35話 怪しき浮きドック
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船内には、こうこうと電灯がかがやきだした。すると、今まで見えなかったものが、急にはっきり見えだした。モルフィス博士の薬でもって、やっと東の空が白みかけたくらいの明かるさになり、こんどは電気主任が発電機をまわして電灯をつけたので、太陽が地平線に落ちた直後くらいの、そうとうの明かるさになった。
光りほど、人間に元気をつけるものはない。
たれもかれも、見ちがえるように元気づいてきた。
クーパーは、眼の見えだした船員に命令をくだして、至急に船内をくまなく見てまわり、そして、故障か異状のあるところをしらべて報告するようにいった。
そうしておいて、かれは一等運転士パイクソンや秘書マルラとつれだって、甲板へ出た。かれはなによりも、船のそとの風景を見たかったのである。
ところが、舷へ出てみると、大きなおどろきが三人を待っていた。
「おや、やっぱり海がないじゃないか」
「えっ、海がないとは、――」
三人は舷ごしに、海のない空間を見た。
水準線から下の赤ペンキをぬった船腹がはっきりと見られた。まるで浮きドックにはいっているようなかっこうだった。
「これはおどろいた。いったい、ここはどこだろう」
と、マルラはぶるぶるふるえながら叫んだ。
クーパーは双眼鏡をとって、ずっと前方を見ていたが、かれの顔色は、だんだんと青くなっていった。
「うむ、奇怪なこともあればあるものだ。ねえ、パイクソン。ここから二百メートルほどむこうを双眼鏡でよくみてごらん。たしかにかべみたいなものが見える。もっともそのかべは透明なんだが、それでもかべであることにはまちがいない」
「なに、透明のかべが見えるって。どれ、――」
パイクソンも双眼鏡を眼にあててみて、同じように顔色をかえた。
「おお、クーパー。ぼくたちはとんでもないところへ来ているぞ。海のない、透明なかべの中! ここは天国か地獄かのどっちかではないかね」
「うむ、すくなくとも天国ではない。なぜって、こんなくさい天国があるとは、聖書に書いてなかったからね」
この会話を聞いていたマルラは、急にふたりにしがみついた。
「うあ、うへーっ。すると、わ、わしたちはもう死んでしまったんですかねえ。もう二度と生きかえれないものですかねえ。グラスゴーには、わしのにょうぼうと三人の子供が、おみやげをもってかえるのを待っているんです」
クーパーは、このかわいそうな男の頭をしずかになでながら、
「ああ、これが天国か地獄かのどっちかであった方が、どの位いいかしれないよ。もしもこれが、そのどっちでもなくて、やっぱり生きている世界のつづきだったとしたら、このあまりのふしぎさは、ぼくの気を変にしてしまうだろう」
「……」