71話 アトランティス生物の怪
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「クイ教授の説も、かなりへんに聞こえる」
と、こんどは、れいの偉大なるはげ頭の主であるドリー助教授が、自席からとびだした。
シムトン会長は、顔をしかめた。
この老いてますます元気なドリー助教授は、きっとまた皆をばかにしたような学説をはくにちがいないのだ。
「おい、ドリー君。かんたんにきみの説をのべたまえ」
「はい、そうしましょう。――いま会長から、かんたんにのべよということでありますので、ほんとうなら、ここに臨席していられる長良川博士の前に、くわしく自説を講演し、その教えをこいたかったのでありますが、会長は結論をいそいでいられるようですから、やむを得ずかんたんにやります。えへん」
ドリー老人は、はげ頭をつるりとなでて、言葉をついだ。
「ええ、拙者はまずクイ先生の説を反駁します。先生の御説は、たいへん面白いのでありますが、ざんねんなことに、史実を無視していられる」
「なに、史実? 歴史のことかね」
とクイ教授は、耳に手をあてて、からだをのりだす。
「そうです。地球上に伝えられている歴史のことです。つまり教授の説は、机上の空論である。教授ともあろうものが、生きた史実をないがしろにして、机上の空論に終始しているというのは遺憾千万であって、そういう机上空論家なんてものは、助教授団のなかには一人もいないのである」
「これこれ、ドリー君。言葉をつつしみたまえ」
と、シムトン会長は、テーブルをたたいた。
「――つつしむつつしまないというほどの大した言葉でもないが、それじゃ、かりにクイ先生のいわれるごとく、海底において、人類とは別途に海底超人が発達したものとするも、それが今日まで一度も人類と交渉をもたなかったというのは、あまりにもとっぴではないか。もっと別の言葉でいえば、海底と海面とは海水でつづいているのである。海の上には、しょっちゅう汽船がとおっている。しかるに、かれらは未だかつて海底超人にぶつかったことがない。今度はじめてクイーン・メリー号がかれらと行きあったのである。おなじ地球において、人類とおなじ年代において、海底超人が発達したものなら、クイ先生の説は常識的にも落第ものである」
「なに、落第だと?」
クイ老教授の顔は、みるみるトマトのように赤くなった。
「そんなことよりも、はやく自説をいえ!」
と叫ぶものがある。
「うん、自説はこうじゃ」
と、ドリー助教授は、またはげ頭をつるりとなで、
「海底超人なるものは何ものぞや。諸君はまず、有史以前において大西洋の海面に存在したと、かのプラトーがとなえたアトランティス大陸が、あまたの生物とともに海底に沈んだという史実をおもい起こさねばならぬ」
「なんじゃ、アトランティス大陸だと?」
一座は急にざわついた。
「しかり。アトランティス大陸じゃ。今になっておどろいたか諸君。そんなことで生物学者といばっていられるか。アトランティス生物の怪を知らずして、どうして海底超人が論じられようぞ」
ドリー助教授は、この上ないよい気持で、じぶんの胸をぽんぽんたたいて一座を見まわしたのであった。
アトランティス生物の怪とは、そも何ごとであろうか。