36話 うしろの怪敵
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そうはいったが、クーパーは口ほどあわてているわけではなかった。かれのまゆのあたりには、強いかくごのほどが見えてきた。
「ねえ、パイクソン。ぼくたちは、しばらく、おどろくことをやめようじゃないか」
「おどろくことをやめるって、どうするんだ」
「うむ。われわれは、たいへんふしぎな場所へ来ているようだが、今いちいちおどろいたんでは、いつまでたっても、ここから生きかえる方法が見つからないだろう。もうこれからはおどろくのをやめて、何とかして抜けだす方法を考えることにしよう」
「うむ、それはいいことをいってくれた。じゃぼくも、これからは何を見ようとおどろかないぞ」
事務長と一等運転士の間に、かたい申し合わせができた。マルラもふるえながら、それにさんせいした。
「じゃあ、パイクソン。一つ考えてくれ。あの透明なかべは、いったいなんだろう」
「さあ、なんだか一こうわからないが、とにかくわれわれはへんなところにとじこめられていることはたしかだ。よおし、あのかべがなんであるか、それをためすのにいい方法がある」
「いい方法というと」
「うん、ぼくがこれからやることを見ていたまえ」
パイクソンは自分の室へいったが、やがて手に一ちょうの銃をもって引きかえしてきた。
「おお、そんなものでどうするんだ」
「これであの透明なかべをうってみるんだ。どんな手ごたえがあるか、それを見ようじゃないか」
「おい、パイクソン。それはいい考えだとは思うが、すこし手あらすぎはしないかな」
クーパーは、さすがに心配げである。
「なあに、うまく行かなければ、どうせ、もともとだ。まあ見ておれ」
パイクソンは銃をかまえると、その透明なかべをめがけて、どどん、どどんと銃丸を発射した。
銃声は、あたりにこだまして、うわーンとものすごいひびきを発した。
硝煙が晴れるのを待って、三人はいま射撃した透明のかべがどんなになったであろうかと、その方をながめた。
「おや、どうもなっていないぜ」
「ガラスまどのようにこわれるかと思ったのに、どこも、こわれてやしない」
「なんと、はりあいのないこと!」
と三人は声を合わせてさけんだが、それはすこし早計であった。
なぜなら、そのとき三人の眼が、もしも、うしろがわの舷にそそがれていたなら、かれらはきっとその場にとびあがったかもしれない。ちょうどそのとき、舷のそとから、まるでクラゲに大きな二つの眼をつけたような前代未聞の怪物が、無慮四、五十ぴきも、そろりそろりと船の上にはいあがってきて、うしろ向きになっている三人の男の方へ、そっと近づいてきたのである。