42話 あッ潜望鏡!
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「やあ、長良川博士。いよいよ現場にちかづきましたよ」
と、エバン船長がそばをかえりみた。
「なるほど。いま、そのあたりへさしかかっているのですね」
博士は長いひげを指さきでつまみながら、海図をのぞきこんでいる。ここは船橋だ。
三千夫少年は、じぶんの身のたけよりも長い望遠鏡にかじりついて、海面をしきりにさがしている。
「おやっ、へんだぞ」
少年は叫んだ。
「どうした、三千夫君」
とエバン船長は、まっかな童顔を少年の方によせてくる。
「これをごらんなさい。潜望鏡が波間に浮いていますよ」
「なに潜望鏡が――」
エバン船長がのぞいてみると、なるほど波間に、たしかに潜望鏡の頭が浮かんで、つつーっと小さい波をたてている。
「ほう、これが見えれば、きみは一人前の海員だ。――しかしこれはたいへん。おい、戦闘準備!」
ルゾン号はいつの間にか、こんどは武装をしていた。そういえば、カバーでつつまれたみょうなものが甲板のあちこちにある。その形から推して、大砲のようなものもあり、対空砲のようなものもある。これではりっぱな仮装巡洋艦だ。
甲板上のあちこちで大きな号令の声がする。すべったのかと思うように敏速に走っていく水夫たち。カバーがとられて、二門の砲が現われた。そして砲口は一転して、右舷はるかの海上にねらいをさだめた。
今にもいんいんたる砲声がとどろき、硝煙がしだいに波立つ海上にひろがっていきそうである。戦闘の前の、息づまるような緊張だった。
そのとき、潜望鏡は、だんだん海面にのび上がってきた。
大胆不敵なやつ!
そう思っているうちに、いよいよ船体をあらわして、ルゾン号の舷側まぢかにぽかりとうかびあがったのを見れば、これぞ英国海軍が海賊艇とよんでにくんでいる「鉄水母」潜水艇だった。
エバン船長は双眼鏡を目にあてたまま、船橋に棒立ちになっている。
砲手たちは、船長の号令とともに、大砲の引き金をひくつもりで、及び腰になっている。
そのとき、船長がさっと高く片手をあげた。
いよいよ、うち方はじめの号令か。
「おうい。うっちゃならん。しばらくうっちゃならん。『鉄水母』がこっちへ信号しているぞ」
謎の潜水艇「鉄水母」が、ルゾン号を呼んでいるというのだ。怪光線を出して飛行機をなやましたりする海賊艇が、ルゾン号になんの用があるというのだ。
「おい、うつな、うつな」
とエバン船長はしきりにとめている。
そばでは、長良川博士がおちつきはらって、しきりに双眼鏡のピントをあわせている。
「ほう、たいへんなことをいってきやがった。――おい信号旗を出せ。〔返事をするからしばらく待ってくれ〕と、出してくれ」
さすがのエバン船長も、「鉄水母」の信号におどろいている顔つきだ。
「船長、むこうは何をいってきたんですか」
と、長良川博士が声をかけた。
「おお、長良川博士さん。えらいことになりました。むこうにいるあの潜水艇は、かねてお話しておいた『鉄水母』なんですよ」
「ほう、『鉄水母』とはあれですか。これはめずらしい。そんなら、もっとよく見るんじゃった」
と博士は双眼鏡をとりなおす。
「長良川さん。見るのは後でよろしい。それよりも、たいへんなことをいってきているんです」
と船長は、日ごろににあわず、あわてている。
「ほほう、それは一たいなにごとですかい」
「こういうのです。――むこうの艇に三人ばかり乗せる余裕があるから、わしをはじめ、長良川博士、ほかに、たれかもうひとりというところで、こっちへ乗りうつらないかというのです。そうすれば、メリー号の沈んでいる海底へ案内するというのです」
エバン船長はしゃべりながら、自分のいっていることにおどろいている。それもむりではない。謎の潜水艇「鉄水母」からの招待なのである。なにが気味わるいといって、これほど気味のわるいものがあろうか。ところは大西洋のまっただなか、そして豪華船クイーン・メリー号の遭難した現場附近だ。しかも、まねく相手が、なんと「鉄水母」である。
「そりゃ願ってもない幸いだ。わしは乗せてもらいましょう」
と長良川博士はすぐこたえた。
「ええっ、あなたはおいでになりますか」
「あなたはどうじゃの」
「わしはだめです。船長が船を下りることはゆるされていません」
と船長は首をふった。そしてあらためて博士の落ち着いた顔をしげしげと見つめ、
「やはりあなたは学者ですなあ。学問のためには危険をかえりみられない」
「では、あとのふたりはだれにするかなあ」
すると、そばに話をきいていた三千夫少年が、待っていましたとばかりに、
「博士。ぼくをぜひ連れてってください。ぼくはメリー号にいる仲間にはやくあいたいのです」
と、熱心を面に見せていった。
「そうだねえ、三千夫君。きみならわしといっしょにゆく資格があるようだ」
ふたりはきまった。では、のこるひとりをだれにきめるか。
そこへ昇降口から、ドン助教授がいそぎ足でとびこんできた。
「長良川博士。あなたが『鉄水母』に乗られるのでしたら、わたしもおともをしましょう。あなたと共に研究するように命じられてきたのですから、わたしがルゾン号にのこっていることは意味がありません」
ドン助教授の話は、ちゃんと筋道が立っている。
「よろしい。いっしょに来てください。しかし生命のことは、わしは責任をおいかねますよ。そもそもあの『鉄水母』というのが、科学的にも奇怪きわまる存在なんでね」
三人はいよいよしたくをして、舷門からおりていった。赤皮のトランクが一つおともをしている。これには博士の手まわり品がはいっている。
三人をのせたモーター・ボートは、本船をはなれて「鉄水母」の方へすすんでいった。
エバン船長の目には、三人が「鉄水母」の甲板に乗りうつったのが見えた。すると、まるい鉄ぶたがぽかんとあいた。三人はその中にはいっていった。「鉄水母」の人はすがたをあらわさない。ふたがしまると、怪潜水艇はそのまま、ずぶずぶと海中にしずみはじめた。そして五分もたたないうちに、怪艇「鉄水母」のすがたはまったく見えなくなった。
長良川博士、ドン助教授、三千夫少年の三名は、これからどうなる?