73話 長良川博士立つ
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長良川博士は、ついに演壇に立った。
世界的に有名な生物学者たちは、この東洋の学者からどんな話が聞けるかと、好奇の眼を光らせる。そのなかにドリー老助教授は、まるで自分のせがれが大演説するのを皆に見せびらかしでもするときのように、鼻高々と、席から立ったり、すわったり、たいへんなはしゃぎようであった。
「おお、諸君」
と、長良川博士は、至極落ちついた口調でもって、一座にあいさつをのべたのち、
「海底超人の起源について、ただいま、いくたの興味ある御説をうかがいましたが、わたしといたしましては、さきにパリ大学においてのべましたとおり、アトランティス大陸の生物が約四千年近くの間、海面下において棲息をつづけ、そして、今日わが人類と交渉を持つようになったのであると考えています」
ヒヤヒヤと、大きな声でさけぶものがあった。それはもちろんドリー老にほかならなかった。
「わしの説とまったく同一じゃ。聞いたか、君たち」
と、いやそのうるさいこと。しかたなく、ドリー老のそばから席を他へうつす者さえできた。
長良川博士は言葉をつぎ、
「――さて、むかしアトランティス大陸に棲息していた如何なる生物が、今日の海底超人に化成したのかということにつきましては、ドリー助教授も言及をごえんりょになったようでありますが……」
と、論じ来れば、ドリー助教授は自席で目を白黒してあわてていた。じつは老学者にも、この研究問題は、まだ解けていなかったのである。
「――わたしの見ますところでは、海底超人の起源は……」
といって、長良川博士はあらためて、一座を見まわした。一堂に集まる世界の生物学者たちは、息をのんで博士の口をじっとみつめている。
「……これは、やはり、われわれ人間と同種の生物であると考えます」
そういいおわると、一座はたちまちさわがしくなった。その中に、ドリー助教授の拍手ばかりが、人をばかにしたような響きをたてて聞こえた。
長良川博士は、次の言葉をつないだ。
「――結論だけ申すと、いかにも突飛に聞こえましょうが、これは海面下に沈下する以前のアトランティス大陸の状態を知り、かつは今日の海底大陸についてくわしい視察をした後でなければ容易になっとくができませぬが、要点を申すと次のようになります。すなわち、アトランティス大陸には、当時穴居民族があったことを指摘したい。これは一種の宗教的な、そしてまた知識的な、民族でありまして、オールソ族という名がありますが、この民族は、はやくもアトランティス大陸の異変近きを予知していたものかどうかわかりませぬが、ともかくも、あの大事件以前に地下において、穴居をはじめていたのである」
長良川博士の驚くべき論理に、一座はしーんとしずまった。