53話 決心
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長良川博士、ドン助教授、それに三千夫少年の三名は、宿舎にあてられた馬小屋のような乾海藻のとこに横たわり、昼からの疲労をやすめているうちに、いつのまにか四時間は過ぎ去って、いよいよクイーン・メリー号を海上へ返還する時刻とはなった。
「長良川博士、さあ出発ですよ」
と、入口からクーパーがはいってきた。
博士は迷惑そうな顔をした。
「わたしたちがついていかないでも、あなたたちは海上へかえれるでしょうがな」
「そういわないで、ぜひいっしょについてきてください。ロロー君にも、よろしくそれをたのんでおきましたから。ああ、ちょうどいい。ロロー君もあなたをむかえにきたようですよ」
そういっているところへ、はたしてロロー殿下の大きな頭が入口からはいってきた。
「長良川博士。それから、ドンさんも三千夫君も、メリー号を海上にもどすところを見にいきましょうよ」
「わたしはここにいたいのですが」
「なぜです」
とロロー殿下は問いかえした。
「わたしたちは一刻もはやく海底大陸の研究をしたいのです」
「いや博士。わたしは鉄水母にのり、メリー号について海上までいかなければなりません。するとあなたがたを後にのこしておくことは心配ですから――はっはっはっ、心配するほどのこともありませんが、万一、物なれないわが住民たちが無礼を働くと申しわけないので、ぜひ海上までわたしといっしょにいってください。わたしといっしょにいれば、ぜったいに安全ですから」
と、ロロー殿下は、博士たちを後にのこしておきたくない気持を、はっきりと説明した。
博士もそれほどまでにいわれては、とまっているわけにもいかないので、ようやくにロロー殿下について「鉄水母」にのりこむことを承知したのであった。
午後八時――それは、大西洋上の時刻であった。ながらく海底大陸に分捕られていた巨船クイーン・メリー号はいまや奇妙なる帰還の途にのぼることとはなった。はたしていかなる方法によって、洋上に浮かびあがるのであろうか。博士も内心その浮揚作業について大きな興味をもたないでもなかったけれど、しかしその興味よりは、メリー号が多数の乗客や乗組員とともに安全に本国に帰りつくことをいのる気持のほうが大きかった。実際、この海底超人のおそるべき科学力と、そして人間の頭脳ではとうていはかることのできない超人的思想とを知っているのは、長良川博士ただひとりであったのだ。
(恐るべき海底超人族よ。そして地上の人類は、なんというのんきな生物だろう)
そういった嘆声が、今もいくたびとなく博士の胸のうちにくりかえされているのを、おそらくドン助教授も、また、その他のたれもが知らないであろう。
クイーン・メリー号は、今や洋上に出発というので、乗組員といわず、船客といわず、全部が船室の奥ふかくへおしこめられた。
クーパー事務長と、そして腰骨をしたたか打って、ながいあいだ呻吟していたメリー号の老船長のただふたりが、船橋に近い一室に連絡のためとめおかれたままで、他は全部、船底にぎゅうぎゅうづめであった。かれらのなかばは、ふたたび人間世界にかえれることをよろこび、また他の半分は、はたして無事にこの巨船が洋上に浮かびあがるだろうかと、しきりに胸をいためていた。
「さあ、いよいよ出発だ」
浮揚係の海底超人が、どんどんどんと、クーパーのいる部屋をそとからたたいて、出発の合図をした。