海底大陸

42話 あッ潜望鏡!

2,503字 約5分 2013年5月17日 公開

読み方を変える
字の大きさ
行の間隔
1行の長さ
書体
配色
組み方

「やあ、長良川博士。いよいよ現場にちかづきましたよ」

 と、エバン船長がそばをかえりみた。

「なるほど。いま、そのあたりへさしかかっているのですね」

 博士は長いひげを指さきでつまみながら、海図をのぞきこんでいる。ここは船橋(せんきょう)だ。

 三千夫少年は、じぶんの身のたけよりも長い望遠鏡にかじりついて、海面をしきりにさがしている。

「おやっ、へんだぞ」

 少年は叫んだ。

「どうした、三千夫君」

 とエバン船長は、まっかな童顔(どうがん)を少年の方によせてくる。

「これをごらんなさい。潜望鏡が波間に浮いていますよ」

「なに潜望鏡が――」

 エバン船長がのぞいてみると、なるほど波間に、たしかに潜望鏡の頭が浮かんで、つつーっと小さい波をたてている。

「ほう、これが見えれば、きみは一人前の海員だ。――しかしこれはたいへん。おい、戦闘準備!」

 ルゾン号はいつの間にか、こんどは武装をしていた。そういえば、カバーでつつまれたみょうなものが甲板のあちこちにある。その形から推して、大砲のようなものもあり、対空砲(たいくうほう)のようなものもある。これではりっぱな仮装巡洋艦(かそうじゅんようかん)だ。

 甲板上のあちこちで大きな号令の声がする。すべったのかと思うように敏速(びんそく)に走っていく水夫たち。カバーがとられて、二門の砲が現われた。そして砲口は一転して、右舷(うげん)はるかの海上にねらいをさだめた。

 今にもいんいんたる砲声がとどろき、硝煙がしだいに波立つ海上にひろがっていきそうである。戦闘の前の、息づまるような緊張だった。

 そのとき、潜望鏡は、だんだん海面にのび上がってきた。

 大胆不敵なやつ!

 そう思っているうちに、いよいよ船体をあらわして、ルゾン号の舷側(げんそく)まぢかにぽかりとうかびあがったのを見れば、これぞ英国海軍が海賊艇とよんでにくんでいる「鉄水母(てつくらげ)」潜水艇だった。

 エバン船長は双眼鏡を目にあてたまま、船橋に棒立ちになっている。

 砲手たちは、船長の号令とともに、大砲の引き金をひくつもりで、及び腰になっている。

 そのとき、船長がさっと高く片手をあげた。

 いよいよ、うち方はじめの号令か。

「おうい。うっちゃならん。しばらくうっちゃならん。『鉄水母』がこっちへ信号しているぞ」

 謎の潜水艇「鉄水母」が、ルゾン号を呼んでいるというのだ。怪光線を出して飛行機をなやましたりする海賊艇が、ルゾン号になんの用があるというのだ。

「おい、うつな、うつな」

 とエバン船長はしきりにとめている。

 そばでは、長良川博士がおちつきはらって、しきりに双眼鏡のピントをあわせている。

「ほう、たいへんなことをいってきやがった。――おい信号旗を出せ。〔返事をするからしばらく待ってくれ〕と、出してくれ」

 さすがのエバン船長も、「鉄水母」の信号におどろいている顔つきだ。

「船長、むこうは何をいってきたんですか」

 と、長良川博士が声をかけた。

「おお、長良川博士さん。えらいことになりました。むこうにいるあの潜水艇は、かねてお話しておいた『鉄水母』なんですよ」

「ほう、『鉄水母』とはあれですか。これはめずらしい。そんなら、もっとよく見るんじゃった」

 と博士は双眼鏡をとりなおす。

「長良川さん。見るのは後でよろしい。それよりも、たいへんなことをいってきているんです」

 と船長は、日ごろににあわず、あわてている。

「ほほう、それは一たいなにごとですかい」

「こういうのです。――むこうの艇に三人ばかり乗せる余裕があるから、わしをはじめ、長良川博士、ほかに、たれかもうひとりというところで、こっちへ乗りうつらないかというのです。そうすれば、メリー号の沈んでいる海底へ案内するというのです」

 エバン船長はしゃべりながら、自分のいっていることにおどろいている。それもむりではない。謎の潜水艇「鉄水母」からの招待なのである。なにが気味わるいといって、これほど気味のわるいものがあろうか。ところは大西洋のまっただなか、そして豪華船クイーン・メリー号の遭難した現場附近だ。しかも、まねく相手が、なんと「鉄水母」である。

「そりゃ願ってもない幸いだ。わしは乗せてもらいましょう」

 と長良川博士はすぐこたえた。

「ええっ、あなたはおいでになりますか」

「あなたはどうじゃの」

「わしはだめです。船長が船を下りることはゆるされていません」

 と船長は首をふった。そしてあらためて博士の落ち着いた顔をしげしげと見つめ、

「やはりあなたは学者ですなあ。学問のためには危険をかえりみられない」

「では、あとのふたりはだれにするかなあ」

 すると、そばに話をきいていた三千夫少年が、待っていましたとばかりに、

「博士。ぼくをぜひ連れてってください。ぼくはメリー号にいる仲間にはやくあいたいのです」

 と、熱心を(おもて)に見せていった。

「そうだねえ、三千夫君。きみならわしといっしょにゆく資格があるようだ」

 ふたりはきまった。では、のこるひとりをだれにきめるか。

 そこへ昇降口から、ドン助教授がいそぎ足でとびこんできた。

「長良川博士。あなたが『鉄水母』に乗られるのでしたら、わたしもおともをしましょう。あなたと共に研究するように命じられてきたのですから、わたしがルゾン号にのこっていることは意味がありません」

 ドン助教授の話は、ちゃんと筋道(すじみち)が立っている。

「よろしい。いっしょに来てください。しかし生命(せいめい)のことは、わしは責任をおいかねますよ。そもそもあの『鉄水母』というのが、科学的にも奇怪きわまる存在なんでね」

 三人はいよいよしたくをして、舷門からおりていった。赤皮のトランクが一つおともをしている。これには博士の手まわり品がはいっている。

 三人をのせたモーター・ボートは、本船をはなれて「鉄水母」の方へすすんでいった。

 エバン船長の目には、三人が「鉄水母」の甲板に乗りうつったのが見えた。すると、まるい鉄ぶたがぽかんとあいた。三人はその中にはいっていった。「鉄水母」の人はすがたをあらわさない。ふたがしまると、怪潜水艇はそのまま、ずぶずぶと海中にしずみはじめた。そして五分もたたないうちに、怪艇「鉄水母」のすがたはまったく見えなくなった。

 長良川博士、ドン助教授、三千夫少年の三名は、これからどうなる?

目次に戻る

目次