23話 怪物見ゆ
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非常汽笛がヒョウヒョウと鳴り終ると、それに入れかわって高声器が働きだしたらしく、ゴソゴソと雑音がひびいてきた。
「ああ、ただいま右舷二千メートル附近に、怪しき浮游物が見えまァす」
怪しき浮游物が?
いったいなんであろう。
乗組員も乗客も、われがちに舷側からのびあがって右舷二千メートルかなたを見やると、なるほど白く波立った海面に、見えつかくれつして動いている一個の怪物体があった。
「うむ、見える見える。赤だの青だの、なんだかゴチャゴチャした色をしているから、ハッキリ形はわからないが、これはれいのラスキン大尉が名をつけたという『鉄水母』ではないのかなァ」
と、望遠鏡の中をしきりにのぞいている高級船員がいった。
「なに、鉄水母だって。それはたいへんだ。おい、ちょっとその望遠鏡をこっちへかせ」
わあわあというさわぎのうちに、船橋に立っているエバン船長は、ただちにその鉄水母らしきものを全速力で追跡しろと命令した。
船の機関は、たちまちごうごうと鳴りだした。あわだった海面が飛ぶように後に移動していく。船体はいまにも爆破しそうにブルブルとうなる。
「うん、見えるぞ見えるぞ。なんだか、眼玉のようなものが二つ、ぐるぐるまわっているぞ」
「おや、大砲みたいなものが出てきたぞ、あぶないッ」
と、いっているとき、パッと白煙が鉄水母の上にあがったと思う間もなく、ドーンと爆音が起こった。とたんに、ヒューとうなって飛びきたった黒いなわのような物――。
そいつがキリキリキリと、ルゾン号の積荷用のほばしらにからみついた。
「あッ、あんなところへひっかかったぞ」
「何だ、何だろう、あれは――」
ひとりの勇敢な船員が飛ぶようにほばしらの方へかけだした。そして、ほばしらの根もとのところへ行って、やッとかけ声をすると、これにだきついた。そしてスルスルと柱の上にのぼりはじめたのであった。
見る見るうちに、かれは、そのからみついたなわのようなものを手につかんだ。やっぱりなわであった。なわの両方にはおもりがついていた。それは、さわったものにまきついてグルグルとからみつくしかけのものであった。
それを、船橋に立って、この場の光景を見下ろしていたエバン船長とスミス警部のところにもってきたのを見ると、船長は急にあお白な顔になり、
「うむ、これはめずらしい通信なわだ。むかしスペインの海賊が使ったものだというが、どれ、そのおもりをひらいてみたまえ」
「えッ、スペインの海賊ですって」