、そういってホッと溜息をついた。

 大隅理学士は、それを聞いて、心の中に或る疑惑を持った。だがそれは面には出さず、それでは辻川博士に代って、シュワルツコッフに逢ってみようといった。岩蔵は(うなず)いて、門の外に立っているドクトルを連れに行った。

「おお、わたくし、ドクトル・シュワルツコッフです。ドクトル辻川いない。残念です。彼、何処へ行きましたか」

 と、大隅の前に立ったのは、鬚面(ひげづら)に黒眼鏡を掛け、やや肥満せる身体を白い麻の洋服に包み、形のいいヘルメット帽子を被っている紳士だった。

 大隅は博士の不在を説明してドクトルを本館に案内していった。

 ドクトルは、応接室に入ると、疲労を訴えた。そして暫くそこで睡眠を取らせては呉れまいかと云うのであった。

 大隅はそれを承知した。そして目覚めたら呼んでくれるようにと、ベルの位置を教えてその室を出ていった。

 大隅は、そこを出ると、三部屋ほど向うにある辻川博士の書斎の(ドア)を開いて、中に入った。

 大隅は、一人になると、武夫の父の殺害事件のことにつき、静かに考え始めた。あれは全く不思議な殺人事件である。誰も部屋には入って来ないのに、一瞬間の出来事で、ズバリと殺されてしまった。そして音もなく、額と手の甲に見る見る大きな穴を明けていったあの恐ろしい殺人法は、一体なんであったろうか。彼は(いま)だかつて、そのように奇怪な殺人手段を知らなかった。

「……どうも、何となく殺人光線くさいところがある。だが、殺人光線は具体化することが不可能だといわれている。もし殺人光線を使ったとすると、それは余程恐ろしい奴に違いない」

 誰が殺人光線を持っているのだろう。

「そうだ。……あの怪ドクトルかも知れない」

 そうは思ったものの、折ふし来会せたドクトルが、なぜあのような重傷者を話途中にして殺害する必要があったのだろうか。特殊事情があるにしても、()に落ちない。第一何処に隠しているか知らないが、ドクトルの身辺には、ただ洋杖(ステッキ)があるばかりで、それらしいものを外に発見することが出来なかった。

 大隅がそんなことを思い続けているところへ、廊下に微かに跫音(あしおと)が聞えてきて、やがてそれが部屋の前で、バタリと停った。

(誰?)

 と、大隅は咄嗟(とっさ)に椅子の上から立ち上った。そして彼は身を(ひるがえ)してカーテンの蔭に、身を隠し、ソッと入口の方を(うかが)った。

 すると、扉が音もなく開いて、そこからヌーッと出て来た黒眼鏡に鬚だらけの顔(……おお、やはり、ドクトル、シュワルツコッフだ)太い洋杖(ステッキ)を持ったドクトルは、用心深い眼を光らせ、忍び足で室内に入ってきた。

(何をするつもりだろう)

 ドクトルは、暫く四周(あたり)を見廻していた。

 そのうちに、彼は壁際に並んでいる辻川博士の厳重な書類戸棚の前に近より、そしてその鉄扉に手を懸けて、ウンウン引張った。しかし鉄扉はビクとも動かなかった。

 ドクトルは観念したものか、今度は大きな机のところに寄って、上から二段目の抽出を開き、その中をしきりと探しはじめた。

(ハテナ)

 と、大隅学士はカーテンの蔭から、首を振った。ドクトルは辻川博士の机の抽出の内容まで知っているらしく思われる。やがてドクトルは、抽出から手を引いた。そして困ったという顔をした。大隅学士は、もう出るに出られなかった。それは出ない方がよかった。もし出ようものなら、彼の生命はなかったかも知れない。

 怪しきドクトルは、再び鋼鉄製の戸棚の前に立った。そして暫く考えこんでいたが、やがて何思ったものか持っていた洋杖を扉の方にズーッと差し出した。その洋杖の石附(いしづき)が、扉の鍵穴に向けてジワジワと延びていった。ドクトルはまるで作りつけの人形のように動かない。

 すると怪しいかな、突然眼もくらむような青白い光点が、扉の上に現れた。それはジージーと微かな音を立てて見る見るうちに横に小さい円を描いて伸びていった。

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