50話 海底超人の秘密
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王子ロロー殿下――
ロロー殿下とは、読者のまえにめずらしい名ではあったけれど、殿下の姿は、じつはこの物語の最初から、もうすでにおなじみであるのだ。
「鉄水母」という怪潜水艇が、大西洋上にしばしば姿を現わしたことがあったが、あの艇内には一人の怪人が艇をあやつっていて、ときに甲板から姿を現わしたこともあったが、あの怪人こそは、とりもなおさずこの海底大陸の王子ロロー殿下なのであった。
そう申せば、読者もきっと思いあたられることが、いろいろあるだろうと思う。
王子ロロー殿下が、なぜあんな潜水艇を手に入れたか、そしてなぜ大西洋の波間に出没したり、またルゾン号に通信したり、英国の捜査隊とたたかったか、それらのことについては、「ロロー殿下の日記」につまびらかであるが、それは今ここにことさら取りあげないことにする。しかし賢明なる読者は、もうすでに、ロロー殿下がなかなか勇敢であり、かつまた正義感に強いことを知ってられるはずだ。
一言にしていえば、ロロー殿下は海底大陸における随一のインテリでもあり、また随一の冒険児でもあったのだ。そして海底大陸とわが人類との間をむすぶ月下氷人のような役割さええんじていたのだ。ちょうど、わが人類側からの連絡使節が、長良川博士やドン助教授であったのと同じ立場にある。
だからロロー殿下は、ルゾン号に近づいて長良川博士一行をまねき、「鉄水母」に乗せて海底大陸に連れてきたというわけである。
「おお長良川博士、――」
と、博士の肩を後からたたいたものがある。
博士がふりかえってみると、れいのゴムの服を着、そして頭の上からすっぽりとマスクをかぶったロロー殿下がたっていた。
「おお、ロロー殿下。あなたをさがしていたところです。かねて艇内でお話しましたように、クイーン・メリー号と乗員たちを、すぐに海上へおもどしねがいたいですな」
「博士、そのことですよ。父アトラ王をはじめ、外務大臣のランタ以下、皆々、なかなかそれを承知しません。あのような大じかけなおとしあなをつくってせっかく捕えたクイーン・メリー号を、このままはなすのはいやだというのです」
「それはこまる。メリー号を解放して下さらないときは、きわめて心配な未来が考えられますよ。艇内でも申したように、この海底大陸対地上大陸の大戦争をひきおこすところまでいくにちがいありません。それはおたがいさまに、得のいくことではないのです。大殺戮と大乱費とのおこなわれる前に、われわれは理解しあわなければなりません。そのためには、メリー号を一時間もはやく海上へもどすことがいいのです」
「博士、こまったことに、わがアトランタニアンは、地上人類の恐るべきことをまだはっきり知らないのです」
「相手が恐ろしいということよりも、正義感からいって、さっそく、もとへもどしてやらねばなりませぬ。そうではありませんか」
長良川博士の正論の前に、ロロー殿下は、沈黙してしまった。まったくそれにちがいない。博士のいうとおりだ。しかし海底超人たちには、博士のまだ気がつかないところの、戦慄すべき、異種生物の心の中を流れる大秘密がある。そいつが今後どんなふうに爆発するか、博士は知らないのだ。ロロー殿下自身も、今そこまでは説明したくないと思っている。