海底大陸

15話 船底からのなげき

1,244字 約2分 2013年5月17日 公開

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「本船の機関が爆破するかもしれんとは、どういうわけだッ」

 事務長は棒立ちになってさけんだ。

「それは、こういうわけなんだ」

 と、シリンが半泣きの声で説明するところによると、機関部では、どういうわけかわからぬが、皆がトロトロと居ねむりをしてしまったこと、それから後になって目をさましてみると、たれもかれも、ことごとく目が見えなくなっているのがわかったこと、そんなわけだから、いま機関部員は、ただ日ごろの熟練(じゅくれん)によって、目は見えないが、手さぐりによって、この精巧なクイーン・メリー号の機関をかろうじてあやつっていること、したがって、メーターもゲージもよめないので、いつまで安全に機関を運転しつづけられるかわからない、きっと、操縦はどこかに大きなむりをつくって、恐るべき機関の爆破が起こるかもわからないというのだった。

「今の今まで、わがメリー号は眼が見えない者ばかりの手で運転されていたのか。そいつは全くあきれたはなしだ」

「ねえ、事務長。どうして皆がそろいもそろって眼が見えなくなったんだろうネ」

「どうもよくわからない。実はこっちも皆、眼が見えないんだ。わたしやマルラはもちろん、船客たちも眼が見えないといってさわいでいる。しかしほんとうに眼が見えなくなったのか、それともひどい濃霧(のうむ)につつまれたのか、それはどっちかわからない」

「濃霧じゃないと思うね」

 と、機関長シリンは反対した。

「でも、すこし、あかりは見えるような気がするんだよ。物の形はいっこうに見えないがネ。なんだかこう、豆スープの中にはいったように、まッ黄いろなあかるさを感じるんだが……」

「こっちはまっくらさ」

 とシリンははきだすようにいったが、きゅうに声をふるわせて、

「――事務長、とにかくこれは大異変だよ。ぼくたちは、もう運転の自信を失ってしまったんだ。もう総辞職だ。しかも英国につかないうちに、魚の腹のなかにはいってしまうだろう、ああ」

 事務長も、それをなぐさめるすべを知らなかった。でも今はろうばいしているときではない。異変があるとすれば、極力(きょくりょく)しっかり気をおちつけて、そこを切りぬける工夫をしなければならないのだ。そう思った事務長は、声をはげまして、機関長シリンをしかりつけた。

「いや、しかられてもしかたがない。しかし、ぼくはもう力がないんだ」

「力がないなんてことはないよ。きかなくなったのは、たかが眼だけのことじゃないか。ほかにまだ手もあり足もあり、脳もあれば耳もあり、鼻もある。――そうだ、きみのところは何かくさくはないか」

 と、事務長はふと気がついて、れいのいやな臭気(しゅうき)についてたずねてみた。

「くさい? いや、別になんにもくさくはないが、それがどうしたのかネ」

「なに、そっちはくさくないのか。それはふしぎだ。船室や甲板一たいには異様な臭気がただよっていて、じつにへいこうしているのだ。機関部がくさくないとは全くふしぎだ。するとこれは、やっぱり海霧(ガス)につつまれているとしか思えない。だが、そのガスも尋常(じんじょう)いちようのガスではない――」

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