74話 海底超人の正体
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博士は、そこで一段と声を高くし、
「そこへ大陸沈下が起こったのである。なにゆえにこの恐るべき沈下事件が起こったか、それについては、また興味ある事実がわかっていますが、ここには関係ないので、省略しておきましょう。とにかく大陸沈下によって、アトランティス大陸の地上にいた生物は、ほとんど全部が海水にのまれて死んでしまった。しかしオールソ族だけは、地底にあったがゆえに、この大殺戮からのがれたのである。そして、かれらの地底生活が始まった。かれらは文明的に、われらの世界から完全に絶縁されるにいたった。いかがです諸君。ご理解いただけましょうか」
一座の学者の顔には、前とちがって、たいへん深刻なしわがうかびあがってきた。肯定も否定もない。ただ、感にたえない面持であった。
「こう申せば、諸君、とうぜん、ここに一つの疑問を持たれるであろう。われわれ人間と同種の海底超人たちが、なぜ、あのようにわれわれとはちがった形体をもっているのであろうか。われわれとちがって、むしろ軟体動物にちかい肢体をもっているのはなぜか」
海底超人の軟体については、かれら生物学者は、一刻もはやくロロー殿下をはだかにしてみたいと願っていたのである。しかしそれには、ロロー殿下の身辺をまもっている長良川博士やドン助教授などがじゃまになって、かれらの慾望は早急にはとげられない事情にあった。とにかく長良川博士のこの言葉は、学者たちをして、ロロー殿下の裸身について、異常の好奇心を起こさせないではいなかった。
「その説明は、次のようにつけるのがよろしいと思う」
と、長良川博士はテーブルのまえに上半身をのりだし、きわめて荘重な口調をもって、
「海底超人は、それ以来四千年というものを、日光をもあびず、地底でくらした。そのために、かれらの肢体は、われわれ人間とはたいへんちがったものになってきたのである。いや日光ばかりではない。かれらの形体をもっといちじるしく変化せしめたものは、実に宇宙線を遮蔽して生活したことによる影響である」
「なに、宇宙線の遮蔽!」
聴き手の学者たちは、思いがけなくも、長良川博士が宇宙線の影響を持ちだしたので、はっと胸をつかれたように思った。
宇宙線! 宇宙線!
宇宙線は、天涯から地球へも飛んでくるふかしぎの放射線である。それはX線の三千倍も強い放射線であって、われわれ人間は、その好むと好まざるとにかかわらず、一分間に一万五千個の宇宙線粒子にさしつらぬかれているのだ。
この宇宙線の粒子一個を水中にはなつと、じぶんでもって水にさからって約七百メートルをさしつらぬく力がある。
海底大陸では、どうか。海底大陸は、実数はまだわからぬが、天涯から飛来する宇宙線も、ついにとどかない区域なのである。だから海底超人は、字宙線のあじを知らないで四千年近くのながい年月を経たのである。だから地上の人類とおなじような発育をするとは考えられない。
長良川博士が、海底超人が異様な肢体を持つようになった原因の一つを、かれらが宇宙線を遮蔽しての四千年近くの生活に帰したのは、けだし、まことに卓抜な意見だというべきである。
「ああ、なるほど、宇宙線の遮蔽下の成長か――うむ、これは気がつかんじゃった」
「うむ、長良川博士にたいし、われわれは心から敬意をささげずばなるまい」
一座の学者たちは、それまでの態度をすてて、われ勝ちに席をたって、長良川博士に握手をもとめるのであった。それを見て、ドリー老助教授の喜ぶ顔ったらなかった。