44話 聞こえるひも
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怪物の捕虜になったクーパー事務長は、もう観念した。
かれはがんらい、たいへん頭がよく、落ちつきがあり、そして不撓不屈の紳士であった。アングロ・サクソン人種の、最もよい性質を持っているかれだった。
クイーン・メリー号が遭難してからこっちのかれのなみだぐましい奮闘ぶりには、仇敵といえども拍手をおくらずにはいられないだろう。まったくのところ、メリー号の乗組員のなかで、かれほど、しっかりしている人物はほかに見つからなかったのだから。
そのクーパーも、かれの知識ではどうにも解くことのできない水母のばけものみたいな怪物団の前にひきすえられて、まったく観念の眼を閉じた。この上、立ちあがって争ってみてもだめだと思った。
するとそのとき、一ぴきの怪物が、正面一段高いところにひかえている、やや体の大きい王さまらしい怪物――後にわかったところによれば、それがやっぱり王さまだった――となにか話をしていたが、そのうちにみょうなひもをもって、クーパーのところへやってきた。
そのひもはふしぎな形をしていた。
長いゴム管のようであって、ところどころに腸詰大のこぶがついていた。そしてその先には毛のようなふさふさしたものがついていた。
その怪物はクーパーのところにちかづき、そのひもの他のはしをとって、かれの耳のうしろにはりつけた。
するとふしぎなことがおこった。いままでがやがやといっているだけで、何をいっているやらわからなかった怪物たちの声が、急にはっきり聞きとれるようになった。声が聞こえるばかりでなく、怪物たちのいっている言葉の意味がわかるようになったのだ。
この長いひもは、海底超人国で出来た奇妙な受話器であったのだ。これさえあれば、超人語が他の生物にもわかるというたいへんふしぎな器械だった。
「どうも見るからに、あいつはみにくいかっこうをしているじゃないか。おお、気持がわるい」
「なんだか体の方々が、つっぱっていて、節のところが動くんだ。われわれみたいに、どこでも自由に動かないとみえる。どう考えても下等動物だね」
「あのふさふさしているのは、触覚のある鞭毛かと思ってはじめはびっくりしたが、そうじゃない。あれは何の用もしないものさ。いやどうもばけものみたいだなあ」
そういう声が、しきりにクーパーの耳にはいる。たれのことをいっているのかと始めは聞き流していたが、よく考えてみると、なんのことだ、その嘲笑されている当人というのが、ほかならぬクーパー自身のこととわかったから、さあ、あきれて物がいえない。
(下等動物だの、みにくいばけものだのというが、あいつらの方がよほどばけものじゃないか)
と、クーパーはふんがいしてみたが、なにしろ多勢に無勢でどうにもならない。かれらは自分たちのばけものみたいなすがたに見なれていて、はじめてみる地上の人類のすがたがへんに思えてしかたがないのであろう。
どうも情ないことになったものだ。